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蜂女のキス

「仮面ライダーの蜂女ってさあ、何だかセクシーよね」
 と彼女は僕に言った。

「西野七瀬?」
 と僕は聴き返す。
「それは「シン仮面ライダー」のハチオーグ。西野七瀬もいいけど。あらら」


「初代仮面ライダーの蜂女のことか。でも何で知ってるの?」
「なんだか最近昭和に興味があって、仮面ライダースナックのカードとかいろいろネットで観ていたのよ」


「ふうん」
「でも蜂ってさあ、一刺しすると死んじゃうのよね。最終手段なのよね。刺すと終わりのよね」
 彼女は急にシリアスな表情になった。

「何、いきなり? 怖いけど」
「そう考えるとなんだか切なくてね。私も蜂女なのかなあ、って思って」
「何の話?」
「もう死んでもいいっていう気持ちで告白するね。あなたのことが好きなの。私と付き合ってください」
「え、え、え、何、突然」
「ラブストーリーは突然に」
「小田和正か?」

「だめ?」
「いや〜だって急に言われても」
「だめか〜」
 彼女はバタッとその場で倒れた。

「え、なになになに?」
「撃沈した。死んだ」
「何だよそれ?」
「蜂の一刺し」
「あー、もう何なんだよ? どうすりゃいいいんだよ?」

「生き返る方法があります」
「何?」
「キス」
「キス?」

「蜂女のキス。もしあなたが私と付き合ってくれるんだったら私にキスをしてください。やさしいキスをして」
「ドリカムか?」


「もしやっぱりどうしても付き合えないんだったら、寝たふりしてる間に出ていってくれ」
「ジュリーか?」

「さあ、どうする?」
 クリント・イーストウッドか?、と言おうと思ったが、さすがにそれを言ってもわからないと思うので言うのをやめた。


「わかった、付き合うよ」
「ファイナルアンサー?」
「ファイナルアンサー」
「じゃあどうぞ」

 彼女は目をつぶったまま唇を僕に差し出した。
 僕は彼女にキスをした。

「蜂女のキス」
 と言って彼女は眼をあけて、勝ち誇ったかように微笑んだ。

「生き返った。ゾンビか?」
 と僕は言った。
「眠れる森の美女と言いなさい」
 と彼女は答えた。

 美女なのか?
 

おわり






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