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クリエータ紹介(16) 杉本悠さん、田原史也さん、島村友大さん - 直感的なWebアプリで、農業機器制御ソフトの民主化に挑む

このnoteでは、福岡未踏的人材発掘・育成コンソーシアム(通称・福岡未踏)のプロジェクト採択者について、プロジェクトの詳細や福岡未踏にかける思いをご紹介します。

今回は、農作物や植物を生産する温室の環境をモニタリング、制御できる機器を操作するため、「いかに分かりやすいWebアプリを作れるか」に挑戦する、杉本悠さん、田原史也さん、島村友大さんの挑戦をお伝えします。

プロフィール

  • プロジェクト名:UECS Navi Creator

  • 支援プランと期間:Solve (23年11月〜24年1月)

  • クリエータ:杉本悠さん(九州大学 工学部 電気情報工学科3年生)、田原史也さん(九州大学 農学部 生物資源環境学科2年生)、島村友大さん(九州大学 工学部 電気情報工学科3年生)

左)田原史也さん、中央)杉本悠、右)島村友大 成果報告会での様子

これまでの歩み、来歴

杉本さんは、九州大学 工学部 電気情報工学科の3年生です。彼が現在の道を選ぶに至ったきっかけは、高校時代、新型コロナウイルスの影響を受けて、将来のキャリアについて深く考え始めたことでした。彼は、情報系が多岐にわたる分野に対応できると感じ、電気情報工学科を選択しました。しかし、大学の授業だけではプログラミングの理解が難しく、焦りを感じた彼は、プログラミングサークルに参加。サークルでの学びは、授業とは異なる実践的な経験をもたらし、プログラミングへの理解を深めました。また、サークルでの活動を通じて、島村さんや田原さんと出会い、共に学びを深めることとなりました。

田原さんは九州大学 農学部 2年生で、農政経済学分野を学んでいます。彼は将来のビジョンが明確ではない中で、漠然と「将来はのんびり過ごしたい。農家になったらのんびりできるかな?」と考え、農学部を選択したそうです。やりたいことが明確に決まっていなかった田原さんは、プログラミングが流行していることから、独学でプログラミングを学び始めました。やがて、より体系的な学習を求めてプログラミングサークルに参加。そこで杉本さんや島村さんと出会い、彼らとの交流が新たな学びの扉を開きました。特に、自身の手で何かを作り出す楽しさを知ってから、プログラミングへの興味をさらに深めていきました。

島村さんは杉本さんと同じく、九州大学 工学部 電気情報工学科の3年生です。入学時には学科群を決めず、1年後に学科群を選択できる入試選抜の枠組み「VI群」で入学したのち、元々はロボットに興味があったことから、理系の実学全般を学びました。結果的に、興味が大きく、より入りやすい環境であった電気情報工学科を選択。高校時代にプログラミングの授業で良い成績を収めたことから、志高く情報工学の学習が始まりましたが、独学でものを作ろうとするなか、ひとりでは壁にぶつかることも多かったと言います。結果として、授業とは別に独自に学びを深めるため、プログラミングサークルに参加し仲間と切磋琢磨する道を選びました。

三人は、プログラミングサークルの活動を通じて強化され、最終的に福岡未踏プロジェクトへの参加につながりました。

プロジェクトの概要

  • 課題提供:合同会社YS Lab

杉本さん、田原さん、島村さんが福岡未踏「Solve」プランで取り組む課題は、ユビキタス環境制御システム「UECS(ウエックス:Ubiquitous Environment Control Systemの頭文字)」に対応したソフトウェアを開発している、合同会社YS Labからの課題に対する内容です。UECSは、農作物や植物を生産する温室やガラス室などに設置されたセンサーなどの通信、動作方法を定めた共通規格で、UECSを利用することにより生産者は、農作物などの生育環境をモニタリングしたり、簡単に制御したりすることができます。

一方で、農業従事者や農作物、植物の生産者は、プログラミング経験がなく、複雑なシステムを扱うのが難しいケースがほとんどです。合同会社YS Labは、実際のユーザーである生産者と、システムの難しさのギャップを埋めるソリューションを求めていました。

杉本さん、田原さん、島村さんのプロジェクト「UECS Navi Creator」は、合同会社YS Labが開発したシステムに合わせ、生産者がUECSを直感的・容易に操作できるWebアプリの開発を目指しています。これには、農業の環境を管理するためのパラメータ(温度、湿度、日照量など)を、デジタル技術やシステムに詳しくないユーザーも直感的に設定できるよう、シンプルで分かりやすいインターフェースが求められます。デザイン部分の開発を担当するのは田原さんで、「ユーザーは見たことのある、馴染みのあるデザインの方が操作しやすいため、Googleが推奨するマテリアルデザインを採用したり、デジタル庁が提供するデザインコンポーネントを利用したりしています」と話します。

データベースの管理や機器の制御など、バックエンドの設計・開発を進めているのは杉本さんと島村さんです。当初の想定よりもパラメータの数が多く、機器の方で書き込むための形式変換が必要になったり、機器へのデータ送信に必要なメモリ関連の知識が必要になったり…と、技術的な壁にも直面したそうです。実践的なプログラミングサークルに価値を見出していた杉本さんは、「ここではむしろ、授業で学んだメモリの知識が活かせました。授業で学ぶ理論はいつ、どこで使うんだろう?と思ったこともありましたが、すごく良い機会でした」と振り返ります。

代表クリエータの杉本さん ポスターセッションの様子

福岡未踏への応募理由

三人の応募動機は、それぞれ少しずつ異なっていますが、最終的に彼らの背中を押してくれたのはプログラミングサークルの先輩の存在です。彼らは第3期の募集で福岡未踏に挑戦しましたが、少し先、第2期のGrowですでに採択され、プロジェクトを進めていた先輩がサークルにいて、「採択されなくてもいいから、挑戦してみたら?」と勧めてくれたそうです。

杉本さんは、これまでなにかを作ろうと思っても、友人同士で簡単なものを作るだけだったことから、一度ゼロから本気でWebアプリを作る体験をしてみたい、と考え、福岡未踏への応募を決めました。

田原さんは、ブースト会議に参加した際、周りの参加者のアイデアの質や技術力の高さに驚かされたそうです。自分も挑戦してみたい!という思いはあったものの、一人では難しいと考えていたため、杉本さんと一緒に挑戦することで安心して臨むことができました。実際には、思っていたよりも開発を進めることができ、実力に自信がつく機会になったと言います。

先に二人が福岡未踏に応募することを決め、田原さんが農学部であることから、Solveで挑戦する課題まで絞り込んでいたところに、島村さんも合流しました。

島村さんは、Solveの「会社が解決してほしいことに対応する」という特徴や、提案書や発表など、これまで経験したことのない一連の体験に興味を持ちました。もちろん技術的にも、機器の制御などのハードに関する操作やデータ取得に関するプログラムを書くなど、難易度の高いことに挑戦できたことに価値を感じています。

福岡未踏で得られたこと

杉本さん、田原さん、島村さんが福岡未踏プロジェクトにおいて成し遂げたいと考えている目標は、それぞれの学びと、これからのキャリアの発展に大きく関連しています。

杉本さんは、まずこのWebアプリを完成させ、合同会社YS Labの期待に応えることに大きな責任を感じています。また、彼は、Solve特有の経験として「企業側と話し合い、何度もコミュニケーションを重ねながらプロダクトを磨いていったこと」を挙げました。彼は、そういった技術以外で得られた知識や経験にも価値があり、仕事をし始めたあとのキャリアに活きると考えています。

フロントエンドの開発を担当する田原さんも杉本さん同様、パラメータ入力からデータベースへの連携、機器の制御までを完成させることが重要と感じています。また、彼のキャリアという観点では、このプロジェクトを通じて、農学と情報技術の融合に関する実践的な経験を積みたいと考えています。彼は、プログラミングスキルを現実の農業問題に応用することで、スマート農業などの分野でも貢献できるかもしれないと感じています。

島村さんは、福岡未踏での技術的な挑戦、特にバックエンドに関する本格的な実務経験をできるだけ積んで、自分の限界を押し広げ、新しい分野への挑戦を積極的に行いたいと考えています。フロントエンドとバックエンド、どちらも自分で担当してものづくりをするなど、挑戦の幅を広げていきたいと考えています。

おわりに

授業や独学では物足りず、プログラミングサークルでもっと学びを深めたいと思い、意気投合した三人。福岡未踏を機会と捉え、企業の方とやりとりをしながら技術的な挑戦も重ね、それぞれが思ってもみなかった成果を得ているのが印象的でした。

彼らのプロジェクト「UECS Navi Creator」は、技術を手段として用い、ユーザーの生活を変える試みです。必要な要件を揃えるというだけでなく、インターフェースでの工夫など、さらに踏み込んだ実践的な開発が必要となるがゆえの難しさに挑んでいる彼ら。ぜひ「日ごろあまりデジタルに明るくないユーザー(生産者)が、簡単・積極的に使えるようになった」という結果にまで結びついてほしいと強く感じました。

一番左)統括PM荒川豊氏とみなさん

福岡未踏とは

福岡未踏的人材発掘・育成コンソーシアム(通称、福岡未踏)とは、福岡県在住の若手クリエータを発掘・育成し、クリエータの「何かを作るための第一歩」を支援し、また、IPA未踏と同等の支援に加え、複数のIPA未踏経験者からなるPM・メンター陣にて、プレ人材向けの支援を行います。