脳性麻痺を伴う子どもへの活動に焦点を当てたセラピーと目標指向的なセラピー - 目標は違いを生み出すのか?(Activity focused and goal directed therapy for children with cerebral palsy - Do goals make a difference?)
Kristina Lowing
Disability and Rehabilitation, 2009; 31(22): 1808-1816
【要旨】
目的:脳性麻痺を伴う就学前児に対する目標指向機能的セラピー(goal directed functional therapy: GDT)と活動に焦点を当てたセラピー(activity focused therapy: AT)との効果を比較する.
方法:生態学的環境(ecological setting)において2種類の介入を前向きに研究した.脳性麻痺を伴う44人(男児25人,女児19人; 平均4歳1ヶ月[±1歳5ヶ月]),GMFCSとMACSがレベルⅠからⅣまでの子どもが参加した.22人の子どもがGDTグループ,そして22人の子どもがATグループとなった.アウトカムメジャーはPEDI,GMFM66であった.さらに,GASがGDTグループには用いられた.評価は12週間の介入前後に行われた.
結果:GDTグループの子どもはPEDIにより測定される日々の活動の多くの側面でATグループの子どもより多く改善した(p<0.001).GDTグループでは予測されるレベルまたはそれ以上の目標達成が93/110で見られた.GDTグループで見られたPEDIの異なるスケールにおける改善の分散は年齢・性別・CPのタイプ・GMFCSまたはMACSレベルのいずれでも説明できるものではなかった.
結論:脳性麻痺を伴う子どもに対するGDTはATに比べて日々の活動と粗大運動機能で明らかに利得が大きいことを示した.
【私見】
この研究の特徴の一つは対象にGMFCSのレベルⅢ・Ⅳの子どもが含まれていることです.従来の研究ではGMFCSのレベルⅠ・Ⅱの比較的軽症な子どものみが対象となることが多く,また,軽症な子どもの方が介入効果が高いこともよく知られています.重症度に関わらずセラピーの効果を示すという意味ではこの研究は意味深いものがあると思います.
GDT,ATどちらも活動に焦点を当てていること,生態学的環境(自然な状況)での機会を増やすこと,運動学習の原理に基づいていること,家族中心の態度を示すことに変わりはありません.GDTの特徴は以下の通りです.
・介入の目標を個別に特定すること
・グループミーティングを定期的に行うこと(1回/週)
・開始時点で両親教育を行うこと
表はGDTとATの結果です.PEDIのスコアにしてもGMFMのスコアにしても,GDTグループでは全て有意なスコアの上昇が見られた一方でATグループでは有意な差は見られませんでした.上記3点(個別の目標設定,グループミーティング,両親教育)の違いだけでちょっと綺麗に差がつきすぎじゃないか?とも思いますが.とくにPEDIのCAスコアが12週の介入で平均10ポイントも上がるのは正直ありえない!
それはともかく,セラピーを行う上で重要になってくるのはアクティビティ(遊びやADL)に単に焦点を当てることではなく,①「目標を明確にしたうえで」アクティビティを行うことと言えるのではないでしょうか.さらに,②明確にした目標を家庭生活に落とし込み(両親教育),③定期的なミーティングで子どもや親のモチベーションを維持しつづけることも重要であることがわかります.
筆者はなかでも個々の子どもに合わせた目標設定が鍵になったと述べています.子どものパフォーマンス,必要とされる介助,活動する環境を含めて目標となる活動を分析することで子どもの強みと弱みがクリアに理解できたのではないかと推察しています.
また,この研究ではGDTグループのみ目標達成の指標としてGASも用いています.結果は上記の通り,多くの目標で良い結果(≧0)が得られています.GASを使う利点として著者はヴィゴツキーの「最近接発達の領域(ZPD)」を引用しつつ,GASにより子どもを段階的に難しい・自立したレベルへと励ますことが可能になると述べています.なるほど.
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