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いただいたお題でnote②ウソとホントと私「ホッペにニキビが3つ」

3日前までひとつだけあったホッペのニキビが今日には斜めに並んで3つになっていた。ニキビができる瞬間を見たことがあるかい? 私はある。

1時間ほど鏡を見つめれば分かる。目を離した隙にぐぐんと勢いを伸ばすので見逃しちゃいけない。とにかく鏡をじっと見ることが大事なのだ。

だんだんゆっくりと皮膚が盛り上がってくるのである。ゆっくり、ゆっくり、小さなお尻が内側から皮膚を押すようにゆっくり。少しずつかゆくなってきて、あれよあれよという間に赤みが差す。さっきまで平だった皮膚がもう限界、というように引っ張られぷっくりと腫れ上がったその瞬間! その腫れ上がった小さな毛穴の先端から、小さな腕がニョキッと飛び出すのだ。細い腕、先に付いた本当に小さな針よりも細い5本指。そこからだんだんと姿を現し、腕の次は肩、そしてその腕が這い出るように皮膚を押し返すと、小さな小さな可愛らしいショートカットの男の子がやっとこさっとこと言った感じで顔を出しブルンと頭を振った。「わあっ」と私は飛び上がった。自分の毛穴からまさか男の子が飛び出してくるなんて思わなかったのだ。鏡に映るそれを、凝視した。やっぱり、いる。あまりに小さいためよくよく目を凝らさないと分からない。目を見開いたり細めたり、とにかくピントを合わせるので精一杯だ。その小さな男の子は照れたようにはにかむともう片腕を出し、ぎゅっと私の赤く腫れ上がった皮膚を両腕でしっかりと抑えぐんぐんと体を伸ばしとうとう外に出きってしまった。小さな裸足。緑色の布を体に巻いている。「誰だ!」とか細く叫んだけれどはにかむばかりで返事が返って来ない。一歩、また一歩という感じで歩き出して、私のニキビの山から降り、近くの少し開いた毛穴を手で掘り始めた。「ダメ!」とまた小さく叫んだがこちらをちらりと見返しただけで毛穴を掘る手を止めてくれはしない。蚊に刺されたくらいのピリツキがホッペの端をつつく。すると男の子が毛穴から何か取り出した。男の子のてのひらサイズの、目に見えるか見えないかギリギリの大きさであったがラメのようにキラリと光るので彼の手もとにあるのは確かだ。男の子は嬉しそうにそのキラリと光る宝石のようなカケラを服の中にしまうと、また手頃な近くの毛穴を探し先ほどと同じように掘り始めた。「ダメだってば!」と今度は少し大きめに責め立てたがまたこちらをちらりと見るばかりで掘り続ける。今度は苦戦したようで、毛穴に片腕が挟まってしまったらしい。ふんふんと鼻息がかすかに荒く聞こえ、抜け出そうと思いっきり体を反り返しているが全く動かない。繰り返し奮闘している。私はそっとほっぺに指を当て、その毛穴あたりの皮膚を優しく広げた。スポンっと男の子の腕が抜けると私のほっぺの上を全身でコロリと小さく転がり、てのひらにあるさっきより少し大きな輝くカケラを確認すると、満面の笑みを浮かべてしばらく惚けたように眺めていた。私もその様子を惚けたように眺めてしまった。数分程経ったのだろうか、男の子は満足気にカケラを服の中にしまうと、私のもみあげあたりにぶら下がり、髪を伝って髪の毛の中へ潜ってしまった。あっという間の出来事だった。

その次の日から、私のニキビは3つになってしまったのである。

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