正直な話、「何を食うか」なんてどうでも良いです。

 三連休最終日の午後5時、同居人が『着なくなった服売りに行くけど、三浦も一緒に行く?』と声をかけてくれた。どうせ家にいても酒を飲むばかりで、ならばと思い同意した。下北沢に行くらしい。定期券の圏内、それは助かる。

 彼が、汚い服で一杯になったIKEAのバッグを『あー、重てえ』と言いながら肩に引っかける。その隣に置かれた半透明のゴミ袋も同じく、訳のわからない服で一杯だった。ナイキのスニーカーなんかも、一緒に入っていたと思う。

 彼はそのパンパンになったゴミ袋を指差して、『これ持ってくれたら、晩飯ご馳走するよ』と言った。そう来たか、と思った。ありがたいな、と。わざと作った嫌そうな顔で「それは良いねぇ」と答えて、それを持ち上げた。重たい。ものすごく高い飯をご馳走してもらおうか、と思った。

 最寄り駅までの道は、かなり過酷だった。袋の重さはもちろん、回りの人が僕らに向ける、白けた目が辛かった。かたや、どでかいIKEAの袋にふらつく、小汚い格好をした者。かたや、膨らみに膨らんだゴミ袋を持ち、七三分けにダブルのセットアップで決め込んだ者。異質である。そりゃあ、白い目を向けたくもなる。ただ、かえって一点、午後5時で良かったなとも思った。あと5時間遅ければ、さながら夜逃げだ。

 もちろん、電車の中も辛かった。ゴミ袋を持って電車に乗る人は中々いない。ひたすら無を装い、電車が下北沢に着くまで、仏のような顔で涅槃に身を潜めていた。急行列車だったのが、唯一の救いであった。ほどなくして下北沢。助かった。

 一目散に古着屋へ駆け込み、バカみたいに大きなショッピングバッグとゴミ袋を査定コーナーに預けた。これは後から知ったことだが、合わせて64点もの服があったらしい。黙って店でも開けば良かっただろ、と思う。

 

 『飯でも食おうか』と彼が言った。無言で首を縦に振る。彼が、『何食いたい?』と続ける。「うーん、何でも良いな うまければ」と僕。僕らが一緒にいると、いつもこうだ。これを食べたい、あの店に行きたい、なんていうのはおろか、食べ物のジャンルすら決め切れない。どうせ、道すがらに見つかる店に入るのだ。決めうちなんて、夢のまた夢だ。

 今回も、これまでと同じく、答えの出ぬままふらついた。『あそこの店、雰囲気良いな』「あそこ、この前先輩が行ったらしいよ」『あー、ラーメンも良いな~』「たまにすげえハンバーガー食いたくなること無い?」と会話が続く。結局、道端のラーメン屋に入った。さっきの『何食いたい?』は何だったんだ。良いけど。

 店の看板メニュー、「ラーチャンセット」は美味しかった。通常なら「半ラーメン+半チャーハン」のセット。『頑張ってくれたから、ラーメン普通サイズにして良いよ』という神の声のおかげで、僕の腹はかなり満ち足りた。最高だった。

 どうでも良いんである。ラーメンだろうが、ハンバーガーだろうが、何でも。どうでも。「食えさえすれば良い」とは言わないが、それに程近いもんである。

 「食べたいもの」は、特に無い。隣にいる人が、好き勝手決めてくれたら良い。何でも良い。以前何かの記事で、『「何食べたい?」に対して「何でもいいよ」と答える男はダメ男!』という文字列を見た。俺はダメ男である。自分が無い。飯なんて何でも良い。隣に酒があれば、なお良い。

 綺麗なことを言えば、僕は、「何を食うか」よりも、「誰と食うか」の方を大事にしたい。同居人はとても気の合う奴で、彼と一緒にいる時間はとても楽だ。飯を食う間に、言葉のひとつも要らない。黙々食べて、帰りしなに「うまかったな」『いやー、うまかった』があれば良い。彼と僕の間にはそれがいつもあるから、本当に楽だ。良い仲だと思う。そういう人と、飯を食べたい。

 何を食うかよりも、誰と食うかである。気になっている女の子、僕を可愛がってくれる上司・先輩、気の置けない友達。そういう人たちと、飯を食べたいのだ。ラーメンでも、焼き鳥でも、安い牛丼でも、何でも良い。そこに大切な人が居てくれるなら、僕のいつもの言葉が表す通り、「何でも良い」のである。

 ラーメン屋でウダウダ話していると、彼の携帯に電話がかかってきた。さっきの古着屋だった。どうやら、売りに出した服の査定が終わったらしい。同席していても意味が無いだろうから、町のタバコ屋の灰皿前、一服しながら彼を待った。

 10分くらい経った頃に、しょぼくれた顔が戻ってきた。くたびれた服と相まって、退院直後みたいだった。「いくらだった?」『64点、合計9,800円 ほんとふざけてるよ この店にはもう一生来ない』

 帰り道、自販機で100円のコーラを買ってあげた。可哀想に思ったが、真っ赤な缶を恵比寿顔で傾ける彼は、ちょっと幸せそうだった。三連休最終日、今日も変わらず良い日でした。

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頂いたお金で、酒と本を買いに行きます。ありがとうございます。

ありがとうございます。頑張って書いた甲斐がありました。
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三浦 希

コメント1件

9800円ってすごくないですか?!びっくりしました〜。「なんでもいい。」という答えにはこんなに豊かな意味が隠れてたんですよね。みんな、よくわかったか〜!と問いかけたいです。😀
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