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富士吉田市事件(令和2年12月17日東京高裁)

概要

控訴人・富士吉田市は、市立病院及び市立看護専門学校を設置、運営しているところ、控訴人代表者兼処分行政庁である富士吉田市長が、本件市立病院の院長と本件専門学校の校長を兼務していた被控訴人に対し、給料を減ずる懲戒処分を行ったこと、さらに、被控訴人に対し、本件市立病院の院長を免職させ、本件専門学校の校長のみに専任させる旨の一部免職処分を行ったことから、被控訴人が、本件各処分は、市長の裁量権の逸脱・濫用等があり違法であるとして、本件各処分の取消しを求め、原審が被控訴人の請求を認容したところ、控訴人が控訴した。

結論

棄却

判旨

1.公務員に対する懲戒処分について,懲戒権者は,諸般の事情を考慮して,懲戒処分をするか否か,また,懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択するかを決定する裁量権を有しており,その判断は,それが社会通念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したと認められる場合に,違法となるものと解されるところ,元院長について,本件懲戒処分の理由とされている処分(元院長が主任の患者への不適切な対応やパワーハラスメントに対する適正な院内管理を怠ったこと等)までに該当する事実は,いずれも認めることはできないから,本件懲戒処分は,懲戒事由が存在しないにもかかわらずされたものであり,懲戒権者である市長の本件懲戒処分に係る判断は,社会通念上著しく妥当性を欠き,裁量権を逸脱又は濫用したものであって,本件懲戒処分は違法であり,これを取り消すのが相当である。

2.本件一部免職処分は,元院長に対し,身分,勤務内容,俸給等において,職務権限の大幅な縮小や,月額51万円という手当のはく奪などの不利益を生じさせるものであることは明らかであって,地方公務員法49条が定める「不利益な処分」に該当し,元院長は,本件一部免職処分について,人事委員会又は公平委員会に対する審査請求や,取消訴訟の提起をすることができる地位にあるということができるから,本件一部免職処分は,取消訴訟の対象になるところ,本件一部免職処分は,富士吉田市の主張するような業務上の必要性・合理性に基づいてされたということはできず,形式的にはそのような理由を付けてはいるにせよ,市長としては,元院長を本件市立病院の院長の職から排除し,院長としての権限を失わせるという目的でこの処分をしたものとみるほかなく,そのような不当な目的で,元院長に対してかような重大な不利益をもたらす懲戒処分に匹敵するような処分をすることは社会通念上許容できないものであることは明らかであるから,本件一部免職処分は,市長が,その裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用して行ったものとして,これを取り消すのが相当である。

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