見出し画像

M&P弁護士図鑑 Vol.2:四大事務所からインハウスを経てM&Pに キャリア変遷の根底には「専門性と“おもしろさ”の追求」(後藤 徹也弁護士)

2019年1月に30人の弁護士でスタートした三浦法律事務所(M&P)も、今や100名近い弁護士を抱える法律事務所にまで成長しました。この成長の裏には、ユニークなキャリアと強い志を持った弁護士一人ひとりの思いが存在します。そこで本連載では、M&Pの個性的な弁護士たちに個別取材を決行。普段はなかなか語られない、弁護士たちの素顔を掘り下げてご紹介します。

後藤 徹也(ごとう・てつや)PROFILE:2012年弁護士登録(65期)。11年慶應義塾大学法学部卒業。12年~21年長島・大野・常松法律事務所。21年~21年8月野村證券株式会社。21年8月に三浦法律事務所参画


――本連載、第二回は65期の後藤徹也弁護士です。後藤弁護士は新卒で四大事務所の一つに入り、約8年在籍していますが、ファーストキャリアはどのように選択したのでしょうか。

後藤 徹也弁護士(以下、後藤):私は、司法試験を受けたきっかけがそもそも「四大に入りたい」というものだったんです。というのも、将来何になろうかなと考えたときに、地方出身で、勉強も嫌いではなかった私は、幼少の頃から医者や弁護士に対する漠然とした憧れのようなものもあり、文系に進むと決めてからは弁護士を目指してみようかと考えていました。元々実家が会社を経営していたので、経営にも興味があったし、弁護士という漠然とした夢もあって、両方組み合わさったところで企業法務に携わろうと思うようになりました。日本に四大法律事務所が存在する、といった新聞記事をたまたま読んで、企業法務をやるなら一番大きい事務所に入りたいと思い、そのためにはどうしたらいいかと調べたら、若くて、高い順位で司法試験に受かることがポイントのようだったので、大学時代は勉強を頑張って司法試験を受け、当時最も規模の大きかった長島・大野・常松法律事務所に入所しました。

――有言実行ですね。大手事務所に入ることを目指して弁護士になったのに、そこを辞めようと思った理由は?

後藤:入所して4年半が経過したころ、2017年にニューヨークに留学し、その後2018年からオーストラリアの事務所で研修をしました。私自身、留学・研修前は事務所を辞めるつもりなんて一切なかったですし、事務所に何か不満があったとかではなかったのですが、留学・研修に出てみて、駐在で海外勤務している弁護士以外の日本人の方々や、海外の弁護士と交流する機会がたくさんあって、いろんな話を聞く中で、自分がこの4年半、目を向けていなかったさまざまな世界や価値観があることを再認識し、いつの間にか自分が「弁護士として成長する」というよりも「いかに四大でパートナーになるか」というマインドになっていたかを気付かされました。それから、一つの組織にこだわらずに外に目を向け、自分の中の引き出しや、人間性のバラエティーみたいなものを増やしたいなと思うようになりました。そのためには兎にも角にも一旦四大から外に出てみようと。

――大手事務所を退所して、次に選んだのは証券会社でしたね。インハウスを選んだ理由は?

後藤:もともと私は四大志望でしたが、私が企業法務弁護士になることを決めたころ、ちょうど制度移行で法科大学院ができ始めて、弁護士の選択肢の一つとしてインハウスというポジションが再注目を集め始めていた時代でしたので、インハウスも選択肢の一つとして考えたことがありました。四大から外に出ようと思った際にそれを思い出して、では初心に戻ってまずはインハウスに挑戦してみようと思ったんです。あとは、子育てにコミットしたいという思いもあったので、ワークライフバランスが取りやすいと思ったこともインハウスを選んだ理由です。これまで自分がやってきた公開買付けや上場株式の取引に関する仕事に携われる会社を選んだ結果、証券会社になりました。

――ずばり聞いてしまいますが(笑)、インハウスだった期間は4か月と短かったですよね。そのあと三浦法律事務所に参画したわけですが、短期間でのキャリアチェンジの理由はなんだったのでしょうか。

後藤:インハウスとして働いてみて、これまであまり触れてこなかった金融のレギュレーションに関する仕事をしたり、いわゆるフロント部署からの相談に対応したりと業務自体にはやりがいもありましたしインハウスの良さもあったのですが、端的に言って「やっぱり自分はM&Aやディールものの案件を回しているのが好きだったな」ということを強く実感しました。法律事務所時代の、タイトな期限の中、「大変だー!」とか言いながらチームで仕事をして、公表して、達成感を味わう、一連のプロジェクト感みたいなものが恋しくなってしまいました。インハウスを数年続けることもできましたが、それでプライベートプラクティスに戻っても、実務が変わっているかもしれないし、感覚も失われてしまうかもしれないと思ったので、戻るなら早く戻ろうと決断しました。

――次に入る事務所はどのような条件で探しましたか?

後藤:プライベートプラクティスに戻ろうと思った理由が、以前四大でしていたようなM&Aやプロジェクトの案件がやりたいというものでしたので、こうした案件があるのは必須条件でしたね。一方、もっといろんな経験をしたいと思って最初の事務所を出たので、もう一度大手事務所に戻ることは選択肢から除きました。そうすると、中小規模の事務所で大手事務所と同じようなディールがたくさんできて、おもしろいことができそうな事務所はM&Pしか思いつかなかったので、実はM&Pしか受けていないんです(笑)。

――外からM&Pを見て、おもしろそうだと思ったポイントはどういうところですか?

後藤:M&Pは、シンプルに、「突如現れた、得体の知れない企業法務の法律事務所」だったんですよ。業界でも話題になっていましたし、なんとなくみんな「ど、どうなっていくのだろう…」と周りから見ている感じはありましたね(笑)。当時もM&Pはいろいろな記事を発信していて、noteで連載していた弁護士のインタビュー記事を読むと、所属弁護士が活き活きと働いている様子が感じられて、「すごいな」というよりは「おもしろそう」だと感じましたし、この中に入ったらどんなことが起きるのか、自分もそれに触れてみたいなと思いました。

――後藤弁護士は堅実なタイプかと思っていましたが、意外と思い切りの良いチャレンジャータイプだということがこの取材を通して分かりました(笑)。M&Pに入ってその「おもしろさ」は実感できていますか?

後藤:大手事務所と違っていろんなことが決まっていないから、あらゆることを自分たちで決めていきますが、社会人になってからこのような意思決定のプロセスに関与することはなかったので新鮮です。弁護士もスタッフも、みんながエネルギッシュで常に進化しようとしていますよね。うち、いろんなこと起きるじゃないですか?(笑)当然、それなりの規模の新しい組織を日々作っているわけですから、大変なこともあるけど、おもしろいし飽きないですね。

――M&Pはどんな雰囲気の事務所ですか?

後藤:熱意というか、頑張れる人が多いですね。「頑張れる=たくさん働ける」という意味ではなくて。やはりみんな何かしらの熱意や思いを持っていて、何か実現したいことがあるからM&Pに来たという人が多いと思います。「熱意」や「思い」があるからと言って、みんなが明るくて社交的なキャラクターかというとそんなことはないですが、みんなそれぞれの形で事務所のことや自分のキャリアとかのことを自分の頭で考えていて、そこに楽しさを感じている人が多いと思います。

私は、熱意があるというのは一緒に働くうえで大切な要素だと思っていて、例えば仕事のやり方やM&Aの知識は教えてあげられますが、意欲や熱意は教えることが難しいものだと思いますし、熱意や意欲があってこその吸収力や成長だと思うので。なので、「M&Aを頑張りたい」とか、「M&Pで成長したい」みたいに思える人に今後も入ってきてほしいですね。

――後藤弁護士はディールに携わりたいということでプライベートプラクティスに戻ってきたわけですが、その希望はM&Pで叶えられていますか?

後藤:叶えられています。うれしい誤算と言いますか、専門的にやっていたTOB案件もコンスタントにありますし、大手事務所とそん色ない案件に携われている感覚はあります。

――これまでのキャリアで培ってきたものを活かすだけでなく、M&Pに来たことでそれをさらにレベルアップすることはできていると思いますか?

後藤:できていると思っています。専門分野について自分より詳しい人間はいないはずだと思って仕事をすることで、一つ一つの案件や仕事に対する責任感が増したと思います。これまで以上に慎重にリサーチをして、考えて、見解を出しますし、それを繰り返すことで成長スピードが飛躍的に上がったと感じます。自分の専門分野に関して他の弁護士に質問されることも多くなったので、人に説明することを通じて、理解度がさらに深まることもありますね。

――M&Pに入って、M&A以外の業務もやっていますか?

後藤:やっています。それも自分にとっては大きな変化だと思っています。自分の専門分野を軸にして、その隣接分野への広がりを感じています。隣接分野は、例えばもともとは発行済みの上場株式を買い付ける取引をM&Aとしてやっていたわけですが、今はその発行段階に携わるいわゆるキャピタルマーケットの案件や、前職が証券会社なこともあり金融関係の案件などもやるようになりましたね。これはM&Pの良いところだと思いますが、パートナーになっても隣接分野に手を広げることができますし、自分より上の期のパートナーはそれを応援してくれるカルチャーがあります。M&Pに来て、隣接分野で自分の知識が活きる瞬間を味わえて、すごくおもしろいなと思っています。

――子育てにコミットしたいという思いもあって外に出たというお話もありましたが、そのあたりはM&Pでバランスを取れていますか?

後藤:すごく柔軟に働けていて、子育ての時間はだいぶ確保できている方だと思います。M&Pは子育てしている弁護士も多いですし、お互いの生活の多様性を尊重し合っている感じはかなりありますね。私は子供がまだ小さいので自宅で仕事をしている頻度が高い方だと思いますが、疎外感みたいなものも感じないですね。それはやはり所内のメンバーとうまくコミュニケーションが取れているからなのだと思います。

――後藤弁護士はTOBという専門性を軸にキャリアを考えたり仕事をしたりしていますが、専門性の見つけ方についてアドバイスをお願いします。

後藤:そもそも専門性って、見つけ方が難しいものですよね。M&Pではいろいろな分野の仕事に携われるので、1年間いろいろやってみた結果、何が一番おもしろかったかを振り返ると良いと思います。おもしろいと思えたものって、たぶん自分がうまくできたからだと思うんです。それが見つかったら継続してみて、結果的にそのうち専門家になっていくのかなと思います。

M&Pはアソシエイトとして入所しても、特定のプラクティスグループに固定されることがないので、入口のところの選択肢の間口は広いと思います。結果的に、これもおもしろいし、あれもおもしろいし、となったらそれはそれで一つに絞らなくても良いと思うんですよね。M&Pは、自分がおもしろいと感じた分野を専門にしているパートナーとすごく近い距離で仕事ができますし、案件を部分的に切り出して担当するのではなく全体的に携われるから、そういう意味でも自分がおもしろいと思える分野を見つけやすいし、見つけた後の自分の案件ポートフォリオの設計も柔軟にできる事務所だと思います。なので、いろいろ経験してみたい弁護士にとってはもちろんですが、早いうちから1つの専門性を極めていきたい弁護士にも向いている事務所なのかなと思います。


【おまけコーナー:あの人の“B面”】

――昨年の12月は1か月くらいオーストラリアに行かれていたと聞きました。

後藤:そうなんです。オーストラリアにエアビー(Airbnb)を借りて、1か月滞在しました。研修から帰国して以来、コロナ禍でオーストラリアには戻れていませんでしたので、当時の知り合い等に事務所を移籍した挨拶もしながら、少しゆっくり滞在してリモートで仕事もする、いわゆるワーケーションをしてみました。M&Pはリモートで執務できる体制も十分整っていますし、日本との時差が2時間しかないので、問題なく仕事もできるだろうと思っていました。何より12月はオーストラリアは夏なので、昨年は南半球基準で夏休みを取ろうと決めていました(笑)。実際、久しぶりに現地の人たちとコンタクトを取る良いきっかけになりましたし、平日は仕事や会食をして、土日は家族とカンガルーやコアラに会いに行ったり遠出をしたりして過ごし、正月はグレートバリアリーフで過ごすという、まさにワークとバケーションを満喫して帰ってきました。

――弁護士からもスタッフからも信頼が厚く、慕われている後藤弁護士ですが、人との接し方で気を付けていることとかありますか?

後藤:対弁護士については、ずっと企業法務の世界で生きてきて、自分が辛かったと思ったことはできるだけ後輩弁護士に経験してほしくないなと思っています。辛さから成長することもあるのでバランスが難しいんですけどね。例えば、至急案件なのにパートナーと連絡が取れなくてどうしたら良いか分からない、とか、案件公表日前日で自分は途方もない作業を抱えているのに誰にも助けを求められない、みたいな状態って結構辛かったりするんですよね。そういう状況をなるべくなくしたいので、アソシエイトから連絡をもらったらなるべく早く返そうとか、時折声をかけて自分はちゃんと状況を見ていることを示そうとか、そういう点は心掛けているつもりです。

また、スタッフについては、やはり1人の弁護士ができることって、すごく少ないんですよね。例えば、M&A案件でデューデリジェンス・レポートを作ります、となったときに、それをクライアントに送る弁護士は1人ですけど、それが完成するまでに、たくさんのスタッフが関わります。私は明日一人になったら多分何もできないと思うので、スタッフ含め、大きなくくりでのチームというのは大事にしたいです。特別何か気を遣ったり、意識しているつもりはないですが、こうした根本的な考え方は大切にしていきたいなとは思っています。

INTERVIEW & TEXT:YU HIRAKAWA
PHOTO:SHUHEI SHINE

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?