2:35

髪を結って、姿勢を正して、テレビの正面に椅子を置いて、腰かける。

月刊みうらひろき"のDVD、快晴で精神状態が良好な時に拝見しようとずっと心に留めていたこの日を今日やっと迎えることができた。

ナポリ。

風光明媚な景観で知られる観光都市だそうで「ナポリを見てから死ね 」と謳われているほどの場所らしい。自分の人生とあまりにもかけ離れた国の空気感はどうしたって想像でしか補えないけれど時に想像は胸を高鳴らせたりセンティメントにしたり今(瞬間)ある些細な幸福に気付けるものになったりする代物だから侮れない。


ナポリの土地ならではの細い路地に落とされる影はどこかメランコリーさが漂い、それらに溶け込むように、あるいは纏うようにして歩いたり踊ったりする三浦くんがいた。その姿からナポリの香りが鼻をかすめる。

岩井俊二監督作品に『花とアリス』という映画がある。蒼井優演じるアリスが紙コップとガムテープで即席バレエシューズを作って制服のまま踊るシーンがあるのだけれどその空気感と近しいものが月刊の三浦くんに感じられてちょっと嬉しくなった。例えるならば春特有の生ぬるい暖かさがふいに恋しくなる、そんな感覚と似ている。(3月の誕生日ケーキ、どこのお店で注文しようかな)

そういったムードを表現する技術はもちろん、粛々とただそこにある物を自分の中へ引き込んで、一つの作品に仕上がることができる才能もまた彼にはあるんだろうなと見度にしばしば思う。当の本人はきっと気付いていないと思うけど。気付いていたとしてもこえみよがしに技術をひけらかしたりしないのかもしれない。見れば見るほど三浦くんの性格が冴え冴えとしてくるようなおよそ2分半、カップラーメンが出来上がるより短いなんて嘘だと思ってHDDの再生時間を確認したらちゃんと2:35と表示されている。思い返すとウェルチを一気飲みしているような、それくらい喉元が濃厚になる2分半だった。


メイキングには窓辺から見えるナポリ湾の絶景に「なにこれ?なにこれなにこれ?!え、なんすかコレ?半端ないじゃん」と眩しさに目を細めながら興奮する三浦くんがいた。たった数秒前までアンニュイな表情をフィルムに焼き付けていた人とは思えないその変わりように思わず顔がほころぶ。

命あるすべての生き物の成長はとにかく本当に早い。三浦くんだって例に漏れず一分一秒が尊い命。ちょっとずつ大人になっていくことなんて当の本人は全然気付かないものだし気にしてなんかいないのもわかる。そしてそれを淋しく思ってるのはごく一部の人間だけということも知っている。

現を抜かしてばかりいないで今を見逃さないよう刮目していなければいけない、そんなこと誰かに言われなくても十分理解してるつもりだけれどこの情緒は本人じゃないからこそ実感できる特別なものである、と同時に一部の人間だけが持てる特権なのかもしれないとも思っている。人に迷惑をかけない範囲なら自分1人くらい大切にしていてもいいんじゃないだろうか と。だから20歳になるまでの数十日だけ、それだけ、その時が来るまで、もう少し情にもろくいてもいいことにする。