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どちらがイニシアチブをとるかーー2つの作品に生きる槇村香

エンジェルダスト…!沼に落ちた経験者としては胸熱すぎるニュース!!
この文章は前作の「新宿プライベート・アイズ」が上映決定した時に別のブログで書いたものですが、今回エンジェル・ダスト編公開決定とのことで再掲してみることにします。

CITY HUNTER(以後、シティ・ハンター)」は、自分が生まれたころに連載されていた漫画ですが、リアルタイムだと金曜ロードショーでやっていたアニメスペシャルをみたことがあるくらい。

ちゃんと見たのは大学生のころです。みたきっかけを話すと長いですが、自分の頭の整理のために書いてみようかと思います。

まずは神谷明さんの声を味わうところから

シティ・ハンターを見たいと思ったのは、その前に神谷明さんが好きになったからですね。007でジェームス・ボンドやってたピアース・ブロスナンが大好きだったものでよく彼の作品を見てたんですが、007の序盤のシリーズで彼のDVDの吹き替えやってたのが神谷さんだったのです。

今ピアースのFIX声優といえば田中秀幸さんだと思いますが、その前は神谷さんだったんじゃないかと。ちょっと青臭さの残るボンドになりたてのピアースには神谷さんの声がぴったり。ジェームス・ボンドって完全無欠の英国紳士に見えてちょっと詰めが甘いんですよね。2枚目半ではないんだけど、人間としての隙があるのが魅力的。

小学生のころからスーパーロボット大戦シリーズが大好きだったもので、神谷明さんといえば熱血のイメージでした。ゲッターロボの竜馬とかのイメージがどうにも強いもんですから、憂いを帯びた2枚目があんなに似合うんだって感動したんですよね。まぁ、よく考えればライディーンみたいな作品もあるんで、二枚目はぴったりなんですけども。

すっかり大好きになってしまった神谷さんの作品を観るとともに、いろんなインタビューとかも読みました。で、キン肉マンみたいな三枚目と北斗の拳のような二枚目を経て、どちらの要素もあるシティ・ハンターは自分の集大成のような作品だったって語っていたのを知りまして……。

これは見ねば!とDVDを借りに行ったのが、はじまり!

(ちなみに、↑のサントラに入ってる神谷さんと伊倉一恵さんの「街中Sophisticate」ってキャラソンが神です)

アニメはTVシリーズ・映画・TVSP全部見ましたし、原作も買い揃えて熟読!でも全部余すところなく楽しんで好きになったキャラクターは、冴羽獠というよりは槇村香でした(笑)。

City Hunter - 明るく活発だけど、アイデンティティが希薄な香

香は唯一の家族だった兄を亡くしてから、兄の代わりに獠のパートナーになります。唯一もっこりしない女だと言われ、序盤は仕事のパートナーとしてもなかなか認めてくれない獠。アニメの第1シリーズ最終回のとき、獠が命を賭しても香を助けようと「一人でいけ!」と諭す時、香は最初獠のそばを離れようとしません。必死に一緒に助かろうとする健気さだといったら話は簡単ですが、私にはいつも違和感がありました。

香は一人助かったとしても、独りになるだけなんですよね。

冴子さんや海坊主、美樹さんなど大切な仲間はたくさんいるけど、全部獠を通して知り合った人ばかりだし、彼女は本当に獠あっての存在。まさにレーゾンデートルというか、まあ依存に近い。作品がつくられた時代もあるのかもしれないけど、よりそう男性の腕の中でしか息ができないような女性というのは、私から観ると違和感でしかなかったわけです。

清らかな乙女なまま、飼い殺し状態だからね…。まさに籠の鳥。でも、獠のそばで生きることが、彼女にとっての生きる意味なのだからしょうがない。

ただ、獠はそれを望んでいる男ではないんですよね。自分が幸せにしてあげられないってどこかで思ってて、香を幸せにしたいという男が出てきてもなにも言えない獠。でもこの関係のイニシアチブは獠が握っていると思います。だって獠が行動に移さなければ、この2人は別れることも相思相愛なのに添い遂げることもないからです。

Angel Heart - 誰からも愛される聖母のような香

「エンジェルハート」はいつまでも新宿で獠と香が活躍していてほしいと思っているファンからすると悲しすぎるパラレルワールド。

そして、香がもう肉体を持っていないということ以上に、冴羽獠が完全無欠のヒーローではない、生身の人間として描かれていることも拒否反応を示す人が多い理由な気がします。

でも私はそこが好き。

この作品だと、香は獠がいなくても生きていけるような強い女性のように描かれます。街のみんなから愛されて太陽のようにみんなの中心で輝いている、聖母マリア様のようなキャラクター像。そして、獠も香のことを一人の女性として愛しながらも、どこか彼女を絶対的な存在として崇拝している感じがあります。でも、みんなに愛されて笑顔を絶やさない彼女の、誰にも見せたことのない内面を知っているのが獠なのです。

そしてシティ・ハンターと違うのは、戸籍もない人間として未熟な自分とどうか一緒になって欲しいと行動に移すところ!プロポーズをしかける獠の手口などすべてお見通しの上で、獠からの言葉を待っていたが故に彼のしたいようにさせる香が女性として器が大きすぎてしびれます(笑)。

やっぱり、この作品においてイニシアチブをとっているのは香なのです。

生前の香の肖像画を見て脇目も振らずに号泣してしまったり、そんな獠の姿を娘を通してみた香が決して聞こえない声をあげるという…超絶せつないお話も…。本当に骨の髄まで愛し合っている獠と香が味わえるので、この2人の関係を楽しみたい方にはとてもおすすめ。

最後に、この作品を楽しむためには「そばにいるのがわかるのに、肉体がない故の切なさ」を受け入れられるかです。

香の心臓は娘の中で生き続ける、時に声が獠に届くときも…。そして「私たちの娘を守ってあげて」と香は獠に頼みます。こんな残酷なことってありますか。序盤の獠は香の心臓を探しながらも、どこか死に場所を探しているようにも見える。でも香は獠に生きる理由を与えるんですよね。そして香は獠に対して違う誰かと幸せになることを容認する描写もある。でもこの世界の獠はずっと香だけを思い続けるんだろうなー…と思ったり。無茶苦茶切なすぎるやろが!なのです。

今City Hunterを楽しむということ

前作「新宿プライベート・アイズ」を見たときに、獠が一番に愛しているのは香なんだな、というのがちゃんと示されていてすごく嬉しかった。上映版なので香の主体性、自立心なんてのはまあ深くは描かれないのだけど、これほどまでにプラトニックをつらぬく作品もめずらしいので、想い合ってくれていればそれで満足。

今回の「エンジェル・ダスト」は本当にキツイお話だけど、ミックがいないのがまあ残念。その理由も上映版では描き切れないのでしょうがないものね。とはいえ、私的にはガラス越しのキスがぜひ見たいでーす(笑)。

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