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キャリアプラトーで考えるよい変化と悪い変化

キャリアプラトーという言葉をご存じでしょうか?

組織内で昇進・昇給の可能性に行き詰まり、あるいは行き詰ったと本人が感じて、モチベーションの低下や能力開発機会の損失に陥ることをいうそうです。「プラトー(Plateau)」とは、高原または台地の意味で、キャリアプラトーという文脈では、キャリアの発達が高原状態に達してしまい、伸びしろのない停滞期にあることを表現しています。中年期に陥りやすく、転職を考えるのも、多くはこうしたキャリア・プラトーの状態にある時だといわれています。

このようにキャリアプラトーに陥ったときに成長実感はどうしたら感じられるのでしょうか。今日はそんなことについて考えてみました。

長い間、従来の伝統的キャリアでは、キャリアの所有者は会社・組織でした。組織内でのキャリア形成の目的は「昇進や権力」であり、その成果は「地位や給料」であったのに対して、最近はキャリアの所有者は個人と考え、組織が管理するものではないと定義したプロンティアンキャリアというキャリア感が一般的になってきている気がします。

プロンティアンキャリアとは、「変化し続ける」や「変幻自在な」という意味があり、ギリシャ神話にでてくる海神プロテウスが語源です。
プロテウスが必要に応じて変幻自在に姿を変えることができたそうです。

プロンティアンキャリアでは、下記のような点が従来の伝統的キャリア観と異なります。
1.キャリアとは、個人が創造するものであり、組織が管理するものではないこと
2.キャリアは社会的な成功や失敗ではなく、仕事の報酬は目的が達成されたときに得る「心理的成功」の獲得だと意味付けたこと
3.仕事には遊びの要素が存在するため、生活との統合が可能だと提唱したこと

成長実感

キャリア観の変化はあるものの、私の見解では単にキャリアプランを持つだけでは日々の成長実感は達成されないと考えています。

では、成長実感を得るためには何が必要になるのでしょうか。
それは、もっと単純なことでもたらされます。

もったいぶらずに言うと、それは変化です。
なんだ、そんなことかと言われそうですが、変化は闇雲にやってもいけません。そう、変化には良い変化と悪い変化があるのです。
良い変化を発生させるため、以下の順序で変化を選択し、実行していきます。

  1. 変化の方向性を探る

  2. 変化を選択する

  3. 変化が作用するメカニズムを理解する

  4. 変化への態度と効能を知る

とりあえず、変わりたいから何かやってみたけど長続きしなかったり、しっくりこないみたいな感覚を持っている方には、参考になると思います。

変化の方向性を探る

欲望の見つけ方

まずは、大事にしたい価値観にたどりつき、価値観とリンクのある変化をおこす必要があるのですが、大事にしたい価値観にはどうしたらたどりつけるのでしょうか。

私たちは、知らないうちに他者の欲望の影響を受けています。SNSの影響で、本来的に自分が欲していないのに、自分にも必要だという欲望の暗示がかかっています。

まずは、本質的に自分が求めている濃い欲望と、本来的に自分には関係なく人生を浪費する薄い欲望を仕分けしましょう。
自分が行動して得た成果を思いだします。「なぜ、その行動はあなたにとってそんなに重要なのか」と。楽しかった行動ではなく、自分が本当に充足した時の行動、深い充足感を得た行動を語ります。
深い充足感を得た行動を深堀りすることで、濃い欲望を育てていきます。

・死の床について自分を想像し、そのとき心穏やかでいられるのは、どの欲望に忠実に生きた人生かを考える
・その欲望がどこから生まれたのか自分に問う

上記のような問いをなるべく静かな環境で電子機器もOFFにして考えるといいでしょう。

変化の方向性を探る欲望の見つけ方についてより詳しく知りたい方には、「欲望の見つけ方」という本がおすすめです。

流動性知能と結晶性知能の考慮

自分の欲望が自覚できたら、さっそく関連づく何かをはじめてみようというスタンスでいいのですが、目をつける点でもう一点考慮すべき部分があります。
それは、あなたがこれまで積み上げてきたことと、あなたがやりたいと思っている世の中の新しい潮流との相性です。

具体的には、結晶性知能と流動性知能のバランスです。
それぞれ次のように定義されています。

結晶性知能
個人が長年にわたる経験、教育や学習などから獲得していく知能であり、言語能力、理解力、洞察力などを含む。

流動性知能
新しい環境に適応するために、新しい情報を獲得し、それを処理し、操作していく知能で、処理のスピード、直感力、法則を発見する能力などを含んでいる。

一般的に若い人ほど、流動性知能の獲得にアドバンテージがあり、キャリアを長年つまれてきた人ほど結晶性知能の保有にアドバンテージがあります。

現代は、人間の働ける期間が会社、事業(仕事)の賞味期限(誕生から減衰期になるまでの期間)を完全に超えてしまっています。昔であれば結晶性知能の積み上げだけで、キャリアは全うできました。しかし現代では、一定、流動性知能で新しいことを取り込みながらキャリアを組みなおし、アップデートしないといけません。

Web3、メタバース、LLMと技術革新のスピードはすさまじく、これらのトレンドが発生する度に流行に取り残されるなとインフルエンサーが煽ってきます。

しかし、こういったことに追従していくことがあなたのキャリアを本当に充足させてくれるのでしょうか?あなたがこういった新しい変化を取り入れたいと感じたときに少し立ち止まって以下のようなことを考えてみる必要があります。あなたが、もし若い人であれば、使える時間という意味でのリソースは大きく流動性知能にアドバンテージがあるかもしれません。

  1. 自分のこれまでの結晶性知能と組み合わせる場合に相乗効果かレバレッジできることはあるのか

  2. 完全に新しくはじめるのであれば、時間やパートナーなどの資源においてあなたを優位にしてくれる要素はあるのか

  3. 仮に資源すらない場合、あなたにはそれをどうしても実施したい情熱や動機が存在するのか

以上のことを考えずに、盲目的に何かをはじめると飽きておしまいという結果になりがちです。根っこの部分で地続きな部分から始める方が長続きする気がします。

結晶性知能と流動性知能については以前記事を書いているので紹介しておきます。

変化を選択する

棋士の羽生善治さんは、「直感」の正体について、次のようなことを述べています。

「たとえばひとつの局面で、『この手しかない』とひらめくときがある。100%の確信をもって最善手がわかる。論理的な思考が直感へと昇華された瞬間だ」

PHP新書 『直観力』より

直感というと非科学的なものに聞こえますが、羽生さんの説明によると、そうではなく、経験の蓄積により学習された、高度に論理的な結論なのだそうです。
一方で、私たちは常に直感を信じることができるかというと、必ずしもそうではありません。心の中で、「とはいえ難しいだろうな」と自分の中で直感を否定してしまうことがあります。これらの感情は、一次感情と二次感情と呼ばれます。一次感情は、いわば自分の本音であり、直感的に「こうしたい」という思いです。二次感情は、教育や経験によって身についた常識的な感情、いわば建前です。「こうした方が安全だろう」「反対されない方を選ぼう」という気持ちです。

人は大人になると二次感情で判断しがちです。しかし二次感情ばかりで判断していると、一次感情がわからなくなってしまいます。二次感情ばかりで生きていると、次第に自分の一次感情が何なのかわからなくなってしまいます。そして自分の直感を無視したり、抑え込んだりしてしまう癖がついて直感が働きにくくなるのです。

一次感情が二次感情を超えたとき、つまり自分のインスピレーションに従ったときに人は大きなエネルギーを感じるということです。
自分の心の声に簡単にフタをせず、耳を傾けてください。

もしあなたが、何かの瞬間 抑えきれない心臓の高鳴りを聞いたら、信じてみてください。

宇宙兄弟 セリカさんの言葉

これまで、変化の方向性を探るというセクションで説明してきたことは、どちらかというと論理的に自分の気持ちを整理しましょうという話で、矛盾しているように感じてしまうかもしれないのですが、変化を選択する時は直感(一次感情)を大事にしましょう。

直感を信じましょうという話のほか、東洋思想の考え方をビジネスにもわかりやすくなるように説明してくれている本が中村勝裕さんの「リーダーの悩みはすべて東洋思想で解決できる」という本です。論理的思考だけでは解決できない多くの問題について、抽象的になりがちな東洋思想をかみ砕いて具体的なストーリーと共にわかりやすく説明してくれています。

変化が作用するメカニズムを理解する

変化を選択することができたら、今度は変化が作用するメカニズムを理解してみましょう。

変化は自分に対してどう働きかけるのかというところです。

マシュー・サイドさんという自身も一流のアスリートであった方の本「才能の科学」で、アスリートの世界では、身体技術の向上と認知技術の向上はセットであると紹介されています。

一流のアスリートは、体の細部の動きのかたまりをひとつの意味のかたまりと整理して(チャンキングするというそうです)、認知した上で自身の身体をイメージ通りに動かすための訓練を怠らないそうです。
そして、自分の身体を無意識にでもコントロールできる無念無想の境地(熟練性健忘というそうです。)にまでトレーニングして試合に臨みます。

ところが一方でトレーニングは、目的性訓練と呼ばれる自動性の中で惰性的にやらないトレーニングスタイルをとります。常に検証を繰り返します。
自動性の中で惰性的にやらないというのは、ダニエルカーネマンの著書で有名となった二重過程理論のシステム1(自動的で処理の速い思考)では処理をせず、システム2(意識的で処理の遅い思考)で処理をしているという意味です。
そしてシステム2で構築する認知技術の獲得プロセスそのものが知識を処理する脳の構造自体にも影響を与え、変化させます。

かつての阪神タイガースの伝説的助っ人ランディ・バースは素振りをする日本人の練習を痛烈に批判したらしいのですが、これはバースさんにとって、素振りはシステム1で処理するものという認識があり、上達のイメージがなかったからではないかと推測します。日本人の選手はもしかしたらシステム2で素振りをしていた可能性もあり、一概に素振りが意味がないとは言えないところがあると思います。

話が少し脱線しましたが、変化に向き合うときは、システム2の目的性訓練の原理に基づき接するようにしましょう。我々は目的性訓練の中でしか発展ができません。

変化への態度と効能を知る

私には長らく不思議に感じていたことがありました。
孔子が音楽の素晴らしさを絶賛することが、なぜ論語に記載されているのかということです。音楽が素晴らしいことは、なんとなくわかるのですが、それがわざわざ論語に書かれている理由が不思議でした。

子、斉(せい)に在りて韶(しょう)を聞く。三月、肉の味を知らず。曰わく、圖(はか)らざりき、楽を為すことの斯に至らんとは

論語

韶(しょう)という管弦楽曲を聴いた時の感動の大きさを述べたものです。私は、孔子がわざわざ音楽のことを論語に書いているのは、それが彼にとって重要な変化であったからではないかと最近思うようになりました。この章句は孔子が36歳の頃のものです。孔子は、その死後に偉人になったといってもいいほど晩成のイメージがある方ですが、それでも昔の36歳と言えば、通常の感覚ではかなり人生の後半にあるという認識はあったのではないでしょうか。
そのような時期でありながら、これほど感動できることに出会えた変化の素晴らしさを説いているのではないかと憶測してしまいます。

変化とは、変化そのものに価値があるのではということです。

変化は人生に複数の選択肢を持つためのはじめの一歩。自分をさらせる依存先、選択肢を増やすことは孤独な気持ちを緩和することにもつながります。

また、ダニングクルーガー効果という仮説があります。
この仮説は能力や専門性の低い人は、自分の能力を過大評価するという認知バイアスの仮説です。しかし、逆に新しいことであれば、相対的に人は自己効力感(セルフエフィカシー)を高く感じやすくなるというようにハックすることもできるのではないでしょうか。

これはすなわち変化そのものが、自己効力感に寄与する可能性があるという意味でもあります。過去に私も記事を書いていました。

まとめ

かなりの長文になってしまいましたので、すこし整理すると

  1. 濃い欲望と薄い欲望を識別して濃い欲望に出会い、そして深堀りする

  2. 自分のこれまでの経験をもとに流動性知能や結晶性知能との相性を分析する

  3. 直感的によいと思ったことに基づいているのかを重要視する

  4. 自動運転モードから離れて変化に接する

  5. 変化そのものが、自己効力感を高めて、孤独を緩和してくれるという効能を知り、積極的に活用する

という風になります。楽器とかは、体力もスポーツに比べると必要ないし、変化として選ぶには最適かもしれません。(あなたの直感がYesといっていれば)
「成長を実感させてくれる良い変化や悪い変化は何か?」ということを考えていたらとんでもない長文になってしまいました。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

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