パスポート没収

2019年も終わろうとしている頃ようやく面倒なアンケートを回答し終え、
次回の食事の会計時に再び声掛けをされる。
「先日はアンケートの回答ありがとうございました。」
アンケートの回答についても確認をして貰えたようで一安心した。
これでこれからもパスポートが使えると安堵したのも一瞬であった。

「ところで、アンケートの回答の中に『無料定食以外を注文する予定はない』との文面がありましたが差し支えなければあらためて理由を聞かせて頂けないでしょうか?」と質問を受ける。
私は正直に「もともと小食ですしパスポートで無料で食べられる分だけで充分なので特に追加で注文をする必要も予定もありません」と返答をした。

そしてその瞬間は訪れた。
「わかりました。本クラウドファンディングは水戸の地方活性化を目的として実施した内容となっております。mitoさんもそれを理解して頂いていることが前提となります。無料パスポートのみを使用するというのであればそれは店の利益にならず、店の利益にならないという事は水戸の地方活性に繋がらないため今後はパスポートの利用は出来ませんし、パスポートも回収させて頂きます。」

私は耳を疑った。何かの聞き間違えかと思ったがそうでもないらしい。
言われた内容についてどのように言い返そうかと一瞬考えたが、
このような状況のもと口論を行い結局パスポートを返してもらったところで
この店で気持ちよく食事を行うことは無理だと判断し反論はしなかった。
そして店を退店した。

店の前の階段を降りながら私は「何が悪かったのだろう?」とふと考えた。
しかし理由を思いつくことはなかった。
理不尽な事を言われ、パスポートを没収された事自体は不満を感じるものであったが同時に不思議と開放感があった。

「これでもう店に行かなくてもいいのか」
人間とは不思議なもので、私だけかもしれないが期間無制限(実際にはいつかは終わりが来ると思っていたが)のパスポートを所持していると、別の店で普通に食事をした時に「無料パスポートを使えばこの食事代はかからないんだよな」と損をした気分になる事があった。

かといってパスポートを使ったら使ったで何となく居心地の良くない中で
食事を取らなければならず、それはそれで落ち着かないものがあった。
それらの束縛から解放されたことによりスッキリとした気持ちになったのも事実である。

しかしながらやはり納得がいかない気持ちもあり、他のパスポート所持者への注意喚起の意味でgoogleや食べログの口コミに何があったかを投稿した。
もちろん誹謗中傷ではなくありのままの事実をである。
googleの口コミは5月までは残っていたが食べログは掲載されたことが確認できなかった気がする。

「もうこの件は何も無かった事にして忘れよう」と普通の日々を過ごしていたが、2020年5月頃転機は訪れた。
某巨大掲示板で色々なタイトルのニュースを眺めていた時それは目に入ってきた。

『納豆ご飯生涯無料パスポートが没収』

ここから私の激動の2020年が始まった。



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