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法務相談で心掛けた3つのこと

約2年ぶりの投稿です。実は、12/10(金)が現職の最終出社日でした。

国家公務員から現職に転職し、企業法務として契約審査、法律相談、社内ルール整備、教育研修の実施など幅広い業務をさせていただきました。とても充実した4年間でした。

お世話になった社内のビジネス・エンジニアの方々に退職挨拶をする中で、恐れ多くも以下のようなお言葉をかけていただくことがありました。

「とても相談しやすくて助かった」
「ビジネスに寄り添った判断をしてくれた」
「いつも安定感があった」


退職時なので多少のリップサービスは当然あったでしょうし(ひねくれものですね。笑)、浮かれるのは違うと思いますが、自分の仕事振りが社内の依頼者の方々に多少なりとも受け入れていただいていたことは素直に嬉しかったです。

ただ、自分の長所をさらに伸ばしていくためにも、このような評価をいただけた理由をしっかり分析することが重要なのだと思います。今回の投稿では、このような評価をいただけることにつながった可能性が高い、私が法務相談対応で心掛けていた3つのことをご紹介します。筆者自身の頭の整理と合わせて、企業法務に携わる皆様の参考に少しでもなれば幸いです。

1.法務見解は直截ちょくさい

これは中でも一番心掛けていたことだと思います。「直截に」というのは法務見解のスタンスをはっきりと表現することを指します。

法務相談って、ビジネスやサービス開発を進める依頼者の立場からしたら、最終目的地に辿り着くまでに寄らなきゃいけない数あるチェックポイントの1つでしかないわけです。できる限り早く通過したい。それなのに、「○○なリスクがあります。法務としてはあんまりお勧めしません。」みたいな次のアクションが明確でない法務見解が出てこようものなら、依頼者は、どう進めればいいのか、そもそも進めていいのかといったことに思考を巡らせなければならなくなります。非常にもったいない足止め時間です。

リスクはゼロイチの話ではないですし、何より不確実性が伴うものですので、上記のような言質がとられにくい回答に逃げ込みたくなることはしばしばあります。しかし、ビジネスやサービス開発を進めるメンバーが日々リスクやプレッシャーを背負いながら仕事をしてくれていることも多いのに、法務はいつも安全運転で行きます、というのはフェアじゃない。

法務見解のスタンスは、究極的には
①「やめてください。法務として這ってでも止めます。」
②「法務として止めるまでもなく、ビジネス・開発側の判断で進めていいです。」
のいずれかに行き着くと思っています(ここは各社の決裁ルールによって変わり得るかもしれません)。リスクにはグラデーションがある中で、②だと言い切るのが法務としては苦しい場面はありますが、中途半端な態度を取るのが一番悪なので、必ずいずれかのスタンスを選び、法務見解の中で冒頭で表明するようにしていました。

もちろん、見解を出すまでの過程で、リスクコントロールのための追加措置や代替手段が想定されれば、それを検討いただくようコミュニケーションはしていました。「このままだと①だが、○○がクリアできれば②になる」のような感じです。この場合は「○○」の条件部分の直截さも追求することになります。

2.理由の説明はとにかくわかりやすく

法務見解を出す際、特に上記の①のスタンスである場合や追加措置・代替手段の検討を促す場合には、その見解に至った理由の説明が必要になります。依頼者に負荷をかけることになるわけですから、当然です。

その理由の説明が、依頼者にとって腑に落ちるものであればあるほど、依頼者のモチベーション維持につながるとともに、次回以降の施策や開発内容の改善につながるはずです。腑に落ちるための説明の技術は、また深い世界が広がっているのでここではあまり深く立ち入りませんが、基本的なことでいうと、法律用語は極力使わない、簡潔かつ明確に、依頼者の共感を得やすい観点を盛り込む、といったことを意識していました。

ご参考まで、業務委託契約書(個人情報の安全管理措置条項)の委託先による修正について、再交渉を依頼者に打診する際のコメント案を作成してみました。

「先方の修正(削除)内容ですが、このままでは応諾できませんので添付のとおり修正させていただきました。
応諾できない理由ですが、法律上、委託先にお客様の個人情報をお渡しする場合には、委託先にてお渡しした情報をちゃんと管理いただけるよう、契約書上もその旨定めておく必要があります。お手数をおかけしますが、お客様の情報を守るためでもありますので、ご理解いただけると嬉しいです。ご不明点あれば何でも聞いてください。」

3.1分だけでも依頼者のチームに「入って」みる

1と2は法務見解におけるアウトプットの質に関わる心掛けでしたが、3はプロセスにおける心掛けであり、依頼者との心理的障壁を減らすための一方策になります。

依頼者から法務相談を受けたときは、テキストコミュニケーションだけでは案件の把握が難しい場合、直接打合せをすることが多いと思います。法務としては、案件のリスク把握を取りこぼさないようにしたい、あるいはビジネス・エンジニアのメンバーとの距離を縮めたい、という想いで色々と根掘り葉掘り聞きたくなるものです。

しかし、場合によっては「何でこんなこと長々と聞かれるんだろう。。早く戻って作業したいんだけど。。」と依頼者からしたら迷惑に思われることも当然あるわけです。そこに依頼者対法務、依頼する方される方、チェックされる方する方といった分断した構造が存在し続けており、その限りにおいてはどんな善意によるものであっても法務からの干渉がネガティブに受け止められやすいのではないかと思っています。

そんな構造をなるべく取っ払って、法務もあくまで会社のビジネスを前に進めるために同じ目線で働いている、ということを依頼者に感じてもらうことが大切です。そのために私がしていたのは、打合せ中に1度か2度(やり取りの時間にして1分程度)、私が依頼者の所属チームにいたら考えそうな質問や感想を投げかけるようにしていました。

例えば、営業部門からビジネスパートナーとの協業契約に関する相談があった場合、「このパートナーさんって〇〇のサービスで有名ですよね。うちのサービスと連携すると、〜な効果があったりするんでしょうか。」と聞いてみたり、開発部門から新機能の実装について相談があった場合、「この機能が追加されたら〜な点で便利に使ってもらえるようになりそうですね!そしたら〇〇な層も使ってくれそうです。」と言ってみたり。当然、その発言がビジネスやサービス開発そのものに変化をもたらすことはないわけですが、その発言を投げかけた瞬間、依頼者に「目線が合った」感覚、法務担当者をあたかも同じ部門のメンバーのように思う感覚を一瞬でも持っていただけたなら、分断した構造はだいぶ解消されるのではと思っており、そうだといいなと願っています。

4.結び

結びに、冒頭で触れた「とても相談しやすくて助かった」というありがたいお言葉についての私の所感を述べたいと思います。

依頼者の方々にどういった理由からそう感じていただけたのかはわかりません。上述の3つの心掛けによるものなのか、はたまた私のパーソナリティ(いつも謎にニコニコしている)によるものなのか。

法務相談を積極的にしてもらうために、「いつでも相談してくださいね!」と地道に呼びかけたり、相談しやすいプロセスやアーキテクチャを整えたり、といった対応ももちろん大切です。

https://logmi.jp/business/articles/323722

ただ、「法務相談したら問題が解決した」「法務相談がスムーズに進んだ」といったアウトプットに満足した経験が何にも代え難い法務相談への後押しになると思っています。

至極当たり前のことなのですが、当たり前なことがつい頭から抜け落ちてしまうことも多い。このことを自戒として引き続き精進していきたいです。
この投稿をご覧になった方で、ご意見やご感想をお持ちになった方がいればコメントいただけると嬉しいです。



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