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ある青年について

▲さんと知り合って少しの時間が経った。▲さんは30歳手前の神奈川に住む青年。SNSのメッセージで急に岡上淑子の画集を薦めてきて、そこから仲良くなった。

 

一年半前、尊敬する日記作家兼塾講師であるところのFさんと▲さんは読書家の集まるグループを作った。元はと言えば夢野久作を研究している大学生のIさんと私、計4人で通話をしようとなったのがグループの発端だった。▲さんの人脈の広さから生まれた縁だった。

グループはもう残っていない。初対面同士の読書好きが集うグループには人見知りを遺憾なく発揮してあまり参加していなかった。サド・ナボコフ・ダダイズム…とか、その当時の私から見れば取り扱う読書の話題が高尚に思えてたのもある。徐々に人が減り、みんな飽きてしまった。それを悲しんでいる人もいない気がする。

▲さんやFさんとは去年関東で会い、展覧会を見たり東京の中の田舎に行ったり、素敵な思い出をもらった。Eさんという可憐な女性と▲さんと私で会ってお喋りしたこともある。

でも、▲さんはもうそんな夏は来ないという。来年には自分は生き絶えていると、そう言う。

幼少期からの家庭環境の悪さに加え、最近おこったことにも彼は苦しんでいるという。

彼に会った時も思った。現実世界の中で彼だけ3Hの鉛筆で描写されたように雰囲気が脆く思えて、後ろ姿を見ていると心配になる。

▲さんと通話するとき彼は喋りっぱなしでやまないことを知らないように思えるけれど、ふとしたときの溜息混じりの「つらい」という言葉から、彼の抱える重圧を感じて息苦しくなる。

 

私は▲さんに死んでもらいたくない。▲さんも本来なら生き続けたいと思っているはず。類稀なる文才と軽薄な冗談スキル、明らかにエキセントリックなオーラを持ち合わせた魅力を持つ人、失うのは惜しい。でも死が彼の救いになるのなら「死ぬな」と現世に引き留めることはできない。

たくさんの本を読んできた▲さんから見れば、私の書く言葉なんて戯言に過ぎないんだろうけど。

▲さんと見た山下公園からの夜景はとても美しかった。広場ではDQNが花火して警察に注意されていた。買ってもらったアイスを食べて花畑を遊覧した。彼も「夢みたいだった」と回顧していた、あの幻のような夜のことを私は忘れないだろう。

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2020/10/21

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