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お風呂場で発生する黒


我が家のお風呂場は、合わせ鏡である。

入居して半年くらい経ってから、遊びに来た妹が
「この部屋、寒い」「怖い」
とひとしきり騒いだ後、

「合わせ鏡じゃん!!!信じらんない!!!」
と発狂していた。

実家がお化け屋敷だったので、その手のモノはうようよしていて、
結構怖い思いをした。
(また機会があればこのお話も。)

なので、

「あゝ〜〜〜なんかいるような気がするなア〜〜〜〜〜」

放置していた。

一人暮らし、ウキウキウオッチング!
という感じだったので、特に何も気にしなかった。
(ドア同士は閉めて鏡同士が見つめ合わないようにはしている)


それよりも恐ろしいことが起こる。


密室内でGと鉢合わせた。


一人暮らしから数年、一度も遭遇していなかったモノが
唐突に声をかけてきたらめちゃくちゃ気持ち悪い。


視界の端に見えた瞬間から
尋常じゃない冷や汗と嫌な予感。



「どう息の根を止めるか」

全速全身全裸女の戦いの脳内ゴング音が鳴り響くと、
どんなに床が濡れようがお構いなしでお風呂場から脱出を目論む。


ガゴオ!!!と聞いたことのない音を立てる扉。
上下柵が外れ、倒れてくる扉。
自身に降り注ぐ2m近くの白扉。聞こえる自らの断末魔。
音に驚いて走り回る猫たち。
舞い散る毛。濡れた顔に群がる猫毛。


誰か助けて。




友人Rにあわてて電話する。
何を血迷ったか、ビデオ通話。友人Rは男である。

肉眼でヤツを直視したくなかった。

iPhoneの超高画質カメラでヤツを撮り確認しながら、
某害虫スプレーを絶叫しながら噴射していった。
突然高画質でヤツを見せつけられているにもかかわらず、
Rは「うるさ…」と通話を切らずに共に戦ってくれている。


1分ほど経過し、死滅を確認する。
ヤッタ…と安堵しかけたものの、
Rへ電話する直前、扉を仮止めしたときに破壊した中指の爪がじんじんと響いた。
今度は、除去だ。絶望に暮れた。

(後日、見えたか聞いてみると
「全裸?映ってたけど、慌ててんのおもしれ〜と思ってたからどうでもいい。ハハハ」

器が大きくて助かった。)




と、人類の敵に遭遇したときのことを思い出しながら
私はいま、浴槽にいる。



蚊と。


どこから入ってきたんだろうなあ〜と不思議に思いながら
嬉々としてお湯をかける。


全然死なない。飛ぶ。消える。


シャワーを当てるのはなんだか違う気がして、
手でお湯をすくって、的に目掛けてかけていく。



このとき、なぜGと蚊でこれほどまでに恐怖度が違うのか、という疑問と
食物連鎖や弱肉強食を思い出した。

鏡越しに見る私は、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


この蚊が、Gとして化けて出てきませんように。

そう願いながら、飛び回る的に向かってぱしゃぱしゃとお湯をかけ続けた。






黒紅




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