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「AIには何ができないか」を読む

ビブリオバトル(註1)に参加するにあたり、自宅の本棚から「AIには何をできないか」という本を取り出し、発表をした。この発表のために準備した内容を以下に残す。


AI時代に知識を覚える必要はあるか

この本の中核的なメッセージの一つが「ポピュラーと正しいは違う」「AIはポピュラーな情報を拾い上げることはできるが、正しい情報であるかは判断していない」である。
我々は何かを調べるときに、デジタル端末(スマホやPC)で検索をすること多い。若い世代ならSNS(インスタほか)で情報収集するであろうし、中高年ならGoogleのブラウザ(Google Chrome)などを開いて情報検索することがポピュラーであると言える。最近では、生成AI(Chat GPTなど)に質問をする、という方法もあろう。
実際、生成AIに質問を投げかけると、瞬時に文章が生成され、ひと昔前であれば、この回答を持って、大学生のレポートとして提出しても遜色ないようなそれっぽい文章が出力される。このような状況もあり「知識を問うような試験をしても無駄(AIとの共生が問われる若い世代にとって、その手のことはAIがやってくれるから)」と僕自身思っている。
しかし、この本の内容をよく理解すると、僕の考えがあながち正しくないことがわかる。

ページランクシステム

生成AIの前提にあるのは、情報検索である。生成AIは、ネット上に転がっている膨大な情報から取捨選択して、一つの文章として成立するように組み立ててくれる。このため、まず「検索」によって、何が起きているのかを理解する必要がある。以下、書籍「AIには何ができないか」を手掛かりに、その仕組みを学んでみよう。
比較的有名なアルゴリズムに、Googleの「ページランクシステム」がある。これは「より多くの人に引用される情報は良いもの」という考え方が前提となっている。元々研究論文の世界で採用されている評価システムである。「より多くの人が引用する論文は、社会的なインパクトが大きく、良い論文である」という理屈だ。学術論文は、エビデンス(科学的根拠)が強く求められ、前提として「正しい」ものでないと論文として世に出ない。故に、僕の解釈では、このシステムは、論文の世界ではおよそ問題ない評価手法だが、これがネット上の情報全般に適応されると話はややこしくなる。

検索結果として我々がみているもの

Googleの検索窓で、あるキーワードが検索されると、そのキーワードについて、より多くの人が引用している=注目しているサイトを特定し、そのサイトをリスト化し、引用数が多い順に表示する。検索結果で上位に上がってくるものは(グルメサイトや広告サイトなど別の力学が作用している場合はあるにせよ/加えて、検索履歴に基づく思考性も加味して)、よく引用されているポピュラーな情報、ということである。
ポピュラーであることと、正しいと言うことは違う。2023年に放映された大河ドラマ「どうする家康(徳川家康の生涯を描いたドラマ)」を例に以下、解説を試みる。ドラマの進展と合わせて、古参の大河ドラマ、歴史好きな視聴者から「史実と違う」と文句が上がっていることをネット上で見かけた。これはどうやら(僕がネットで調べたところ)、1983年に放映されたNHK大河ドラマ「徳川家康」での内容と食い違うことが多かったのが一つの要因と言われている(築山殿は悪女でないとおかしいなど)。
時代考証を担当している平山優氏のX(旧Twitter)やYouTubeの歴史解説動画などの情報を総合的に判断すると、(例外がいくつかあるものの)基本的には、最新の研究成果を反映したことによって、過去のドラマとは違う内容が多く盛り込まれ、結果としてこうした批判が上がったようだ。
整理して例示すると「過去のドラマにより、多くの人に知られている=ポピュラー=悪女としての築山殿」「最新の研究で正しいとされている=築山殿が悪女であるという言説は後世の創作の可能性が高く、少なくとも当時の公式記録にそれらしき記述はない」である。

AIとの上手な付き合い方

以上のように、AIは「これは本当に正しいのだろうか」と言う仮説や疑問を持って検証してくれることはなく、あくまでもネット上に転がっている情報の中から、一定のアルゴリズムに基づいて(間違っていても)最もポピュラーな情報を我々に届けてくれる存在だ、と言うことを理解する必要がある。
その性質を理解した上でAIとの共生をしていく必要があるのがこれからの社会である。こうした考え方を知る参考となるのが、メレディス ブルサード著「AIには何ができないか」である。気になった方は、ぜひご一読ください。

追伸:「AIはポピュラーな情報しか出せないよね」と思って、試しに築山殿を生成AIで調べてみたところ、かなり最新の研究を意識した記述が出てきて、驚きました。

※冒頭の画像は、UnsplashSteve Johnsonが撮影した写真です。

【註釈】
註1)本の紹介コミュニケーションゲーム。プレゼンターは5分間で本を紹介し、全員のプレゼンが終わった後、聴衆が「誰が紹介した本が読みたくなったか」を基準に投票する。最も票を得た本がチャンプ本となる。詳しくは公式サイト https://www.bibliobattle.jp/

【参考文献】メレディス ブルサード 著, 北村 京子 訳:AIには何ができないか、作品社、2019

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