なんでもない日、ベランダにて。

室外機から吹く風にTシャツの袖が揺れ、灰皿に置いたタバコがするっと床へ落ちました。畳一枚分のベランダにて一人、普段吸わないキャメルライトをぷかぷか吸っています。今日は日曜日らしい。昨日土曜の記憶は深い酒にずるっとすべて流れて、涼しい昼下がり、それらを思い出そうと寝癖頭を掻き毟ります。何も思い出せない。

今日はこれから何をしよう。よく分からんエッセイ集を読んでみた。「何も言ってないよ、これ」と独り言、置き手紙に書かれていた『今日も楽しい一日にしようね〜〜』の方が幾分何かを語っているような気が。恋人が作っておいてくれたカレーが美味かった。なんらかの野菜が入っていたように思うが、その記憶も、吸いかけのタバコよろしく、柔らかい春風に飛んで行ってしまいました。二度と戻って来ません。

鳥がピィピィ鳴いて、ざーっとみんな揃って飛び出して行きます。僕は果たして、何をやってるんでしょうか。プロレスラーみたいな寝癖は手で押したところに微塵の修復も無く、根の黒く陽気な金髪も相まって、まさしく馬鹿者のようです。日曜日。

携帯が震えます。ブーッと震えて、液晶がやみくもに光りました。『19:00 渋谷 酒』と光るそれを確認、“業務的” と言いたいがあまり的確でなく、それ、何と表現したら良いのか悩み悩み、言語表現の限界に悶え、そのまま無視して放置した。芋焼酎を水道水で割る。酒は簡単です。思考をなるべく深いところで溺死させられるからです。さっきの連絡にはどうしましょう、返事をしないのも癪なので、「気が向いたら」と言いました。気が向いたら。向くんでしょうかねえ。

なんでもないなぁ。もう、どうしようもなくなんでもないなぁ。飯を食っても、酒を飲んでも、風に吹かれても、タバコを吸っても、なんでもないよなぁ。半年前に出会った女の子、『やっぱ20:00』と。光れ光れ。どんどん震えてくれ。ぶるぶる震えて春、もうちょっとあったかくなんねえかなぁ。

頂いたお金で、酒と本を買いに行きます。ありがとうございます。