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研修が役立たないのは、現場のせいなのか

こんにちは、ミテモの小林翔太です。

先日ミテモ主催のセミナーにて、「eラーニングの受講率は上がってきたけれど、成果が見えなくて困っている」というお悩みを伺いました。

他の参加者の方にも伺ったところ、このお悩みは社内教育全般に関係する悩みのようです。社内教育をしても成果が出ない、つまり学んだ内容が現場で活かされていないことを問題に感じている方が多くいらっしゃいました。

そこで本日は、この「社内教育が現場で活かされない問題」について考えてみようと思います。


研修で学んだ内容は、10%しか現場で活用されない?

皆さんは、研修やeラーニングなどを通して学んだ内容のうち、一般的に何%程度が現場で活かされていると思いますか?

少し古い研究ですが、BaldwinとFordが1988年に行った研究(※1)によれば、研修で学習した内容のうち、10%程度しか仕事には活かされていなかったのだそうです。また別の研究では、研修直後には学習内容の40%が活用されていたものの、半年後にはその割合が25%に、1年後には15%まで減っていたという結果も出ています(Wexley, & Latham, 2002, ※2)。

これらの研究結果も示しているように、皆さんがお悩みの「社内教育が現場で活かされない問題」は、世界中で起きている問題のようです。


研修内容が現場で活かされない理由
―「転移」はなぜ起きない?ー

それでは「なぜ研修で学んだ内容が現場で活かされない」のでしょうか。

ご担当者の皆さまに理由を聞いてみると、「現場が教育の必要性を理解していない」「現場で内容を活かすチャンスがない」というご意見をよくいただきます。

研修中やeラーニングの視聴中にどれだけやる気になったとしても、現場の上司が「研修なんて役に立たない」という認識でいるために、やる気も削がれてしまうし活用するチャンスもない、という状態のようです。またともすると、「社内教育自体に意味があるのか」「研修なんていらないのではないか」という議論にも繋がる場合があります。

前回のメールマガジンでもご紹介しましたが、教育学では、研修やeラーニングといった「教育の場」で学んだことを、仕事などの「実践の場」で活用することを「転移 (Transfer of Learning) 」といいます。

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つまり「なぜ研修で学んだ内容が現場で活かされないのか」という問いは、教育学の用語を用いると「転移が起きないのはなぜか」と言い換えることができます。この問いは、教育学の大きなテーマの1つであり、多くの研究が行われています。

今回はその中から、2007年に行われた研究で得られた興味深い結果をご紹介いたします(Velada, et al., 2007, ※3)。


「転移」を起こすために、社内教育をどう工夫できるか

この研究では、過去の複数の研究の知見から、3つの要素(社内教育のデザイン、個人の特性、組織の環境)が転移に影響するのではないかという仮説を検証しています。

その結果、「どれか1つではなく3つ全てが重要なのだ」ということを明らかにしました。それでは1つずつ内容を見ていきましょう。

1.社内教育のデザイン
まず1つ目の「社内教育のデザイン」とは、研修やeラーニング自体が「転移を起こしやすいように設計されているか」ということです。 そもそも「転移が起きにくい設計」の場合、他の要素がどれだけ良く働いても転移は起きにくいわけです。

転移が起きやすい「教育のデザイン」には例えば、以前ご紹介したケラーの「ARCSモデル(※4)」が応用されていることや、学習ゴールの設定が明確であることなどが挙げられます。また「この内容はあそこで使えるな」と受講者自身が学習中に気づきを得る機会があると、転移が起こりやすいこともわかっています。

2.個人の特性
2つ目の「個人の特性」とは、認知能力や前提知識の有無、自己効力感の高さや不安感などを指します。

その中でも特に「自身のパフォーマンスに対する自己効力感」が高いか、つまり学習者自身が「自分のパフォーマンスは、自分の力で変化させることができる」と考えているかが非常に重要です。社内教育や普段の業務を通して「成功体験」を増やしたり、スモールステップで学んでもらうよう心がけるなどの工夫が効いてくると考えられます。

3.組織の環境
最後の要素「組織の環境」とは、フィードバックの有無や組織の風土を指します。例えば、新しいことにチャレンジでき、常に学び続ける風土を持つ組織は、転移が起きやすくなります。さらに行われた学習行動に対して、適切にフィードバックを行うと、学んだ内容が知識として定着しやすいことがわかっています。

どうしても社内教育が現場で活かされない場合、「現場で活用する機会がない」など、 組織環境に原因があると考えてしまう場合が多いかと思います。

しかし実際には「教育のデザイン」や「個人の特性」による影響も大きく、教育手法やカリキュラムなどを改善すれば、転移を促せるかもしれません。例えば「現場で学習内容を活かしやすい設計がされているか」や、「自己効力感が十分に高いか」などは、すぐにでも検討できることのひとつではないでしょうか。

いかがでしたでしょうか。本日は「社内教育が現場で活かされない問題」について、研究結果をもとに考えてみました。ぜひ皆さんの業務に役立つヒントの一つになればと思います。

参考文献

※1:BALDWIN, T. T. and FORD, J. K. (1988), TRANSFER OF TRAINING: A REVIEW AND DIRECTIONS FOR FUTURE RESEARCH. Personnel Psychology, 41: 63-105. doi:10.1111/j.1744-6570.1988.tb00632.x

※2:Wexley, K.N. and Latham, G.P. (2002), Developing and Training Human Resources in Organizations (Englewood Cliffs, NJ: Prentice Hall).

※3:Velada, Raquel & Caetano, António & Michel, John & Lyons, Brian & Kavanagh, Michael. (2007). The effects of training design, individual, and work environment variables on transfer of training. International Journal of Training and Development. 11. 282-294.

※4:ARCSモデル:学習意欲を引き出す教育は、以下の4条件「Attention(注意喚起:興味を持てる)」「Relevance(関連性:学ぶ意義を感じられる)」「Confidence(自信:やればできると思える)」が重要であると提唱するモデル

著者プロフィール

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