星が舞い降りてきたこの世界で

● レ・ミゼラブルの観劇期間を終えてからの数日後、わたしはそそくさと仕事をあとにして郵便局へ向いジャニーズjr情報局への支払いを済ませていた。

きっかけは3月29日のミュージックステーション。録画したまま忘れていたそれを5月中頃になってようやく発掘したときだった。およそ48秒間の出来事である。中央から颯爽と現れたあの男の子は王子か、はたまた天使か。ふわりと立ち位置へ舞い降り、軽い身のこなしは花弁のようにたおやかで、瞳には凛とした生命の閃光が走り抜き、一瞬で脳裏に焼き付いた。

彼は今年から新たにSnowManのメンバーへ加わった滝沢社長の秘蔵っ子こと村上真都ラウールさんだった。こんなにも麗しく、貴公子のような男の子が現存していたことを今日まで見過ごしていた自分に大きなショックを受ける。ジャニーズはわたしの知らないところでずっとずっと地球を回し続けていたのだ。彼への沸き立つ高揚感を引き金にすぐさま飛んだSnowManのYouTubeチャンネルとアイランドTV。仕事の合間を縫って全動画の履修を二日足らずで完遂した。夏休みの宿題はすべて後半へ持ち越すほど行動力が欠落していることで有名なわたしをここまで衝動的にさせるSnowManの勢いとは。ゲレンデの雪を踏みしめた瞬間、薫風を連れた大きな雪崩がわたしをまるっと呑み込んだ。もう抜け出せそうにない。

【みるみるうちにお顔が変わるので一瞬たりとも目が離せない、いま世界で一番麗しい男子高校生ことラウールさん(呼び捨てとかできない)】


●わたしは感情がある程度の沸点を越えるとすぐ泣く癖がある。ようはすごく涙もろい。どういうわけか喉元に詰まったまま出てこない言葉たちが口からではなく目を通じて排出されるらしいのだ。(かっこわるいのでいい加減治せるものなら治したいんだけど、、)そんなわたしが近日号泣したことといえば、ジャニー喜多川氏の逝去から初めて目にしたSnowManの姿だった。スポットライトの下で浮かび上がる彼らの凛とした佇まい、影が映し出す精悍な顔立ち、白いライトに切り替わった瞬間に彼らの玲瓏たる表情が仮面舞踏会の皮切りを彩る。

人生の半分以上ジャニーズを側にして過ごしてきた生活から離れて数年、もう戻るつもりなんてなかったのに。そうどこかで誓ったはずなのに。いつの日もしれっと生活に溶け込んでくるジャニーズにぼかしを入れてグラデーションの背景と化させていたはずだった。でも本当はフィルター加工を施すことで離れた気になっていただけだったのかもしれない。SnowManが魅せるジャニーズへの寵愛を打見ただけで、あっという間にひとつひとつの色味が強く明瞭となっていく。

どうしてあんなにも瞬きの間に生命の光をほとばしらせることができるのか、アイドルを見るといつも思う。花弁雪のような桜を据えて燦然と舞い踊る彼らが今日まで抱いてきた艱難辛苦や一念発起はきっと死ぬまで、1ミリたりとも本当の意味をもって私たちへ届くことはないのだろう。そう思うと何かがグワっとこみあげた。この絶佳に至るまでの道のりに起きた彼らを取り巻く出来事を、天啓に置き換えてわかったようなフリをして安易に語ってはならないことをなんとなく悟ってしまったのかもしれない。だからだろうか、彼らが織りなす一挙手一投足の端々からちらつく心根にひどく胸を打たれてどうしようもなかった。


●舞い踊る桜も粉雪も刹那に映るからこそ人はその絢爛さに陶酔する、それを生身の男の子に求めてしまっているのでは?本当は未成年という固有名詞を貴いものの象徴にして固執しているだけなのでは?欲しいところだけをトリミングしてコンビニスイーツの如く消費しているだけなのでは?
わたしはこわいのかもしれない。応援することが。応援していく中で知らなくてよかったことにも気付いてしまう未来が来ることを。どうする?もう一度ジャニーズのファンをする?黎明の幕が上がるまで彼らが届ける花弁をひとつひとつ拾っていける?

ふと顔を上げるとラウールさんが瞳の奥で手招きをしている。そんな気がした。