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ASローマの「ふざけている」デジタル・ソーシャルメディア戦略

11/29-30に開催されていたsports innovation summit(SiS)はスポーツ界で活躍する様々なスピーカーが世界各国から集まっており、非常に勉強になりました。

その中にデジタル・スポーツマーケティングのセッションがあり、ASローマのポール・ロジャーズ氏(デジタル&ソーシャルメディア最高責任者)のプレゼンをお目当てに行ったのですが、やはりとても面白かったのでシェアします。
(注:僕は全編にわたって「ふざける」を良い意味で使っています)


■ローマの英語版公式Twitterはふざけている

ローマの英語版公式Twitterアカウントはこういった日本人に非常に見覚えのあるツイートをよくしています。

世界的に決められた代表戦ウィークの間はクラブのサッカースケジュールが止まってしまうので、マダー?という表現

ローマ女子チームの新選手獲得リリース

こうした雑めのアスキーアートが昔から海外でどのくらい利用されていたのかわかりませんが、絵文字(emoji)も多用するのが当たり前で、日本人にとってもすごく馴染み深いコミュニケーションを取っています。

みんなのお気に入りを埋めて教えて?と言いつつ「Twitterアカウント:ASローマ」と先に書くボケをしっかり入れる。

どれだけ代表戦ウィークが退屈だったのでしょうか…笑

選手獲得リリース時には衝撃の「雑コラ」を披露する場となってしまっています。ファンも今度はどんな雑なやつが来るかと期待し始めています。

↑は今オフの新加入選手のリリースですが、2人目の画像は1人目の上に何枚も適当に重ねて作られています…笑

さらには最近はドイツ・ブンデスリーガのバイヤー・レヴァークーゼン、バイエルン・ミュンヘンの英語版アカウントともTwitter上で頻繁に絡んで謎の仲の良さを発揮中。

ローマのアカウントがよく突っ走ってるのにレヴァークーゼンもバイエルンアカウントも付いていく、をササッと動画で表現したのでしょう。雑。

ちなみに、レヴァークーゼンの僕のお気に入りはこれです。

ブンデスリーガでVARが導入されて直後のタイムリーさもありますが、試合中の実況ツイートの中に唐突にこれを差し込んできます。

スペインのラ・リーガに所属するバレンシアも英語版Twitterアカウントでこんなツイートをしていました。

PCのデスクトップ背景とアイコンでフォーメーションを作っている。

公式Twitterアカウントで「ふざけはじめた」のはローマのTwitterアカウントだけではないといえるでしょう。


■ローマのソーシャルメディア戦略は(もちろん)きちんと作られている

こうした流れがあったので、ローマのデジタル&ソーシャルメディア最高責任者からどんなお話が聞けるかと興味があったのです。

語られたのは、彼らも当初はこの考えには至らなかったこと。失敗を多くしてデジタル戦略が間違っていることに気づいたこと。そして、ソーシャルメディアのなかにいる人々をよく見て、戦略を変更したこと。

そしていま彼らには「ローマの新デジタル・ルール」があり、それに則ってデジタル・マーケティングが展開されているそうです。その10か条がこちら(プレゼン資料から作成)。

Roma's new digital rules
1. Every decision must put the fans first.
2. Create new ways to empower fans.
3. Simplify everything and make it easier for fans to consume content.
4. Tell stories in the most visual way possible.
5. Fans aren't always looking for our content. Our content needs to find fans.
6. Social media is not a broadcast channel. If we're the only voice on our feed, were re doing it wrong.
7. Create content fans want to share with their own followers.
8. Success is measured by engagement, not follower numbers.
9. Help fans find what they are looking for. Not what you want them to find.
10. Don't take yourself too seriously all the time. It's OK to have fun and keep people guessing.
(日本語訳:自信なし)
1. すべての判断はファン・ファーストで下されなければならない。
2. ファンに力をもたらす新しいやり方を作る
3. すべてをシンプルにし、ファンがコンテンツを消費しやすいようにする。
4. できるだけ視覚的なやり方でストーリーを語る。
5. ファンはいつも我々のコンテンツを探しているわけではない。我々のコンテンツがファンを見つける必要がある。
6. ソーシャルメディアは放送するチャネルではない。もし我々がフィードで唯一の声となっていたら、それは間違っている。
7. ファンがフォロワーにシェアしたいコンテンツを作る。
8. 成功はフォロワー数で測らない。エンゲージメントで測る。
9. ファンが探しているものを見つける手助けをする。我々が見つけて欲しいものではない。
10. 常にシリアスに捉える必要はない。楽しんで、人々に答えさせ(話させ)続けていればOK。

このきちんと設計したルールから、あのとてつもなく雑なツイートが生み出されているのです!



トレードマークだったアフロを坊主頭にして世界を震撼させたフェライニのツイートを受け、すかさずローマの坊主頭コラロフにアフロを乗せた雑コラを投下。フェライニ本人の坊主頭リリースから40分経っていないところに注目してほしい。


■いちおう運用ルールがありそう

上記の面白ツイート実行とカッコいい戦略の間にはまだ我々の知らない何かがありそうなのですが、よく見ていると法則のようなものがあることに気づきます。このへんは要検証。皆さんも注意して見てみてください。

・どのクラブもふざけているのは「非母国語版」だけのように見える
・画像でふざける選手は選んでいる(例えば、ローマもトッティはネタにしていない)
・真面目なツイートがメインであることは変わりがない
・失敗を考慮しつつ、攻めている

急に面白さに対して真面目に語りだすレヴァークーゼン公式からも、苦悩や頑張りが認められます。


バレンシアは先日、新インターンが今日からツイートするよ!と案内した後にインターン生が本名とJob Applicationをアップしての登場という荒業を見せていました(↑はゲームの中の話だったり冗談9割です)。


こうして見ると、世界のサッカークラブはどこもデジタル・マーケティング戦略について必死で考え、その結果ファンに寄り添う戦略へシフトしつつあり、Twitterアカウントはその先鋒として急速に柔軟になりつつある分野なのだと感じます。そしていま、日本のクラブにも中の人たちの努力によってファン・ファーストのグッズ、マーケティング、経営情報のコミュニケーションがソーシャルメディア上でなされるようになってきています。

多くの人に親しまれるサッカークラブ作りに大いに貢献する方向性だと思いますし、読むだけでも面白いですし、この努力をうまく見つけて可視化できる方法がないかなあと考えました。(終)


(追記)ローマはふざけるのと並行で、世界のクラブのTwitterアカウントを表彰する「ASRoma's Twitter Team of the Day」を毎日ツイートしているのですが、これは別の機会があれば。


(追記2)昨日にダービーで劇的に勝利したアーセナルがこのツイート。やはりどこもこうして固さを崩していく機会を伺っている感じがします。


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