見出し画像

連句作品集

 追悼句を考えていたとき、ふと過去に巻いた連句を思い出した。
 しばらく連句をやっていないけれど、過去に私が捌や両吟を行った連句を一部、公開させていただきたい。連句を齧ったことのある方ならわかると思うが、錚々たる顔ぶれである(私を除いて)。
 ちなみに「稲の波」以外は今まで未公開にしていたものである。
 

短歌行「稲の波」の巻  捌  三鶴 
(第二十九回岐阜県文芸祭 佳作受賞作品)

山麓や稲の波うつ風の相 三鶴 
 月のまにまに馬追の声 本屋 良子 
秋深し旅の衣を綴りゐて 勝又 丘女 
 弾力のなき座布団に座す 鶴                          

茶の色に拘りしきり若き画家  良    
 憂ひを秘めた君の眼差し 女  
睦言の襖の向う母の部屋 鶴
 砕氷船は岸壁を去り 良 
クリオネの天使の翼幸招く 女     
 大杓文字振り球児応援 良     
花守はこそと結びを齧る昼 鶴
 腰掛け石に遊ぶ子雀 女 
ナオ
釈奠に論語素読の聞こえ来て 良 
 木陰で笑ふ三人の婆 女                       
ピカピカの箒跨ぎて初仕事 鶴 
 たてがみ揺らし麒麟現る 女    
鎧脱ぎ心許した一瞬よ 良 
 老ゆればおいと呼び名変りて 鶴 
蚊遣火の煙の先に赤き月 女 
 川遊びしたミャンマーの夏 良 
ナウ
疑へど珍しき魚食うてみむ 鶴     
 零細企業されど夢あり 女     
荒壁の囲む酒蔵花の雲 良 
 眠り誘ふうららかな午後 鶴

起首 令和二年八月二十六日
満尾 令和二年九月八日

二十韻 「ゆく秋」の巻   捌 三鶴

ゆく秋や齢を競ふ巨樹と父 三鶴
 栗名月の朗らかな唄 山中 たけを
運動会醒めぬ熱気を食卓に 田村 里佳
 スマホのメモリ残り一メガ 篠 はらつぱ

トゥクトゥクのタクシー越える国境 門野 優
 御守りらしき首飾り買ふ 鶴
触れ合へば罪となる身の滴さへ を
 暗闇の中照れる声聞く 佳
ちやんちやんこ羽織りてこそと門の前 ぱ
 冬紅葉から透ける青空 優
ナオ
石に坐す詩人は深き瞑想に 鶴
 ねこのねごとをお手本として を
君とならニューノーマルも楽しめる 佳
 虹色の旗掲げ寄り添ふ ぱ
夏の海寄せては返す月影に 優
 古き梅酒に思ふ亡き祖母 鶴
ナウ
十字架を紋に隠した観音像 を
 鳥雲に入る軽やかな舞 佳
山里はやつとやつとの花盛り ぱ
 絶えることなき遠足の列 優

起首 令和二年十月二十八日
満尾 令和二年十一月三十日 於 文音

脇起半歌仙「蕎麦の花」の巻  両吟

三日月に地はおぼろ也蕎麦の花  芭蕉翁    
 白露の風のわたる山畑  服部 秋扇  
芸術祭書家の呼吸の乱れなく 三鶴  
 生やしてみたい粋な口髭 扇
平積みの数多の本はAI系 鶴 
 昇段ごとに棋譜の鮮やか 扇   

昼寝より醒むれば匂ふ青畳 鶴                          
 祭囃子が近づいて来る 扇 
筋骨の男におの娘惚れ 鶴 
 駆け落ち先は巴里と定めて 鶴 
アパルトマン愛の賛歌を二重唱 扇 
 古レコードと古日記捨つ  鶴 
初富士を見に残月の尾根歩く 扇 
 野球キャップは友の拘り  鶴 
大接戦ゲーム終了やや安堵 扇
 鼓笛行進海明けの児等  扇
花の雲シャッター押す眼の輝いて 鶴
 敏き仔馬のピンと立つ耳   扇

起首 令和二年十月二十四日
満尾 令和二年十一月七日 於 文音


歌仙「秋声や」の巻  両吟

秋声や過ぐれば今日を若き日と 三鶴
 人老い易く仰ぐ名月 小林 静司
文机に木の実閑かに転がりて 鶴
 郵便で来る英字新聞 司
徳望のクラス委員は帰国子女 鶴
 大瑠璃鳥に誘い出される 司

万緑にイーゼルの位置確認す 鶴
 朝も異性とメール交換 司
アベックの待ち合わせする駅舎前 鶴
 短めとする固い髪質 司
珍しく魚を捌く父を見て 鶴
 起伏そのまま田の畦の雪 司
富士の肩冬満月のどんと出づ 鶴
 我が臍の緒のなんとなつかし 司
世界史の研究本を読み耽る 鶴
 戦地へ派遣されし看護婦 司
夢追う児たいらけくあれ花筏 鶴
 春の灯ともる沖どめの船 司
ナオ
遍路宿佛の慈悲を噛みしめる 司
 仕事を辞して故郷を捨て 鶴
ポリ袋有料ですがいりますか 司
 海水の上ゴミは漂う 鶴
赤道の国より届く風邪見舞 司
 蒲団の中でスマホ操作す 鶴
別々のこと考えて火取虫 司
 金婚式に登山提案 鶴
運び込むワインゼリーの赤ゆれる 司
 イタリア製の革財布持ち 鶴
種茄子は写楽の顔に似て月夜 司
 待ってましたと踊始まり 鶴
ナウ
願わくばころり往生物音澄む 司
 座敷たおやか祖母の聞香 鶴
テレビでは強風波浪注意報 司
 雀の子等は低く飛びおり 鶴
薄給をはたき全集花に買う 司
 神保町で出開帳拝 鶴

起首 令和二年十月二十日
満尾 令和三年三月三十日 於 文音

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?