寒くて動けない。土の中でただじっとしていることしかできない、長い冬が終わった。陽の暖かさは地面に伝わり、春の訪れを知る。
　自由に動かせる体。仲間たちと、声高らかに歌い、地上を目指す。
　色とりどりの花の蜜を食べよう。小さな虫たちをみんなで協力して捕まえよう。希望のつまった話をしながら、上へ上へと掘り進める。
　最後の土の塊を押し出して、いよいよ陽の光が巣穴に差し込む。やあやあ！ハロー！新しい世界！期待に膨らんだ胸を隠さず、全員が地上に出た。
　いざ食のために働かんと散り始めた時、暖かな陽は遮られ、不穏な影が地面に落ちた。
　ニンゲンだ。しかもニンゲンの子どもがふたり。奴らは好奇心の名のもとに、残虐非道を繰り返す。早速奴らに捕まった仲間の、変わり果てた姿が転がる。逃げまどう仲間を踏み潰して笑っている。
　自分の手足が、体から離れていくのが見えた。次こそはニンゲンになる、そう念じて我々の春は終わった。

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啓蟄ですね🐜