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「わたなべ」さんの悲劇

出席番号で鍛えられること

 私は生まれてから38年ほど渡辺を名乗っている。6歳で学校に入るとあいうえお順で決められる出席番号が割り振られ、ワタナベはかなりの確率で出席番号がクラスで一番最後になる。中学校でも高校でもそれは続く。ワタナベより強い苗字は和田(わだ)、綿貫(わたぬき)くらいだろうか。

 学校生活では、なにかにつけこの出席番号順が使われ、当然ワタナベは最後に出番がくる。授業で発表する時はすでにネタが出し尽くされてるし、ペーパーテストの返却は最後の最後までドキドキさせられるし、体育の実技テストはみんなもう終わっていて誰も見てなかった。

 かつてDeNAの南場さんがbolgで「ワタナベは授業で最後に当てられるから、誰も思いつかないアイディアを出す力が鍛えられている」と珍説を述べていて、笑ってしまった。確かに、「もう言われてしまったんですけど」と前置きするのが嫌で、誰にも言われなさそうなことを頑張って考えていた。

 ちなみに「あ」から始まる苗字は初めに当たるから即答力、瞬発力が優れているらしい。企業の創業期は誰も考えつかないアイディアが必要で、成長期に入ると瞬発力のある人材が必要だといっていた。

ワタナベばかりの会社に勤めて

 おそらく南場さんは軽い気持ち、冗談で投稿したんだと思うけど、私の人生には大きな影響を与えていて、それを知って以来、「何か質問やご意見がありますか?」という場合、特に理由がなければ初めに発言をするように心がけている。ただ瞬発力の教育を受けていないせいか、言い残すことがあって後から再度発言することがよくある。

 一番初めに発言することは、前の発言にならってごまかす手法が使えなくて大変だ。頭の中が生煮えのままに、先陣を切って発言をするとトンチンカンに聞こえ、場の空気を乱し、「あいつは何も分かってねえ」となる。だから会議や人の講演を聞くときは、発言を考えたり、いつ意見を求められても大丈夫なように頭の中をぐるぐる回転させて、足りない瞬発力を補っている。とまあ、いまさら同級生だった青柳(あおやぎ)や、秋田(あきた)の大変さを味わっている。

 そういえば、私が新卒で就職したP社は従業員十数人の小さい会社だったが、取締役(女性)と営業部長(男性)の2人のワタナベさんがいた。それまでは電話で「ワタナベさんいますか」と聞かれると「女性のワタナベですか? 男性のワタナベですか?」と返していたが、私の入社で新たな切り分けが必要になってしまった。さらに1年後、また別のワタナベさん(女性)が入社してきて、ワタナベ4人体制になり、「もはや同族企業」、「ワタナベの採用枠がある」なんてネタになっていた。

 そんなベンチャー企業だったP社もおととし株式公開をして上場企業になった。売上高も私がいたころの何倍にもなっている。
 今はきっとワタナベさんより、瞬発力優れるア行の苗字が多いに違いない。

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