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29 ハルはあっという間に村上春樹を読破して、ついに最新作まで読み進んだ。 僕は最新作の「街とその不確かな壁」は電子書籍で購入した。 ハルはそれを電子書籍リーダーで読んでいる。
28 「アルバイトしようかな」 とハルが言った。 「制服がかわいいからアンナミラーズで働きたい」 とハルが続けた。 「アンナミラーズはもうないよ。全店舗閉店した。今はネットショップがあるだけ」 「えー!」 ハルはびっくりして、がっかりした。
彼女は20世紀からタイムリープしてきた20世紀少女。 昭和の時代から来た20世紀少女。 彼女は聖子ちゃんカットだった。 ボートハウスのトレーナーを着ていて、テニスのラケットを持っていた。 彼女がこの時代の人ではないことは、僕にはすぐにわかった。 それは、マスクをしていなかったからだ。 彼女は散歩道のベンチに腰掛けていた。 ふわっと、もわっと、ぼんやりと座っていた。 それはまるで、現実に存在していないかのようだった。 彼女の座っている空間だけが、まるで異
2 彼女の名前はハルと言った。 まるで「2001年宇宙の旅」に出てきたコンピューターのようだ。 そう言えば「2001年宇宙の旅」は、20世紀に作られた21世紀の映画だ。ハルは彼女の名前にぴったりだった。
3 僕がハルのことを自然に受け止めることができたのは、僕が空想の世界を好きだからなのだろう。 僕はよくぼうっとして、色々な空想をする。映画が好きで、たくさんの映画を観る。本が好きで、たくさんの小説を読む。だから現実にはありえないことであっても、僕にはそれを受け入れることができるのだ。
4 「人の心の声が聞こえてしまうの」 とハルが言った。 「人が心の中で思っていることが、聞こえてしまうの」 とハルは言った。
5 ハルと一緒にいると、僕はノスタルジックな気分になった。 昭和の時代は、古き良き時代だった。優しい時代だった。
6 それは、まぎれもなくハルだった。 その写真に写っていたのは、まぎれみなくハルだった。 僕は思いだす。
7 ハルを20世紀に返す方法はないだろうか、と僕は思った。 だけども「バック・トゥ・ザ・フューチャー」じゃないんだから、それは無理な話だ。 ハルの時代は、まだ「バック・トゥ・ザ・フューチャー」は公開されていない。ドクはこの世界にはいない。
8 「ビートルズの新曲が出たんだ」 と僕はハルに言った。 「え? ジョン・レノンは4年前に亡くなったわよね」 とハルは言った。 そうか、4年前か。ハルにとってジョンの死はさほど昔のことではないのだな、と思った。
11 あのウィルスの影響で、僕らはつらい日々を過ごしてきた。 かつては当たり前だったことが当たり前ではなくなり、色々なことが制限されてきた。 思うがままに生きたい。自由に生きたい。 それがようやく叶うのだ。
12 新しい年になった。 正月早々、地震があった。 ハルは阪神・淡路大震災も東日本大震災も知らない。 日本沈没は、映画の中の世界だった。 日本は地震に苦しめられてきた。ハルの知らない世界で。