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時の流るるはあなたと共に≪④≫

それに畝宗もその覚悟はして行きました。あなたにも私が畝宗の帰りを待つようにあなたの帰りを待つ人はいたはずです。だからあなたは生かされたことを胸張っていてください。そして本当責められるべき場所はあなたなんかじゃない。もっと違うところにあると思います。もしも、ここに彼がいたのならきっと同じような事をあなたに言ったと思います。』と私は彗蓮さんをまっすぐ見ながら応えた。黙って私の話しを聞き終えると彼はその場に泣き崩れていった。
『……………。ありがとうございます。……。ありがとうございます。』と言葉にならない謝罪を繰り返し言った。
それから、彗蓮さんは私に他にある戦地での畝宗の様子をたくさん聞かせてくれた。どの話の中にも畝宗は畝宗らしく過酷な場所にいながらも私の知っている彼でいてくれた事に心からホッとしていた。そして同時にどうしてもまだ彼が死んだという事が信じられなかった。ここで彼の話を聞いているだけなのにこんなにも彼の存在を近くに感じていられるのに、彼が死んだなんて信じられなかった。ただそんな風に思いたかっただけなのかもしれない。そんな私の顔を見ながら彗蓮さんはあるものを手渡してきた。差し出されたものを見た時、私の中で止まっていたものが一気に溢れ出した。彼はそれを形見離さず持っていたらしく、とてもくしゃくしゃでとても汚れていた。
それがあったから彼は自分を取り戻していたし生きようと思えていたらしい。彼が生きる糧としていたものは『私の写真』だった。彼はこっそり私の写真と一緒に戦地に行きいつも私を近くで感じていたらしい。私と思いは一緒だった。すると彗蓮さんは私に『爾杏さん、裏を見てください。』と言われ私は裏を返してみるとそこには、『いつも思いは一緒だよ。必ず帰るから待っていて欲しい。』と私の想いに答える畝宗の言葉があった。『……。やっぱり、やっぱり、彼は生きている。生きているんだ。』と込み上げる思いは私に1つの希望を与えてくれた。
『えっ?畝宗さんは生きているんですか?生きているんですか?』と問いながらさらに
『これ。僕が目を覚ました時にただこれだけが枕元に置いてあったんです。僕はそれを必ずあなたの許に届けようと。畝宗さんの思いと一緒にどんなことがあっても届けてあげようと思ったんです。これくらいしか僕が畝宗さんと爾杏さんにしてあげられないから。』と彗蓮さんは話し続け私に彼の思いを届けてくれた。
『……。ありがとう。ありがとう。彗蓮さん。私待ちます。待っています。これからどれだけかかっても彼を待ち続けます。』と彼に話すように自分自身に感謝と希望を胸に誓った。

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