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Stones alive complex (Libyan Desert Glass)


マッドハックハッター星の列車に乗りたい?
なら、効率の良い方法は次の通りだ。

まずは駐車場。

乗ってきた車かタクシーは、駅から5キロほど離れた適当な荒野へ停める。

なぜなら、駅から広がる荒野へはみ出した乗客が5キロほどの長い行列をいつも作ってるからだ。
駅の専用駐車場に停めてしまうと、列の最後尾まで行くのに5キロ、列に続き駅へ戻るまでに5キロで、計10キロを無駄に歩かされることになる。

果てしなく長い列の最後尾に並んだら、急いでお腹を押さえ、ロダンの考える人が立ち上がろうとしてるようなポーズをし、

「うわあーっ!
漏れちゃうーっ!」

と、跳ねて叫ぶ。

あなたが地球人だと理解してもらえたら。
わずか0.14CCの漏れがマッドハックハッター星の大気に含まれる二酸化ハッタリウムと化学反応を起こし、空気すべてをニトログリセリンに変えてしまう液体により幾度も星全体が荒野になった出来事を体験しているマッドハックハッター星人のパニックで、身体をバケツリレーみたいにして駅まで運ばれ、停車している列車の地球人専用御手洗へ放り込んでもらえる。最短時間でね。

マッドハックハッター星人は、光合成と同様の仕組みで栄養素は体内合成する。ゆえに御手洗などという原始的な設備は不要だ。

しかし、かつては。
ごくたまに観光でやってくる地球人のため、いつでも素早く貸せるように各家庭では特殊な分解処置ができる御手洗を用意し、非常時に備えてあった。
これが、ちっとも有効な対策にならず、御手洗も御手洗以外のものもやっぱり何度も消滅した。

この事件の原因は、
マッドハックハッター星の対策案ではなく、地球人の公共マナーの問題だったのだ。

さて。
無事に御手洗へと放り込まれたら少し時間を置いてから、マッドハックハッター星人を安心させてあげるために、大げさにすっきりした表情をして車内へと出てみよう。

とにかく復興物資を目的地へ運搬する鉄道路線だけはようやく復旧させたマッドハックハッター星人たちが、隙間なく座席にすし詰めになってるはずだ。

あなたと身長が同じくらいで、縦に長い帽子の形に似たマッドハックハッター星人は、細い触手の手足を体に巻きつけたらほんとに逆さになった帽子になってて、席でじっとしてる。

通路もびっしり彼らで詰まってるが、気にせず進もう。

マッドハックハッター星人は体がとても柔らかく、帽子とまったく同じの上に開いた穴から中までが空洞になっている。
手で強めに押せばぐにゃりと大きく凹み、歩けるほどの隙間は簡単につくれる。
なお。その凹みは二度と元へは戻らないけど、気にしなくていい。
彼らも気にしてない。
はず・・・だ。

シマウマがライオンに文句を言わないように、極度に植物気質なマッドハックハッター星人は何をされても逆らわずに黙っており、生存戦略としてはその個体数を増やすことだけに専念してきたんだ。

気に入った席が見つかるまで、車内を進もう。

気に入った席が見つかっても、当然そこには誰かが座っている。

帽子のツバに見えるそいつの葉っぱ部分へよじ登り、その頭の穴からあなたの体をすっぽり入れればいい。

狭くて体育座りしかできないが、さっきも言ったようにマッドハックハッター星人の体は柔らかい。膝で押せば、かなりの幅に膨らむ。

え?
座ったら外の景色が見えないって?

さっきも言ったようにマッドハックハッター星人の体は柔らかい。指を突き刺せば簡単に穴があく。
窓に向けて、穴を空けよう。
そのまま指をグリグリ回せば、好みの大きさの穴が開けられる。

さあ!
満席になったら、列車が走り出すぞ!
くつろいで景色を楽しもう。

この列車の目的地というか終点は、ここからノンストップで一週間走ったとこにある再建して稼働し始めた『星間移民船工場』だ。

人生観が変わるような観光地だよ。
オーストラリア大陸くらいある、木製の宇宙船を建造しようとしているんだ。
みんな一生に一度は、見にゆくことをオススメするね。

毎回、完成前に工場ごと消滅してしまうから、見物しにゆくタイミングはよく考えて。

なせだかマッドハックハッター星人は、移民船でこの星から逃げ出そうとしているんだ。

もしかしたら、
『この星から』ではなくて、
『地球人が来れる星から』かもしれないが・・・

え?
そうだよ。
ノンストップで、そこまでは一週間かかる。

え?
食堂車とか車内販売とか、なんていう気の利いたもんはない。
さっきも言ったようにマッドハックハッター星人は光合成するから、食事なんかしない。

は?
なら、こっちの食事はどうするのかって?
さっきも言ったようにマッドハックハッター星人は体が柔らかい。指で簡単に引きちぎれる。
体は、インド料理のナンの味がするし、帽子のツバのところをギュッと絞ればビール風味の体液がしたたってくるよ。

その体液には中毒性があるそうだ。
飲みすぎて、依存性にならないように気をつけてくれ。

一週間の楽しみは、マッドハックハッター星人の体の中からコピペしたよう続く変わらない荒野の風景を眺めたり、薄暗闇でぼんやりしたり、食ったり飲んだりするだけだから自己管理は大切だ。

覚えておいてくれ。
マッドハックハッター星人は日が暮れると、蕾のようにしぼんで体を固くする。
夜明けまで出られなくなるから、寝る前に御手洗へは必ず行っておけ。

これも覚えておいてくれ。
マッドハックハッター星の大気爆発は、どれも列車の中から起こってるんだ。
それも、いつも夜に。

それじゃあ!
良い旅を!

イッテ(*ˊᵕˋ*)ノ"ラッシャイ♪*゚

(おわり)

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