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死神の再就職

内容紹介
『死神の再就職』【ラクゴ・ストーリー形式】

もし死神が失業したら?

そんなストーリーをテラってみました!

死神の再就職

 私たち人間が暮らす人間界があります。
 それと同じ様に、天魔界というのがあり、
天使やら悪魔やらが暮らしております。
 彼らは時々、人間界に行って仕事をして、
また天魔界に帰ってまいります。
 その天魔界のハローワークに、ある一人の
死神が再就職の相談に来ました。

    ×    ×    ×

「はい! 四二番、私です。すんまへん――
これ、この履歴書、書いたある通りです。死
神の派遣会社、経営してましてんけど、倒産
してしまいまして。それで何か新しい仕事、
紹介して貰おう思うて来ましてん」

「死神の派遣ですか?」

「はい。私ら死神は人間に自殺さして生計立
ててますやろ。え? その死神も今は派遣が
多いんですねん。人件費削減で」

「この履歴書見たら、派遣先は人間界のニッ
ポンてなってますけど、ニッポンて人間界で
常にトップクラスの自殺大国ですよね? え
らい繁盛してたんと違うんですか?」

「はぁ。それ、そこ、小さい字で書いたぁる
んですけどね、小さい字で」

「ん? 派遣した死神が――働き過ぎて過労
死?」

「(笑い)さすが自殺大国。働きすぎで死神
が過労死やて。わや。それで皆わや。派遣登
録した死神は逃げていくわ、受け入れ先も拒
否するわで、アッちゅう間に倒産しましてん」

「あれ、お宅ですか!? えらい問題になって
た事件ですよね!?」

「いや、そんな――うちも昔はフィンランド
あたりでブイブイいわしとりましてんけどね、
最近フィンランドもアカンもんやから、ニッ
ポンに切り替えましてん。後発組ですけど、
なかなかなもんでしたんやで。バンバンさし
て。ただ一寸――一寸、かなー。一寸無理さ
したかなぁとは思いましてんけど、その派遣
してた死神が――過労死しましてん(笑い)」

「そら笑い事と違いますよ」

「はぁ。それでその、経営者の経験生かして、
どっか、取締役か何か、仕事紹介して貰えま
すか?」

「そんなのあったら私が行きたいですよ」

「おまへんか? え?」

「経験て、派遣社員を過労死させた、いう経
験ですか?」

「失礼なこと言わんといとくなはれ。私らか
て生活おまっしゃがな。え? 人間どもは知
らんけど、ホンマは命って、事故や病気で落
とすことはあっても自分で捨てることは出来
へんようになってますやんか。自殺ちゅうの
はみな私ら死神の仕事なんでっせ。え?」

「そら分かりますけど、一寸、成果主義に走
り過ぎたんと違いますか?」

「けど、こっちも苦労しますんやで。死のう
かどうしようか迷うてるのいますがな。え?
こっちはとにかく、数字上げたいねんから、
死ぬんやったら何でも願い事叶えたるで、言
いますねん。それで願い叶えてやったら、だ
んだん世の中が良うなっていって。死ぬんや
める、言われたりして」

「そんなことやってたんですか?」

「ホンマ私ら、下手な天使よりずっとええ人
でっせ。そんなん死ぬいうのに契約書もなん
もおまへんがな。え? 口約束ですわ。仮に
一人死なしても世の中がええ方に行ってしも
てるから、後々死にたいいうもんが減ったり
して。現場は苦労してますねん」

「そんなもんですか?」

「けど頑張ったもんは頑張った分だけ報酬が
貰える。そらそうでっしゃろ? 死神界でも
近頃、格差やとか言うて、労働組合なんか作
りよって。死神が労働組合やて(笑い)ドク
ロの旗持って歩いとりますねん。団結~とか
言うて。それで過労死してたら世話ないわ」

「あなたが言いなさんな」

「で、そのキャリアを生かして重役か何かで」

「キャリアて、言い方が違うだけですがな」

「おまへんか? いあや、ホンマ、自分で言
うのも何やけど私、結構やりまっせ。やり手
の経営者でっせ」

「今までの話じゃ、そうは思えませんが?」

「リーダーの値打ちて何やと思いますか?
人材の育成力でっせ! もう、どんだけ人材、
育てて来たか。バンバン。もう、これでもか
ぁ、言うぐらい。人間界のニッポン、あんだ
け自殺さしたん、はっきり言うて私らのお陰
だっせ」

「バンバン? それで過労死ですか?」

「競争激しいんですわニッポンは。どこもエ
ース級投入して来よるんですよ。うちもエー
ス――うちはエース、一人だけ違いましたん
やで。過労死したんと他にも居ましたんや。
それが出来たんは、実は私がええ教官を育て
たからですねん。ここがま、その、私が並み
の経営者やない、いうとこですな」

「なるほど。教官を育てられた?」

「はいな。これがまたベッピンの教官で。ボ
ン! キュッ! ボン! ですがなボンキュ
ッボン! うちの嫁ハンと大違いですわ。う
ちのなんかドン、ドン、パンや。(ドンパン
節を歌う)」

「誰がドンパン節なんか歌え言うたんですか
? ここはハローワークですよ。真面目に仕
事探す気あるんですか?」

「すんまへん、すんまへん」

「理由はどうあれ、過労死いうことになった
ら、どこも経営者で採用ていうのは難しいで
しょうねぇ」

「出来れば、条件として、あまり出張のない
仕事をしたいんですわ」

「そうですか。そういう相談なら出来るでし
ょう。家庭の事情も考慮しますから」

「はい――その嫁ハンですけどね――あれで
新婚当初は可愛いくて――けど私が仕事で長
いこと人間界行ってますやろ。電話して『今
日どないしてたんや?』て訊いたら『今日、
オカマさんのお店連れてってもろてん』て。
『え!? お前、この前もそんなこと言うへん
かったか!?』『あれ、ミナミの方やねん。今
日はキタの方、行って来てん。面白いねんで。
キャーッ! おひねり! 言うて、パンツん
中入れんねん』(パンツの中におひねりを入れ
る仕草をして)て。本気やがな。『パンツん
中て、お前、ワシには結婚するまでお預け、
言うとって』『何!? かめへんやないの!? 何
アンタ!? オカマさんに妬いてんの!?』『オカ
マいうたかて男やで!?』『オカマオカマ言い
な! オカマさんや!』言うて怒りよんねん。
あれからうちの家庭は無茶苦茶ですねん」

「何の話ですか?」

「ですから、幹部で何とか」

「お帰りはあちらです」

「いや、すんまへんすんまへん――でも一寸、
聞いて貰えますか?」

「何ですか!?」

「実は――嫁ハンが会社倒産したとたん別れ
てくれて言い出しよりましてですね」

「え? 何です?」

「おまけに養育費の話しだしたら登校拒否や
った息子が急に学校行く、言い出しよりまし
たんですよ。嫁ハンがそう言え、言いよった
んですわ。教育費多く取るためや、実際には
学校なんか行かんでええから、言うて。それ
で困っとりますねん――何かええ仕事おまへ
んか? CEOとか何とかいうやつで」

「その手の家庭の事情は持ち出されても困ま
るんですよ。うちはハローワークですから」

「そうですか? ――まあ、慰謝料いうても、
それなりですねんけどね。それなり、で――
代表とか相談役とかの仕事がおましたら、
ね? え?」

「あの、私の話、聞いていただいてます?」

「それに、あいつ――私があのベッピンの教
官と浮気してたんやろて疑うとりますねん。
してへん、ちゅうねん。あのもう一人のエー
スと駆落ちしよったがな。それでエースは一
人になって負担がかかって――過労死。会社
倒産。嫁ハン逃げる。登校拒否の息子が急に
学校行く言い出して養育費ドーン」

「あの、もしもし? ドーンはええけど」

「(急に大声で)何でやねん!?」

「(驚いて)!?」

「何で――何でワシだけこんな、失業せなあ
かんのや!? ええ!?」

「そんな、こっちは知りませんがな」

「そら死神は自殺さすんが仕事でっけど、ね
え? もう一寸その、貧乏神とか疫病神が頑
張ってくれとったらこんな苦労せんで良かっ
たんちゃうかなぁ、て思いまへんか? え?
あいつらがあんなんやから私らが無理せんな
らんねん。言うたら貧乏神とか疫病神は一番
バッター、二番バッターですやんか。ほんで
私ら死神がクリーンアップで後を決める。そ
れか、あいつらが先発、中継ぎで私らが抑え
でっか? そのへんチームプレイいうか、役
割ていうもんがおますがな。え? それがみ
んな、私らに負担がかかって、過労死、ちゅ
なことになってるんやおまへんか」

「あなた、いったい何が言いたいんですか?」

「そやから、その――中間管理職でも何とか」

「厳しいですな」

「そこを何とかなりまへんかいな――そのぉ、
ニッポンちゅな自殺大国で死神業やっとりま
したやろ。ほんだら、もう一生安泰や思うて
ましたんや。え? まさか死神が働き過ぎで
過労死するやなんて思いまへんがな。で、実
は保険も年金もおまへんねん。(笑い)こら
ボロい、ボロ儲けや思うて、失業保険も年金
もかけてまへんでしてん。それで――チーフ
とか主任さんとか名ばかり店長とかおまへん
か? もうここまで降りましてん。妥協いい
ますか。もうこれ以上負かりまへんで」

「あなた、ハローワークに値切りに来られた
んですか?」

「いや、そうやないんですけど――あれ、な
かったら、実は大きい仕事入ってましたんや
んか。それでつい気が大きい、なってしもて
つい、それで実は、まだありもせんのに、ね
え、ドーンと」

「ドーンと? またですか? ドーンと」

「で、ドーンと――返さなあきまへんねんわ」

「はぁ?」

「取立てに追われてますねん。何としても今
月中に返せ! 言われて。死んででも返せ、
て。私、本職の死神でっせ。その死神つかま
えて、死ねやなんて」

「その大きい仕事というのは?」

「あれですか? ――もうアカンよう、なり
ましてん。あれでしてん。一時流行りました
やろ。インターネットで集まってみんなで心
中する、ちゅう。あれ、うちが特許取っとり
ますねんで。え? けど、あのインターネッ
トちゅうのは人を死なすんもあれば生かすの
んもおまんねやな。そいつにひっかかりより
ましてん。どっかのホームページ見て――元
気になってしまいよりましてん。それで――
私も元気にさえて貰えませんやろか?」

「そら、うちではどうしょうもありませんね」

「(怒って)そうでっか! 何か、ワシ、贅沢
なこと言うとりまっか!? 分相応なこと言う
てるつもりでっせ! よう見とくんなはれ、
ワシのこの輝かしい履歴書! え!? 若い時
から将来を嘱望されてて。言うたらドラフト
1位で死神界入りしましたんやで。それから
長いこと――アンタら役人かて、ワシらが人
間界で活躍したればこそ、そうやってヌクヌ
クとやっとれるんやないか!? え!? 言うた
ら恩人やないのんか!? え!?」

「ちょっと一寸あなた! そんな大きい声で
怒らんと!」

「お前ら役人はええわのぉ! いざいう時は
貧乏神やとか疫病神に天下りしたらええねん
から! 何が禁止されてるじゃ! ワシらと
こも何人かねじ込んで来たがな! ――もう
ええ! こうなったらエンジェルか何かにで
も転職してこましたる! エエモンになった
んねん、エエモンに! ほんで同業の死神ら
苦しめたるんじゃ!」

「一寸、落ち着いて下さい!」

「やかましい! こうなったら掟破りでも何
でもやったる!」

「何ですか!?」

「あのこともバラしたる! 人間どもは知り
よれへんからな、あいつらが神とか呼んでる
もんが、ホンマは自分の中におるっちゅうこ
と! そやから死にたい思うても自分で自分
を殺すことは出来へんのや! こうなったら
それ、ニッポン中、言いふらして回ったらあ
ー!」

「あんた、そんなことしたらあきまへんで!
ジョン・レノンみたいになりまっせ!」

「何!? ジョン・レノン!?」

「人間界にジョン・レノンいうのがおりまし
たやろ? 神ちゅな存在は自分の中にあんね
んでて、バラしたもんやから殺されましたが
な。だいたいそんなことされたら、死にたい
思うモンも減って、死神業界も商売あがった
りで、また失業者が増えますがな」

「知るか! みんな失業したらええんじゃ!
こうなったらヤケクソじゃ! 人間界には自
殺ていうもんを知らん国もあるんやで。ニッ
ポンもそんな国にしたる! ――そうや。ワ
シ、エンジェルん転職するんや。エンジェル
んなったろ。あのヒラヒラしたん着て」

「あなた、エンジェルちゅな顔ですか?」

「やかましい! エンジェルなって、エエモ
ンになって同業の死神に仕返ししたる! 死
神から見たら、エンジェルの方こそ死神みた
いなもんや。クソ! 人間みたいに派遣切り
しやがって! お前ら役人も現場行ったらえ
えんや! 死神が一人の人間自殺さすのどれ
だけたいへんか。そもそも死神の派遣が増え
たんはお前ら役人の人件費が高すぎるから
や! 覚えときさらせアホンダラ!」

 ついに怒って、この死神はハローワークを
飛び出してしまいました。

    ×    ×    ×

「クソ腹立つ! 何じゃあいつら! 下手に
出とったら調子にのりくさって!」

「えらいお怒りですね」

「何!?」

「すんません。声が大きいんでね、さっきの
ハローワークでのお話、聞こえちゃいました
のね。再就職たいへんみたいですね」

「何じゃお前? え?」

「私、人間界のニッポンでキューピットやっ
てますねんね」

「キューピット?」

「はい。人間界の男と女を結ぶのが仕事なん
ですけどね、ニッポンて、少子化でしょ? 最
近、若い人も結婚させられへんわ、離婚は増
やすわでね、私ら成績の悪いキューピットは
リストラされそうなんです。人間界で出会い
系サイトとかもやってみましたんですけどね、
最近ややこしいのが多過ぎて警戒されるしで
ね――私も何かええ仕事ないかなぁー思うて、
ハローワークで探してたんです」

「死神もキューピットも失業か? いったい
どないなっとんねん? え?」

「あの、私らに力貸して貰えませんかね?」

「ええ!?」

「死神とキューピットって正反対ですけどね、
その分、違った角度からこの仕事をとらえる
ことが出来るん違うかな、何かええアイデア
出してくれるかな、思いましてね」

「! さっきの話聞いてて分かったか!? ワ
シがやる奴やて。それでスカウトか!? ヘッ
ドハンティングいうやつやな! え?」

「いえ、根拠のない自信に惚れましてね」

「やかましいわい!」

「死神業の基本て何ですか? それを裏返し
たら何か新しいキューピット業につながって
来るような気がするんですけどね。そしたら、
死神業界への仕返しにもなるでしょ、ね?」

「そうやな――自殺さす基本はな、孤独にさ
す、ちゅうこっちゃ。ホンマは人間の命はみ
な目に見えへん、無線でつながって一体にな
ってるやろ。え? 何か共感、共有して時々
それを感じる時はあるけど、あいつらはそれ
に気づいてへん。知っとったら自分も他人も
傷つけようとせえへんようになるやろうけど、
それを完全に分からんようにしたるんや。千
切れさして、孤独にして、完全につながって
ないて思わせたんねん。これが自殺さす基本
中の基本なんや。奥義ていうてもええ」

「ということは、孤独にさせない――何かで
結ぶていうことですか?」

「そや。隣人祭りなんかやったらどうや?」

「隣人祭り?」

「ワシら死神にはああいうもんが一番迷惑や
ったで。え? 人間関係が希薄になったフラ
ンスでのある老人の孤独死をきっかけに始ま
ったやつや。地域の人に呼び掛けてアパート
の中庭とか公園とかに集まって、ただ軽く飲
んだり食べたりして話しして、まずお互いを
知り合って交流を深めていくんや。それで住
民同士の信頼関係が取り戻されて――それで
出会って結婚したカップルもおるんやで。婚
活にもなるいうて、注目されてるんや」

「ホンマですか!?」

「場所作り、チラシ配りや宣伝、飲み物や食
べ物の用意、ま、何かと準備もたいへんやけ
どな。何かアトラクションもあったらオモロ
イかも知れへんな。え?」

「いいですね! 実は――他にもリストラさ
れそうなキューピットやエンジェルが何人も
いまして、一緒にやっていいですか?」

「そんな出来の悪いキューピットやエンジェ
ルばっかりか? 大丈夫かいな、人間界は?」

「メンバーはですね、例えば――私と同じキ
ューピットでね、傷心のキューピット」

「何?」

「ブロークンハート。傷ついてるんです。い
まだに3年前の失恋をひきづってますねん」

「失恋? キューピットが?」

「そうです。そらキューピットかて失恋しま
すよね。人の恋愛の心配するモンに限って自
分のことには不器用なもんなんですよね」

「そらそうかも知れんけど」

「今、失恋休暇とってますけど、引っ張って
来ますのでね。他に一寸、困った奴なんです
けどね、うっかり屋のキューピット」

「うっかり屋のキューピット?」

「はい。どこにでもいますやろ。うっかりモ
ンてね。で、うっかり――男同士恋愛さした
りなんかしてね」

「男同士? それでか。ボーイズラブとか腐
女子とか増えてんの」

「それにアルコール依存症のキューピットも
いましてね、手が震えてキューピットの矢が
定まりまへんねん。それで予想外のカップル
が出来ることもちょいちょい」

「ちょいちょい?」

「結局別れることも多いんですけどね。ほら
よくタレントなんかで格差婚とか言われてた
のとかね。美女と野獣みたいなんはたいてい
そうですわね。酔っ払うて射た弓矢で出来た
カップルです。ほら、よう言いますよね。
『お前はお父ちゃんが酒で酔うて帰った時の
子ぉや』て。あれもそうです」

「大丈夫かいな――エンジェルもそんなんか
? ヒラヒラしたん着て。まさかコスプレに
はまってんのちゃうやろな? え?」

「いえ、エンジェルは――引き篭もり」

「引き篭もり? 普通、エンジェルて人懐っ
こいんと違うんか?」

「そういう固定観念がアカンのですよね」

「そういうけど、エンジェルが引き篭もって
たら仕事になれへんやろ? え?」

「昔はどっちかいうたら体育会系で。今も見
た目はマッチョですね」

「マッチョのエンジェル? 普通、エンジェ
ルって可愛らしいんと違うんか?」

「そういう固定観念がアカンのですよね」

「分かった分かった。他は?」

「えと、一匹狼のエンジェル」

「一匹狼? なんや怖そうやな」

「そんな凶暴やないんですけどね、もう我が
道を行くいうかね、黙々と働いて、細かい仕
事でもキッチリこなすんやけどね、あんまり
人と同調せえへんから、輪ぁが出来へんので
すね、人の輪ぁが。エンジェルやから頭には
輪ぁはおますねんけどね」

「どっちにしても重ーい、どよーんとしたエ
ンジェルばっかりやないか。え? だいたい
プロ意識いうもんがないんや、プロ意識いう
もんが。え? ホンマ、お前らがそんなんや
からワシらの仕事が増えてかなんねん。無理
せんならんねん。んで過労死や」

「それも私らのせいですか?」

「お前は?」

「え?」

「難儀な奴らばっかりやいうのは分かったけ
ど、お前は何でリストラされそうやねん?」

「そら一寸、成績がふるわんもんですからね」

「そやから何で成績がふるわんねん?」

「あー。私、こう見えて、ね。私こう見えて、
どう見えます?」

「そんなこと知るかい!」

「いえ、私こう見えて、一寸したプレイボー
イですねん」

「プレイボーイ?」

「はい。人間界の男と女をひっつけんのが仕
事ですねんけどね、ああ、ええ女やなぁと思
うたら『ああ、俺が欲しい』思うて、ついつ
い自分が(笑い)頂いてしまいますねん」

「ついついやあるかい! キューピットが人
の女に手ぇ出してどないすんねん!」

「見えませんでしょ? プレイボーイにね。
こう見えて行く時は行きますで」

「最悪やんけ」

「そういう固定観念がアカンのですよね」

「これは固定観念ちゃうやろ? え? プレ
イボーイちゅうよりムッツリ助平や」
「その言い方はやめて下さい。キューピット
としてイメージいうもんがありますからね」

「イメージもクソもあるかい。そやけど、お
前みたいな、ナヨッとしたんがモテるいうん
は時代か? 草食系とかいう?」

「ええ。実は私、昔はオカマのショーパフォ
ーマンスやってた時もあったんです」

「オカマのショー? パフォーマンス?」

「そん時はえらいモテて、えらい儲けました
わね。死神の奥さんが一人、大はまりして、
(笑いながら)夫が人間界に長期出張やから
て、毎日店に来てくれて、『キャーッ! お
ひねり!』言うて、パンツん中に入れてくれ
ますねん!(パンツの中におひねりを入れる
仕草をして)(大笑い)」

「(首を絞めて)こいつかーッ!」

「(首を絞められて)うわぁーッ!? 何します
ねん!?」

 ということで、失業した腹いせに仕返しを
企む死神と成績不振でリストラされそうなキ
ューピットやエンジェルが手を組んで、人間
界、人間同士の信頼関係を取り戻そうと、隣
人祭りなるものが開かれることとなりました。

    ×    ×    ×

 その隣人祭り当日の朝。仕切りたがりの死
神を中心に準備が進められております。

「人間たちがただ話して通じ合うための隣人
祭りやからな。そんな特別なもんにする必要
はないねんで。ささやかでええねんで」

「リーダー」

「お? リーダーか。ええ響きやなー。え?」

「この一角はバーベキューが出来るようにし
ときました」

「おお。いいね、バーベキューか。けど火の
もとだけは注意してや」

「大丈夫です。火は使いませんから。二酸化
炭素も出しません。エコ・バーベキューです」

「火は使えへん? ほんだらどないして肉焼
くねん?」

「環境問題にも配慮して。これ見て下さい。
このごっつい虫眼鏡。これで太陽の陽ぃで焼
くんです。だから地球にも優しい」

「――なんぼ地球に優しい言うたかて、焼け
んのにいつまでかかんねん?」

「リーダー、任しといて下さい」

「お? なんや本格的な、いかにも料理人て
格好やけど、何やってくれんねん?」

「これ見て下さい」

「これて、粉か? 何の粉や?」

「うどんです。今から練りまんねん」

「今からて、間に合うんか!? そんな凝らん
でええねん! 簡単でええねん、簡単で! 
そや、こんなんでええねん、こんなんで! 
こんな冷奴みたいなんで。――これ何のって
んねん? これ、韮やないか! 葱と韮の区
別もつけへんのか? え? なんぼ何でもこ
れやったら参加者もすぐ帰ってまうで。――
その前にホンマに人来るんかいな。誰も来ぇ
へんのちゃうやろか。心配なって来たで」

「リーダー、安心して下さい。バッチリ宣伝
しときましたから。お誘いのチラシも配って、
インターネットでも流しときましたから。こ
れ、テーマがいいでしょ? ナイスガイとナ
イスギャルの集い!」

「おお! いいね。これチラシか? 良かっ
た。一寸安心したわ。――ん? おい! こ
れナイスゲイになってるやないか、ゲイに!」

「へ?」

「GAYになってるやないか。ガイはGUY
や。どんな集いやねん? 心配なって来たわ」

「リーダー、ここはアイデアですね。アトラ
クションで盛り上げましょ。ね」

「ホンマか? 期待してええんか?」

「私らキューピットが結婚式の二次会とかで
やるゲームを用意しました」

「ゲームはええけど、ビンゴとか金のかかる
のは避けた方がええで」

「いえ、これだけです。ピンポン玉。ね」

「ピンポン玉?」

「男女ペアで何チームか作って競争しますね
んね。男はね、立ってるだけですねん。で女
の方はこのピンポン玉を立ってる男の足元か
らズボンの中に入れるんですね。ほんでモソ
モソモソとピンポン玉を上に上げて行って、
モソモソモソと逆の足んとこからピンポン玉、
出すんです。で、早いチームが勝ち。ね」

「モソモソモソって、お前」

「そう、股のところもモソモソモソ。あら?
玉が3つ!」

「アホ! そらセクハラや! そんなん出来
るか! どいつもこいつも聞きしに勝る酷さ
や! お前らもプロやったら一寸は頭ひねら
んかい!」

「そうね。(前に手を差し出して)プロがええ
仕事するにはおひねりが要りますね(パンツ
の中におひねりを入れる仕草をして)」

        ― 終わり ―

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