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帰らぬ人(32)


画面を凝視していると、キャスターがしゃべり始めた。「繰り返しお伝えしていますが、昨日、ポルポル共和国で難民キャンプが襲われ、邦人二名を含む多数の難民の人たちが、武装勢力に拘束されたもようです。二人の安否はいまだに確認がとれていません、なお・・・」その先は耳に入らなかった。手が震えて携帯をなかなか開けない。あらためて、奈津に電話をかけて「何なのこれ!」と言うと、「大変なことになったね。とにかく皆に連絡とって、状況を確認しよう、本部にも連絡してみるよ」と言って、電話が切れた。急いで家に向かった。帰宅してテレビの前に張り付いていたけれど、佐竹さんたちの安否はわからなかった。
 佐竹さんと青山さんの殺害の瞬間の動画がインターネットに流れたのは、その日の深夜だった。私は彼が後ろから頭を撃ち抜かれる瞬間を見た。その後、堤防から海に蹴落とされていた。青山さんもほかの難民も次々同じようにされていた。自分が撃たれたような衝撃を受けた。いつか見た夢で地下鉄の中で頭を撃たれそうになった場面を思い出した。あのとき自分が夢の世界で感じた以上のどれほどの恐怖を佐竹さんたちが味わっただろうことを思うと震えがとまらなかった。

帰らぬ人(32)


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