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第1回 成功者の悩みとカウンセリング 成功のあとに残る影

 セレブリティ(有名人、著名人、芸能人)や経営者のメンタルケアについて、諸外国では取り上げられることがあります。経営者がカウンセリングに通うのが普通という国もあります。
 なぜ成功者といわれる、セレブリティや経営者がカウンセリングを受けるのでしょうか。その理由については以下のような悩みがあるからです。
 

1.周りからは「このような人」であるとみられる。社会から見られる姿(仮面、ペルソナ)を脱げない。


 社会的に成功している人や有名人は「このような人」であると社会から求められます。そして、そのように振舞うことを期待されます。
 とくに成功者のように「このような人に見せること」が仕事に直結する場合、自分本来の姿を隠すようになります。
 
 このように社会から期待されて見せる自分の姿を「社会的ペルソナ」といいます。

 自信満々に行動し、弱みを見せないようにする、そして周囲から常に適切な決断を期待される。それが経営者に求められるペルソナです。
 愛想がよくて、いつも笑顔、悩みがないようにみせる、いつも前向き。そのようなペルソナを期待されるセレブリティもいます。

 しかし「本当の自分」はそのような人物でないことを本人は分かっています。本当は不安にさいなまれ、弱い部分もたくさんある。泣きたいときもあれば、落ち込んで身動きが取れないときもある。

 にもかかわらずペルソナが脱げないため、強い自分を見せ続ける。ペルソナを脱いで生きていくことができなくなるのです。
 ペルソナをかぶり続けると「私はいったい誰なのか」が分からなくなっってきます。「自分の思いに沿わないことばかりを求められるので自尊心が傷つく」「自信がなくなっているけれども、自信があるようにふるまう」。
 そして本当の自分を見失っていく。自己矛盾していることに気づきつつも、その状態を維持するのです。


2.弱みを見せられない孤独。他人を信じられなくなる。


 「自分に寄ってくる人は、ペルソナしか見ていない」。成功者たちの多くが感じることです。

 自分の性格や人柄よりも、ペルソナとしての社会的成功や地位、有名かどうかで周りの人が集まってくる。
 それは仕事として当然であり、喜ぶことなのですが、もしそのペルソナがなかったら、周りの人は自分から去るかもしれないのです。そのような恐れもあって、自分自身でもペルソナに頼ろうとします。

 結果として、他人を信じていいのかわからないのに、人づきあいは増えていく。そして内面ではずっと孤独。そのような事態に陥ります。
 

3.目標を達成した後に生きる目標を失って空虚。


 社会的に有名になった人、成功した人たちというのは能力が高い人が多いですし、努力家の人たちがほとんどです。ペルソナとして努力をしていないようにみせかけることはあっても、実はまじめで仕事熱心の方が多いです。

 しかし、そのような方たちだからこそ、自分の目標を達成したあと「この先何をしたら良いのかわからない」と目標喪失に苦しみます。
 
 能力が高くて目標を達成した人は、同時に自分の限界も知ります。他人からすばらしい結果を達成したようにみえても、本人は自分がどの程度の能力なのかをシビアに理解しています。しかも、そういった自分のシビアな評価は他人に理解されません。

 本人にとっては自分の劣等感を刺激されるような成果であっても、周囲からは「なんてすばらしい成果だ」と評価されたりします。しかもその評価は一生つきまとうこともあります。本人は「もう過去のこと」と思っていてもです。

 目標を達成するのはエネルギーがいります。しかし大きな目標を達成してしまうと、しばらくの間は良いのですが、数年もたたないうちに過去の出来事になります。

 本人にとっては「充実していた過去の話」そして「今は目標を失って空虚」ということも少なくありません。


4.自己愛による埋め合わせ。


 目標を失ったあとに、次の生き方が見つけられない人はどうするのでしょうか。
 方法としては幾つかあります。その一つが「自己愛による埋め合わせ」です。過去の栄光にすがりつく、という方もありますが、栄光を身に着けることで自分を守るのです。
 
 そして過去の栄光をみて評価してくれる人を周囲に配置し、自分の自己愛を守る。いわゆるイエスマンを身の回りに置く。しかも過去の栄光をみてくれない人は遠ざけたりします。
 
 というのも遠ざけた人たちは、自己愛に満ちたその人を煙たがり、関わりを避けようとするからです。そういった人を本人は近づけません。本人も自分が周囲から孤立しつつあるのを気づきつつも、その立場を降りることができないのです。
「自分は人気者で、能力が高くて、人に好かれているんだ」と自分に言い聞かせて、ペルソナと自尊心を保とうとします。そのため、栄光を見てくれない人を遠ざけるのです。

 でも内心は孤独で、劣等感の塊のような気持ちです。しかしその劣等感を直視することは、できるかぎり避けます。そうでなければ、今の生活が崩壊する恐れがあるから……。
 

まとめ


 日本では「カウンセリングはこころの病を抱えている人が通うところ」というイメージがあります。悩みを抱えていても「人に弱みを見せられない」という思いから、カウンセリングを受けることを躊躇します。

 しかし本人は深く悩んでいる場合があります。病気という形をとらなくても、こころとしては限界に近い人もいるでしょう。
 限界が近づいていると眠れなかったり、こころが不安な気持ちに支配されたり、もしくは何かに対して過度に依存したりします。ときには周囲からみると「まったく前触れなく」というタイミングで、死を迎えることがあります。
 
 カウンセリングはそういった「病気ではないけれども、こころは深く悩んでいる方」に対応してきた歴史があります。しかし残念ながら日本では、このような人たちがカウンセリングを受けることは、まだ少ない状況です。

 成功後に陥る目標喪失感や空虚感を超えていくためには、自分の人生をもう一度生き直すほどの大きな転換が必要です。
 
 カウンセリングでは人生の生き直しを手伝うことがあります。それは長くて苦しい道のりになる場合もありますが、やがて自分なりの落ち着きどころを見つける人も少なくありません。
 人生にいきがいと充実を取り戻したい人は、一度ご相談いただければと思います。

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