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20文字で伝えたいことを伝えようとしたら予想以上に面白くなってしまったもよう


毎朝職場で朝一番の私の仕事は新聞(朝刊)の整理だ。職場には日経新聞から地方新聞まで全7〜8紙が配達され、そのうち私のところには4紙が届く。その内容を確認し、職場に関係ありそうな記事があればコピーを取り担当の人に渡し、そのあと各紙ごとにホルダーにおさめる。

私が個人的に興味のある記事があればそれを読んでコピーをいただいたりすることもあり、新聞整理に結構な時間がかかってしまうこともある。とはいえ毎日そんなことで時間を過ごしているわけではない、とここで弁明しておく。


さて、そんな中でつい先日、ある文章が目に入った。それはテレビ欄のページの下、1月生まれから12月生まれまで、生まれ月ごとのその日の運勢(占い)だ。私は9月生まれ、そこにはこんな文章が書いてあった。



『先輩を倒し自分の地位を上げることを考える』



占いの一文にしては随分と物騒ではないか?私には先輩というポジションの人はいない。上司、と置き換えたとしてもパートタイマーの身分でこういう状況は考えにくいので参考になるかと言われるとそんなに役に立たない。でも私はニヤニヤしていた。占いというよりは一言アドバイス的なこのコーナー、面白い。他の月生まれの箇所も読んでみる。

不機嫌な人に優しく接して手玉に取るもよう

手間賃だけもらって情報を渡すのが嫌になる


その日の運勢を伝えるためのここまで率直な内容は珍しい。誰にでも当てはまる、当たり障りのないふわっとした文章、それが一般的な占いのイメージ、それとはあまりにかけ離れている。それに、これって人としてアカンのではないか?とも思える。“手玉に取る”とか“手間賃だけもらって”など、言い回しが独特。独特なだけに言わんとするところがわかりやすくもある。
占いなんて普通なら自分に関係のある箇所しか読まないものだけど、私は占いそのものよりも短い文章で最大限のアドバイスを伝えようとしているかのような、その文章に興味がわいたのだった。ニヤニヤしながらふとある事に気づいた。文章は紙面のスペースの都合で毎日20文字におさめなければいけないのだった。そうなると言葉のチョイスも重要である。


私はますますニヤニヤしてしまう。
この生まれ月別の運勢は毎日掲載、いわば日めくり的なもの、となればこれは日にちを遡って、他の日のも他の人のも読んでみたいという欲望にかられる。古新聞は過去3、4ヶ月分ストックしているがキリが無いのでとりあえず9月分を読んでみた。誤解のないように言っておくが、全部がここまで攻めたものばかりなわけではない。もっとマトモ、いや普通の文章のほうが多い。ただ、読んでみると毎日半分くらいは「ふふふ」とほくそ笑んでしまう。それらをジャンル分けしてみた。



【ポジティブで役に立つ系】

・相手の反応は素直。全然警戒しなくていい
・主役のような存在感があり注目され戸惑う
・声が大きく目立つ。主役になって本領を発揮


「なるほど」と思わず膝を叩きたくなるようなアドバイス。
相手が何を考えてるか探るのは至難の業、でも下心は無いって教えてもらえたらすごくありがたい。一見普通の文章に思えるが、“全然警戒しなくていい”の“全然”とか、“戸惑う”という表現にそこのところを伝えておきたいのだという占い人の強い意図を感じるのは私だけ?


【ネガティブだけど役に立つ系】

・絶対に無理なことを提案されて頭が痛くなる
・関係がもつれた方が自分にとって有利になる
・相手の本心は違う。口実を与えないよう阻止
・上司の表情が暗い。帰らないと愚痴が始まる
・忘れるはずがないことをすっかり忘れている


もしかすると今日はあまりスッキリしない一日になりそうだと教えといてもらえたら無駄に悩まなくて済みそう。“絶対に無理”、“愚痴が始まる”あたりが私のニヤニヤポイント。


【あまりに具体的すぎる系】

・大事な物は見られないように隠した方がいい
・費用の負担が嫌なので参加しないことにする
・スピード感があり散財しやすいかもしれない
・予定を変えて遊びに行く。家族に見破られる


見られて困るような大事な物、持ってたっけ?
何の費用なのか、飲み会にでも誘われるのか?
スピード感より慎重さ。
家族に“見破られ”た時の言い訳を考えておこう。


【家族のあいだに何があったん?系】

・家族の冗談を理解できない。気持ちが離れる
・家族の機嫌がやけに良い。用心した方がいい
・家族の話に疑問を感じる。任せない方がいい

家族だからこそ分かる空気感と本音がダダ漏れ。


【人としてアカン系】

・都合の良いことを言って後のことは考えない
・むちゃな指示は抵抗せずごまかすようになる
・力関係を利用できるもよう。うまく立ち回る
・勝手に動く。やってしまえば後で認められる
・遠慮しない精神力で先輩の手柄を横取りする
・欠点を指摘され根に持つ。上司に協力しない
・他人のふりをして帰りたくなるかもしれない


職場にいたら迷惑な人のやり口のオンパレード。自分中心で人の言うことを聞かない。この状況を招いた後、その人は一体どうなってしまうのか‥


どうでしょう。この世界観、分かっていただけたかしら。
そして毎日、見事なまでのジャスト20文字。文章の特徴としては、

○絶対に、とは言い切らない。〜かもしれない、〜のもよう、を使いがち
○原因→結果を端的に文章化。アドバイスというより現状説明。
○「今日のあなたはこうです」ではなく、「今日のあなたはこうなりそう」だけどその先は自分でなんとかしなくちゃいけないもよう
○先輩、後輩、出てきがち。そして大体において先輩のことをよく思っていないもよう



さて、きっかけとなった私の、『先輩を倒し‥』、遡るとその少し前から何やら企てていたもよう。

計画が成功する。立場が変わるかもしれない

新しい世界が急速に広がっていく感じがする

敵は奇跡的に回復する。当てが外れがっかり

勝手に踏み込んでくる人がいてけんかになる

一方的な通知が来る。関係を断つことになる

からの

先輩を倒し自分の地位を上げることを考える

この流れはある一連の出来事を指しているようにもとれる。9月生まれの人はこれを連続して読んで、「ふむふむ」「なるほど」「よっしゃ」「がっくり」と一喜一憂しているもよう。

この記事を書き終えてネット検索してみたら、この占い、『シュールで文学的』と話題になってるもよう。それ読んでまたニヤニヤしてしまう。

良いことも悪いこともちょっと捻くれた言い回しで、時にめちゃくちゃ具体的なアドバイスをしてくれる。相手に対する表現が直接的だからこそ誰もが自分の状況に当てはめやすく、たとえ占い通りの不快な状況が訪れても「キターッ」って、逆に嬉しくなっちゃうかも。もしかしてそこが狙い?悪いことが起きたら起きたで乗り越えてやる、みたいな気持ちが生まれそう。だとしたらこれはもうクセになっちゃうよね。


緇井鶏子しいけいこ先生!私、完全に虜になったもよう



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