Mist

真夜中、みずいろが私を食べた。

大人になんてならなくていい

高校を卒業したら、地元で就職して、そこで一生働きつづける。私の育った町では、それがあたりまえのことだった。大学に進むのは、よほど裕福な家庭か、本当に勉強が好きで仕方ない人たちだ。「やりたいことが決まらないから、とりあえず大学に行く」なんて考えはそこにはなくて、「やりたいことが決まらないなら、生活のためにとりあえず就職する」、誰もがそんな風に思っていた。そして、その大半は、結局やりたいことなんて見つ

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emotional

ぼくたちの背がすっかり伸びきって、あたたかな昼下がりより、夜をえらんで生きるようになったころ、部屋にはビールの空き缶が増え、夏もカーテンに包まれた青い部屋で四角い光に照らされる日がつづいた。過去と未来、夢と現実とが乖離してゆく道すじの中に立っていると、よけいにあの頃がまぶしくなる。

青春が今でも胸をときめかせているのではない。もうそこにぼくがいないこと、二度と戻れないこと、忘れかけていること、何

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あの頃へ

ㅤ今日で君の生まれた時代が終わる。なんていうと少し大袈裟だろうか。ただ名前が変わるだけで、それは季節ごとに装いをあらためるみたいにあたりまえで自然なことかもしれないから。けれど確かに君の生まれたひとつの時代は、そっくり思い出の標本箱に仕舞われて、その箱にはもうまもなく蓋が閉められる。
ㅤもちろんその箱の中身はいつだって取り出して眺めることができるし、大事なものたちと一緒に手元に置いておくことも叶う

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立ち止まれない

ずっとあの頃のままでいられたら、どんなによかっただろう。いつまでも、あなたにとって愛すべきひとりの少年でいられたら、どんなに……。

私がそらした目線の先には、夜があった。引き止めるあなたの指先はむなしく風を切って、私は暗闇へ消えていった。今、あなたの心がこんなに寒そうにふるえていると知りながら、私の手であたためてやることの叶わない虚しさよ。私の凍りついた毛布では、あなたの心は包めない。

いつか

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もう……

私はまた、失敗をした。もう、何度目だろう。こんなはずじゃなかった。こんな大人になんてなりたくなかった。思えば十九歳のころから、ずっとそうだった。同じことの繰り返しだった。お酒を飲んで、酔っぱらって、いい気になって、本人は強くなった気でいても、周りから見ればなんて滑稽な姿なんだろう。そうして、大切な人のそんな滑稽な姿を、何時間も檻の外から眺めさせられる人たちは、どんなに惨めな思いをしていただろう。

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