立ち止まれない

ずっとあの頃のままでいられたら、どんなによかっただろう。いつまでも、あなたにとって愛すべきひとりの少年でいられたら、どんなに……。

私がそらした目線の先には、夜があった。引き止めるあなたの指先はむなしく風を切って、私は暗闇へ消えていった。今、あなたの心がこんなに寒そうにふるえていると知りながら、私の手であたためてやることの叶わない虚しさよ。私の凍りついた毛布では、あなたの心は包めない。

いつか優しかった頃の私が、どんなに今の私を恨んでいるだろう。この両足を切り落として、二度とどこへも行けないようにしてやりたいと思っているにちがいない。ごめんなさい、私を愛してくれたすべての人よ。ごめんなさい、私を信じてくれた少年よ。私はどこかで、生き方を間違えてしまったみたいです。一度割れたガラス玉は、二度と元通りになんてならないと知りながら、しっかりと握り続けていることができなかった。何度も何度も手を滑らせて、何度も何度も床の上に打ちつけて、ひびが入って、とうとう、粉々に砕けてしまった。気づけなかった。気づきたかった。いいや、気づけたはずだ。私が気づかないふりをしていただけ。

こんな誰も幸せになれない結末なんて、あっていいのだろうか。私だけが不幸になるならまだしも、私がこんなに辛いのなら、あなたはもっと辛いはず。あんなに私を好きだったあなたが、私を愛せなくなることの苦しみがどんなものか、一瞬でも想像してあげることができたなら……。こんなに簡単なたったひとつの約束さえ、どうしてこの私には守れなかったのだろう。ぐるぐると考え続けても、私自身、どうしてそんなことができたのか、不可解なのだ。認めたくはなかったけれど、私はそんなにひどいことを平気でできるほど、非情な人間だったということか。一体、何が本当の自分なのかさえ、もう、分からなくなってしまった。私は何のために生きてきて、何のために生きてゆくのか。私のすべては、嘘だったというのだろうか。

だけど、私は、私が消えることを許せない。愛が、友情が、私をこの世界に縛りつける。私の身勝手な絶望で、誰の心にも、暗い影を落とすことなんてできないから。初めから、私のことなど誰も知らない世界に変わってしまえばよかったけれど、どうしたって明日は来るなら、涙の枯れたそのあとで、一歩ずつ、歩いてゆくしかない。その先に、どんなに淋しい道のりが待っていたって、私にはもう、立ち止まる権利なんて残されていないから。

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