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意外と知らない?ストーリーテリングの力

こんにちは、ミテモの松浦です。
皆さんは、普段人に何かを伝える場面で「ストーリー」を意識していますか?実は昨今、ストーリーを通して想いやコンセプトを伝える「ストーリーテリング(物語を語る手法)」に注目が集まっています。そこで本日は「ストーリーテリング」の価値や、なぜ今注目が集まっているのか、そしてそのポイントをご紹介しようと思います。

ストーリーテリングの価値やメリット

ストーリーテリングにはどんな価値があるのでしょうか?
私が一言でまとめるならば、「人の心に深く伝えるための技術であり、人を巻き込み動かすもの」だと思っています。
 
技術と書いたのは、ストーリーテリングにも型があり、磨けば磨くほど高まっていくものだと考えているからです。その一方で、語る人の内面深くにある想いや問題意識などがあってはじめて、聴き手の心に深く刺さるものだとも思っているので、本質的には技術よりも内面の想いのほうが重要だと考えています。(この辺りはサイモン・シネックの「ゴールデンサークル理論」が参考になります) 

それでは、ストーリーテリングのメリットを具体的にみていきましょう。
ストーリーテリングのメリットは、シンプルに言えば「短い時間で聴き手の記憶に、内容を長く残すことができること」です。

このことは、歴史上の偉人たちや神話を考えてもわかると思います。
例えば、米国のエイブラハム・リンカーン大統領が、「人民の、人民による人民のための政治」という演説をしたこと、黒人差別と戦ったキング牧師が「I Have a Dream」と言ったことが、今の世にも語り継がれていることがその証左といえます。もし彼らが人々に直接語りかけるのではなく、新聞の活字だけで伝えていたらここまで大きなインパクトは生まれなかったでしょう。

ではなぜ活字ではなく直接語りかけると、記憶を長く残したり、心を動かしたりできるのでしょうか。それには「メラビアンの法則」が関係しています。実は伝えるという行為の影響の中で、「言語」の伝達はおおよそ1~2割しか占めておらず、その他の声のトーンやジェスチャー、目の表情などの「ノンバーバル(非言語)」な情報の伝達が8~9割だと言われているのです。

またストーリーテリングは、事の本質の理解も手助けしてくれます。
ストーリーとして聞くことで、コンテクスト(背景・文脈)から理解することができますし、ストーリーに主人公がいれば、あたかも自分自身がそれを経験したかのように追体験できる効果もあります。脳神経科学では、物事をシチュエーションで記憶をすると応用がききやすくなると言われており、研修なども座学よりも、ロールプレーイングやケーススタディーで学ぶほうがより効果的に定着すると言われています。 

一つエビデンスをご紹介すると、ユーリ・ハッソン氏が2008年に発表した研究では、ストーリー(物語)は脳を活性化させることと、強い物語には、脳が似たような活動パターンを示す(思考の統一)ことが明らかにされています。具体的には、脳活動の類似性を示す指標(ISC)が、物語要素の強い映像グループでは70%、物語のない映像グループでは10~20%でした。

つまり、強い物語は、その物語を聞いた人たちの脳に同じようなイメージや像を浮かび上がらせるというわけです。そのため集団や組織を、一つの方向に向かせるなどの効果が期待できます。

時代に求められるストーリーテリング 

そんなストーリーテリングですが、昨今注目度が増してきています。
私はその大きな理由に、「情報爆発」の時代になったことがあると考えています。現在、世の中に流通する情報の量は指数関数的に多くなってきています。そのため、多くの人の頭の中は常にパツパツで容量がいっぱい。何か伝えようとすると出てくる問いは、「どうしてそんなこと知らないといけないの?」「どんな意味があるの?」「私とどんな関係があるの?」ということです。そういった状態の中で、短い時間で理解しやすい形で伝えることができるストーリーテリングは、時代に必要とされているのだと思います。 

よいストーリーテリングとは? 

では、最後に、私の考えるよいストーリーテリングのポイントを2つあげて終わりたいと思います。

ポイントの1つ目は、とにかくシンプルに伝えることです。
うまく話が伝わらないケースでは多くの場合、聴き手は話を聞いた結果「知っている情報だな」と判断してしまい、そこで思考が止まってしまいます。しかしその「知っている状態」から、「理解する」、そして最終的には「行動する」というところまで、聴き手を到達させるのが、よいストーリーテリングです。

そのためには、とにかくシンプルに情報を伝え、聴き手を退屈・混乱させないことがとても重要です。

例え正しい情報だとしても、だらだらと情報を並べたり、話しがあっちこっちに飛んでしまうのでは、うまく伝わりません。また事実を「そして、そして、そして」と繋げるような、「事実の羅列」を目にすることも多くありますが、これもまた多くの人の記憶には残らない方法といえるでしょう。

一方で、シンプルに伝えることは、思っている以上に難しいものです。
ストーリーの研究者のランディ・オルソン氏は、「もし、私に一時間の講演をしてほしいなら、もう準備はできています。もし、10分間だけ話してほしいのなら、準備に一週間が必要です」と言っています。このことからシンプルに伝えることの難しさが伺えます。 「シンプルに伝える」というと一見簡単そうに聞こえますが、注意しすぎてもしすぎることはない、という気持ちで臨むのをおすすめします。

もう一つのポイントは、ストーリーの主人公を意識することです。
ジャーナリストのニコラス・クリストフ氏は、「一人の死は悲劇だが、100万人の死は統計である」と言いました。シリア難民の問題も、砂浜に打ち上げられた赤ちゃんの写真や、その家族の話しがきっかけで、世界中が注目するところとなりました。

神話学者のジョセフ・キャンベルが世界中の神話から見つけた、普遍的なパターンをまとめた「英雄の旅(ヒーローズ・ジャーニー)」には、欠点のある主人公が危機に立ち向かい、変化・成長していく様が語られています。ジョージ・ルーカスが『スター・ウォーズ』に「英雄の旅」の構造を取り入れたというエピソードも有名です(「英雄の旅」はマシュー・ウィンクラーのTEDでも紹介されています) 。

これらの例が示しているように、ストーリーテリングでは、物語の主人公を意識して伝えることで、聴き手の深い部分にまで影響を与えることができます。

以上が、よいストーリーテリングのポイントになります。そのほかにも、うまく伝えるための型(カタ)や手法などがいくつかありますが、それはまた別の機会にしたいと思います。

それでは、今日からでも普段の会話やプレゼンの中で「ストーリー」を意識して、役立ててもらえると嬉しいです。


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