つめたい土曜日の部屋で

裏切る方は、いつだって気分がいい。罪の匂いのするコートを羽織って、優しい怒りの声も遠いこだまに変えながら、気丈なふりで、前を向いて歩けばいいのだから。

裏切られる方は、いつだって暗闇。許す、許さないのかけられた天秤を、心の中で何度も揺らしながら、それでも愛する人の靴音を待ち侘びる。

どんなに疲れて眠りかけた夜も、裏切りの予感が漂えば、身体じゅうに紫色の火が灯る。昨日のことも、明日のこともどうでもよくなって、この夜に決着をつけてしまいたい一心になる。

たった一言、欲しかったのは少しおびえたあなたの瞳と、細い声。それですべて、笑い話に変えられるはずだった。けれど張りつめた心の糸は、誰の手にも緩められることなく、プツンと切れてしまった。

かつて私が罪を犯した日のことを考える。そのときの仕草、声色、きっと感情も、ゆうべのあなたによく似ていた。あの夜のあなたの苦しみが、こんなにもすさまじいものだったこと、鮮明に感じ取って、いたたまれなくなる。

そうか、私にはそもそも、許す権利なんてなかったのだ。私はまだ、許されていなかったのだ。あと何回、この償いを繰り返したら、あなたは私を許してくれるだろう。今夜、上手に笑える自信はないけれど、それでも私はあなたを愛しつづけるほかに、生きてゆく術を知らない。

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