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泉田もと『旅のお供はしゃれこうべ』 二人で一人前の凸凹コンビの旅の終わりに

 古物商の跡取り息子と、喋るしゃれこうべという奇妙なコンビの珍道中と不思議な友情を描く、第14回ジュニア冒険小説大賞受賞作であります。父の使いで旅に出て思わぬ窮地に陥った惣一郎が出会ったしゃれこうべの助左。助左とともに江戸に向かうことになった惣一郎の運命は……

 古物商の大店・大黒屋の跡取り息子の惣一郎は、厳格でやり手の父のやり方についていけないものを感じつつも、努力の日々。そんな中、父の使いで窯元から茶碗を受け取りに行くこととなった惣一郎ですが、帰りにお供の奉公人・市蔵が茶碗と有り金全てを持ち逃げしてしまうのでした。
 途方に暮れて山道をさまよううちに、急斜面から転がり落ちてしまった惣一郎。そこで彼は、何者かに声をかけられることになります。その声の主は――しゃれこうべ!?

 生前は軽業芸人の子供だったというしゃれこうべ・助佐。しかしひどい親方のもとから逃げる途中に崖から落ちて死んだ彼のしゃれこうべは山に棲む妖狐・十六夜に拾われ、狐の相棒となって人を化かすうちに喋れるようになったというのです。しかしある時十六夜が姿を消してしまい、山の中で放置されて退屈していたという助佐。
 その彼にけしかけられ、市蔵から茶碗を取り戻すことにした惣一郎ですが、市蔵が逃げたであろう江戸は遠く、路銀もありません。そこで助佐は、話をするしゃれこうべの自分を使って見世物をやれと言い出したではありませんか。

 かくて世にも珍しい「野ざらし語り」を始めた二人。慣れない見世物で路銀を稼ぎながらの珍道中の行方は……

 言葉を喋り、道行く者に語りかける髑髏というのは妙に人の心を引きつけるのか、日本霊異記の「髑髏の目から竹の子を抜いて、不思議なしるしが現れた話」に代表される「歌い骸骨」の説話など、古今東西様々あります。だいぶ内容は離れますが、落語の「野ざらし」も、この髑髏への親しみ(?)によるものかもしれません。
 もっとも、「歌い骸骨」は自分を殺した者を告発するという恐ろしい話(自分を助けてくれた者には恩返ししてくれますが)なのですが――同じ喋る髑髏でも、本作の助佐はえらく感情豊かでカラッとした気性の、どこまでも陽性のキャラクターです。

 本作はそんな助佐と、大店の跡取りではあるものの、ごく普通の少年である惣一郎という凸凹コンビの道中が中心となる物語であります。人は良く知識も豊富であるものの、自分に自信が持てない惣一郎と、威勢は良く世知にも長けるものの、自分一人では動くことができない助佐――二人は、互いで補い合って一人前といえます。
 そんな二人が、ない知恵となけなしの勇気を振り絞って奮闘する様は、何とも微笑ましく、そして思わず応援したくなるものがあります。しかし江戸にたどり着いたとしても、広い江戸でどうやって市蔵を見つけるのか――と思えば、その手段もなるほど! と言いたくなるもので、何とも痛快です。

 しかし本作は、比較的早い段階で目的を果たし、惣一郎は家に帰り着くことになります。いささか意外にも感じますが、その先は、二人の旅の本当の終わりというべき物語が展開することになります。

 そしてそこで描かれるのは、惣一郎が新たな一歩を踏み出す姿――すぐには現状を変えられないかもしれない、そもそも変え方もまだわからない。それでも自分の意思で一歩踏み出す彼の姿は、尊いものというべきでしょう。
 そしてまた、もう一人の主人公である助佐の物語が落着する先も、なるほどと納得できるものであります。

 少々あっさり目の印象もありますが、奇妙な時代人情譚にして良質の成長物語である本作は、多くの名作を生み出してきたジュニア冒険小説大賞ならではの作品といってよいかと思います。


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