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アクセスメディア事件(令和2年1月31日大阪地裁)

概要

被告会社との間で労働契約を締結し、データ入力等の業務に従事していた原告が、被告に対し、
〔1〕法定時間外労働や深夜労働を行ったとして、労働契約に基づき、
〔ア〕労働基準法37条1項に基づく割増賃金並びに商事法定利率年6%、賃金の支払の確保等に関する法律所定の割合による確定遅延損害金円及び遅延損害金の支払〔イ〕労働基準法114条に基づく付加金として、割増賃金と同額の金員及び遅延損害金の支払を求めるとともに、

〔2〕被告が原告の健康に配慮することなく過重な長時間労働等に従事させたことにより、原告はうつ病を発症するに至ったとして、安全配慮義務違反による債務不履行又は不法行為に基づき、休業損害、慰謝料等の損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めた。

結論

一部認容、一部棄却

判旨

1.会社は,元従業員がタイムカードの空打ちにより労働時間を水増ししていたなどとして,平成29年末頃以降のタイムカード記録の信用性を争っているが,元従業員がタイムカードの空打ちをしていたとの事実を認めるに足りる証拠はなく,また,平成29年12月末頃以降にタイムカード記録上の労働時間が顕著に増加していることが,元従業員の業務実態に照らして不自然であるとは認められず,さらに,当事者間において,少なくとも平成27年11月から平成29年11月頃までの期間に関しては,タイムカード記録の信用性・正確性に争いがないところ,同年12月頃以降に,元従業員があえてタイムカードの不正利用に及ぶ動機があったことを示す具体的な証拠はないこと等から,本件において,タイムカード記録から労働時間を認定することを妨げるような事情があるとはいえず,平成29年末頃以降の分についても,タイムカード記録の信用性・正確性を認めることができる。

2.元従業員は,会社において,平成28年10月から平成30年8月までの間,平均約50時間の法定時間外労働と平均約55時間の深夜労働を行っており,中には,法定時間外労働が130時間に達した月や,深夜労働が148時間に達した月もあったこと,会社は,元従業員が上記のとおり相当長時間の法定時間外労働や深夜労働を行っていることをタイムカード記録により把握していたこと,それにもかかわらず,労基法37条1項所定の割増部分については一切支払っていなかったことが認められること等会社の割増賃金不払の態様や元従業員から割増賃金の請求を受けた後の対応(元従業員代理人から会社の代理人に連絡を取ろうとしても取れなかったこと等)に加え,元従業員の労働時間に関する会社の主張に合理性があるともいえないことを考慮すれば,同法114条に基づく付加金として,会社に対し,除斥期間が経過していない時間外労働及び深夜労働に対する未払いの割増賃金と同額の支払を命ずるのが相当である。

3.元従業員は,平成30年7月19日頃にうつ病を発症したことが認められ,うつ病の発症前おおむね6か月の期間において,元従業員の時間外労働時間は,勤務日数の少なかった同月を除き毎月90時間を超え,同年2月,3月,5月及び6月はいずれも100時間を超えるものであったこと,同年1月20日から2月28日,3月12日から4月1日,5月4日から23日にかけて,それぞれ2週間を超える連続勤務があり,深夜の時間帯に及ぶ長時間勤務を行った日も多くみられ,以上の長時間労働等はLINEのDM規制に対応する業務につき多大な労力と時間を費やしたことが主たる原因であることから,元従業員の従事していた業務による心理的負荷の程度は強度なものであったと認められること等から,元従業員の業務とうつ病発症との間には,相当因果関係が認められる。

4.元従業員が平成30年1月以降に従事していた業務は,労働時間及び業務の性質・内容の両面において,元従業員の心身に過重な負担を生じさせるものであり,会社は,これらの元従業員の長時間労働や業務の内容・性質等について,タイムカード記録や他の従業員等を通じて認識していたことは明らかであるが,会社は,この間,元従業員について適正な労働条件を確保するための必要な措置・対応を怠っていたものと認められるから,会社には安全配慮義務違反が認められ,これにより生じた元従業員の損害につき,債務不履行に基づく損害賠償責任を負う。

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