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流れる雲を追いかけて④

前回はここまで

どれくらい走っただろうか…。
そんなに長い時間ではなかったけれど、仰向けになっていると時間経過がわからなくなる。

病院に到着。慌ただしくなる。

「ストレッチャー降ろすよ」
ガシャンッ!ガシャッ!シャッ!
(救急車用ストレッチャーなので車輪付きの脚が折りたためる)
そして右に曲がり左に曲がり…
仰向けだけど、何だか目が回る。
小学生のころ、先生が座るキャスター付きの椅子に目隠しして座って別の場所に移動する遊び(イタズラ)を友だちとやったものだけど、まるでそんな感じだ(わかるかw

当直スタッフの手際と浜辺先生

処置室に入った。医療系ドラマでよく見るあの切迫した雰囲気がどっと押し寄せて圧倒される。
改めて心電図のコードが貼り付けられ、即座に点滴の針を左腕にぶっ刺される。最大出力でぼたぼた落ちるのが見える。右腕からは採血だ。血圧が低過ぎて、キツく縛っても腕から血管が浮き上がらない。すると
「ここから採血しまーす」
と当然かのように(アルコールかぶれはありますか?は訊かれた)右手の甲に針を刺し採血。左手首から脈を取られ、左脇に体温計を突っ込まれる。
まだ採血してるのにも関わらず、左腕には血圧計が装置され自動計測も始まった。F1ピットクルーのタイヤ交換とガスチャージを同時にやるみたいな見事な連携にほれぼれしてる場合ではない。いよいよ異常事態なんじゃないかと実感が湧いてくる。

そこに天使が現れた。

男ってのはバカなもので、こんなときでも美人センサーが働くのだ。完全に浜辺美波さんなのだ(意識がヤバく、それは願望だったかもしれない)
その浜辺先生が
「はーい、どうしましたー?」
と、子どもをあやす口調で話し始める。
僕は処置室の眩しさで薄目しか開けられなかったが、先生に見つめられてドキッとした。
もちろん先生は意識レベルの確認だから、目を見て話しかけて受け応えの状態をみているだけなのだがw

「ちょっとお腹見て見よっかー(ニコッ)」
と下腹部を押しながら診察する。
「痛かったら言ってねー」
と浜辺先生。
「だ、大丈夫です」
と僕。
点滴のおかげで血圧は90くらいまで回復してきた。
遠くで浜辺先生の
「輸血やる?ギリ大丈夫かな?」
という声が聴こえる。
結局、輸血に関する同意書にサインをすることになった。
「これ書っけるかなぁ…寝たままで。あー頭起こさないで!私持ってるから(ニコッ)字が汚くてもいいからフルネームで、おっ頑張れ!…OKありがとー(ニコッ)」
何となく不安が過ぎる緊張感いっぱいの処置室で、浜辺先生とのやり取りは不思議とほのぼのとしている。

浜辺先生の余裕…
後でサインする書類でわかるのだが、切迫した状態でも余裕ある(ように見える)対応は医療従事者としてふつうなのだろう。

初期看護計画より

その後
「はーい横向けるかなー?そうそう、で、ちょっとお尻見せてねー(ニコッ)」
と浜辺先生は僕のズボンを瞬く間に下ろしパンツもズリ下げる。
「いやぁー」(うそ)
もう変態プレイだが、そこは医療行為であり適切な診断である。
肛門に指を突っ込みグリグリすると
「痔じゃなさそうですね。この辺りじゃない。出血は止まってそうですね」
と診断。
この後胸部レントゲン、CTスキャン(糖尿病のため造影剤なし)を受け、しばらく放置。
ここで奥さんが僕のスマホを持ってきてくれてたのが判明したので、ようやくTwitter(x)に投稿

時刻は3:14であった。少し余裕がある。

大腸憩室出血とは



浜辺先生から説明を受ける。

大腸がボコボコしている部分を憩室と言って、そこが傷ついて出血したという見立て。ただ、内視鏡検査はスタッフが揃わなくて出来ないためあくまでも予想とのこと。
加齢によるところもあるし、原因は特定できない。出血も止まっているため、多分内視鏡検査でも出血箇所は特定できないと思われる。手術して怪しい箇所を切除縫合もできるけど、それは滅多にやらない手術。しばらく安静にして問題なければ退院。

出典 浜辺先生

なーるほど。
実は自宅に帰る電車内で「下血原因」とか「大腸出血」とかをググりまくり「大腸癌」というワードが引っかかってドキドキしていたのだ。下血が鮮血の場合、癌の進行は最終ステージらしい。そして僕は紛れもなく癌家系なので確率高いな…と。

浜辺先生は
「大腸癌は内視鏡やんなきゃわからないよ。自覚症状なしで下血はないよー心配し過ぎだって(ニコッ)」
と。なんて癒され笑顔なんだ──!(マスクなのであくまでも想像だけど)

今できる処置は全て終わり、ようやく僕は解放された。いやいや、ここはありがとうございますしかない。そう、こんなにも多くの人のお陰で僕は生かされたのだ。しみじみ思う。人はひとりじゃ生きていけない。

さて、病室は7階だという。すでに時刻は4時を回っていた。なんとウチの奥さんは僕が処置されている間ずっと待合室で待たされた挙句、病室へ運ばれる僕を見送るだけ(病室に入ることはできない)で帰されたという。
※救急車で一緒に来たため帰る足がない。バスもタクシーもなく1時間かけて最寄りの駅まで歩いたそうだ。本当申し訳ない。


こうして無事入院生活が始まるのだが、ここから先は特に記す事がない。
絶食から通常へ戻す過程の食事とか、内視鏡検査の麻酔とか、無くはないけど大したことじゃない。番外編あるかもだけと、ここまででこのシリーズはおしまい。

まだ入院中(実は退院後すぐに再発して同じ病院に担ぎこまれた)で時間に余裕があるから何か書くかもしれないけどね。

おしまい。

窓から雲を眺める
病室内は快適な空調で暑さゼロ
雲があったほうが空に表情があってよい
7階からの空は広くていい
深夜4時くらいかな
雨と晴れの境界線がわかる
陽が落ちて
陽が暮れるのを見届ける毎日



よかったら番外編へどうぞ。

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