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次へのステップ(38)

いつも、この店は適度に人がいて、適度に混んでいるし、お料理もおいしくて、ゆっくりできる。ビルとビルの隙間の裏路地を通って入ってくるので、奈津がたまたまこの店を知って、連れてきてくれないと絶対に気付かないお店だった。いつも予約がないと入れなかった。きょうは日本酒をお冷やで頼んで、お料理は和食メニューを頼んだ。洋食中心にもできるけど、ここは田舎で食べるような味を板前さんが上品な料理に仕上げてくれているのがいつも来る理由だった。奈津は勉強のほか運動もできたけど、趣味がお菓子作りという一面もあって、よくSNSで作ったお菓子の画像を上げるので、菓子テロと皆が呼んでいた。よく夜中に上げるので、つい何かを食べてしまうという理由からだった。時々、失敗作を上げることもあった。マカロンがなかなかうまくいかないらしい。焼き菓子を学校で皆にくれることもあったし、楽しそうにお菓子を作っているようだった。きょうはお店の人に隠れてこっそりパウンドケーキを一片くれた。洋酒に漬け込んださまざまなドライフルーツがおいしくてこのお菓子はもらうのが結構楽しみだった。「秀くんとは、いつ会うの?急いだほうがよくない?」と聞いてきた。「帰ったら、土曜日の3時にたまプラーザでとメールしようと思ってる。渋谷だと大学の誰かに会うかもしれないから、ちょっと郊外がいいかなと思って」「マヤはわたし以外には秘密主義だもんね」「そういう奈津は彼氏とはどうなの?」と聞いてみると「もう、一緒に居すぎて、家族みたいに思われているんじゃないかって心配、ときめきはないかも」と笑った。奈津は高校ですぐ彼氏ができて、付き合いは落ち着いていた。奈津の彼氏が紹介してくれた男の子とマヤも2年付き合ったけど、秀に抱いたようなときめきとはちょっと違った。大学入学と同時に疎遠になっていた。こういうのを自然消滅というのだろうか。奈津はダブルデート出来なくなったから、がっかりしたようだったが、秀が現れてからは、すごく応援してくれていた。秀が記憶を失う事故に遭ってからも心配して慰めてくれた。

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