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労働法UPDATE Vol.8:新しい働き方とこれからの時代の労働法~労働基準関係法制研究会の開催~


2024年1月23日、労働基準関係法制研究会(以下「本研究会」といいます。)の第1回会議が開催されました(開催概要は厚生労働省のホームページを参照)。

本研究会は、以下の2点を踏まえ、今後の労働基準関係法制について包括的・中長期的な検討を行うとともに、労働基準法等の見直しについて、具体的な検討を行うことを目的としています。

・昨年2023年10月20日、これからの労働基準法制の在り方について、「新しい時代の働き方に関する研究会 報告書(以下「本報告書」といいます。)」が取りまとめられ公表されたこと

・いわゆる働き方改革関連法(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号))において、2019年の施行後5年を目途として、改正後の労働基準法等について、施行の状況等を勘案しつつ検討を加え、必要があると認めるときは所要の措置を講ずるものとされていること(同法附則12条1項及び3項)

このように、本研究会では今後、労働基準法等の見直しも視野に検討がなされる見込みであり、働き方改革関連法に続いて大きな改正となる可能性もあるため、実務上注目すべき研究会といえます。以下では、働き方改革関連法および本報告書の内容を確認しつつ、本研究会の概要について説明します。

1. 働き方改革関連法について

働き方改革は、長時間労働の是正や多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保等を目的として、働き方改革関連法に基づき、労働基準法(以下「労基法」といいます。)をはじめとして実施された一連の法改正です(詳細は厚生労働省のホームページを参照)。

働き方改革では、おおむね以下のような改正がなされ、その後の実務に大きな影響を及ぼしました。直近では、自動車運転業務(トラック輸送等)や医師等について、働き方改革関連法施行当時は猶予されていた時間外労働時間の上限規制が2024年4月以降適用されることになっており、「2024年問題」として関係業種は対応を迫られています(厚生労働省「時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務」、同「医師の働き方改革」等参照)。

<長時間労働の是正と多様で柔軟な働き方の実現>
・時間外労働時間の上限規制(労基法36条)
・使用者に対する年5日の年次有給休暇取得義務(労基法39条7項)
・月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率の引き上げ(労基法37条1項)
・労働時間の把握の義務化(労働安全衛生法66条の8の3)
・3か月単位のフレックスタイム制の導入(労基法32条の3)
・高度プロフェッショナル制度の創設(労基法41条の2)

<雇用形態に関わらない公正な待遇確保>
・いわゆる同一労働同一賃金に関する改正(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条等)

2. 本報告書について

本報告書を公表した「新しい時代の働き方に関する研究会」は、新型コロナウイルス感染症等の影響により生活・行動様式が変容し、働き方に対する意識や職業キャリアに関するニーズが個別化・多様化していることなどを踏まえ、働き方や職業キャリアに関するニーズ等を把握しつつ、新しい時代を見据えた労働基準関係法制の課題を整理することを目的として開催されました。同研究会では、2023年3月以降、約半年に及ぶ議論の結果として、同年10月20日に本報告書を公表しています。

本報告書では、これからの労働基準法制の検討の基礎となる視点として、「守る」と「支える」という、以下の2つの視点が重要であるとされています(本報告書12頁)。

上記の視点に基づき、具体的な制度設計を検討するに当たって押さえるべき考え方として、本報告書は以下の8つの考え方を挙げた上で、新しい時代に即した労働基準法制の方向性をそれぞれ示しています(8つの考え方は本報告書14頁、15頁に記載、その詳細については、本報告書14頁以下参照)。

① 変化する環境下でも変わらない考え方を堅持すること
② 個人の選択に関わらず、健康確保が十分に行える制度とすること
③ 個々の働く人の希望をくみ取り、反映することができる制度とすること
④ ライフステージ・キャリアステージ等に合わせ、個人の選択の変更が可能な制度とすること
⑤ 適正で実効性のある労使コミュニケーションを確保すること
⑥ シンプルでわかりやすく実効的な制度とすること
⑦ 労働基準法制における基本的概念が実情に合っているか確認すること
⑧ 従来と同様の働き方をする人が不利にならないようにすること

3. 本研究会における検討課題

以上を踏まえ、本研究会では、

① 本報告書を踏まえた今後の労働基準関係法制の法的論点の整理

② 働き方改革関連法の施行状況を踏まえた労働基準法等の検討

これら2点が検討事項として挙げられており、労働法分野における近時の一大改正である働き方改革、そして新型コロナウイルス感染症が実務にもたらした各種の影響等を考慮しつつ、これからの時代における労働基準法制の在り方を模索していくことになります。

この点、第1回会議では、本報告書を含むこれまでの厚生労働省の研究会報告等において課題として示された事項を整理した資料が配布されており(配布資料「労働基準に関する諸制度について(これまで示された課題)」)、本研究会の問題意識の一端が窺えます。

<労働基準に関する諸制度について(これまで示された課題)>
・労働基準法全体(「事業」「事業場」「労働者」等の基本概念)
・労働基準法の適用除外(家事使用人)
・労働時間制度全体
・各労働時間制度等
・勤務間インターバル制度
・つながらない権利
・副業・兼業
・法定労働時間の特例(週44時間特定措置対象事業場)
・労働時間規制の適用除外(管理監督者等)
・労使コミュニケーション
・労働市場を活用した自主的な労働条件の向上の取り組み
・賃金請求権等の時効

今後、本研究会においては、労働基準法制に関してより具体的な検討がなされるものと思われます。本note「労働法UPDATE」でも、引き続き本研究会の検討過程や動向を注視し、これからの時代の労働法の在り方について検討を深めていきたいと思います。


Authors

弁護士 菅原 裕人(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2016年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。
高井・岡芹法律事務所(~2020年8月)を経て、2020年9月から現職(2023年1月パートナー就任)。経営法曹会議会員(2020年~)。日々の人事労務問題、就業規則等の社内規程の整備、労基署、労働局等の行政対応、労働組合への対応(団体交渉等)、紛争対応(労働審判、訴訟、労働委員会等)、企業再編に伴う人事施策等、人事労務に関する研修の実施等、使用者側として人事労務に関する業務を中心に、企業法務全般を取り扱う。

弁護士 岩崎 啓太(三浦法律事務所 アソシエイト)
PROFILE:2019年弁護士登録(東京弁護士会所属)。
西村あさひ法律事務所を経て、2022年1月から現職。
人事労務を中心に、知的財産、紛争・事業再生、M&A、スタートアップ支援等、広く企業法務全般を取り扱う。直近では、「ビジネスと人権」を中心にESG/SDGs分野にも注力している。

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