『謝るなよ』と友が言います。

 たとえば酒。生きるに満足な給料をありがたくいただきながらも、給料日の向こう一週間で酒にすべてを流してしまう習性ぬぐい切れず、残高をまるっきりゼロにしてしまう私。その期に限って、友達より連絡があります。『三浦、今日酒飲みに行こうよ』と。 

 その声には、もれなく「ごめん、もう酒飲み過ぎて金無くなったわ。来月なら」と返し不貞腐れる。家に残るウィスキーを水道水で割っては、「これ、店なら500円は取れるでしょう」と、満足しているんだか誇っているんだか、よくわからん感情を喉奥へぐっと流し込むより他ありませんでして。

 携帯電話がブーッと震えました。確認。うん、彼です。五分前、『今日酒飲みに行こうよ』と言った彼です。来月のカレンダーをザラーッと確認し、給料が入る次の日の予定をじっと見、いざ予定なし。ここだ。この日に彼と酒を飲もう。奮い気張り、彼からの連絡に目を向けます。


謝んなよ。いっつも楽しい友達に会わせてくれたりしてんだろ。いいよ、今日は俺が出すから。いいから来い。下北沢。20:00。絶対来いよ。


 こんなんばっかかよ。なるべく、できるかぎり正直に生きたい。想定された『そっか、じゃあ日を改めよっか』に対して、「酒を飲み金が無くなっちまいました。来月は絶対遊びましょう。この日はどうでしょうか」と返したかった。

 やめだ、やめ。「本当にごめん。絶対次は俺が出す。ありがとう。20:00下北沢、絶対行くわ。ありがとう」と送信。煙草でも吸いましょうと思い、マッチを擦ったところに、まただ。すぐにまた携帯電話が震える。『だから、謝るなって言ってんだろ。「ありがとう」だけでいいんだよ。早く準備しろ。絶対遅刻すんなよ』 あらー。泣いちゃうわね。「服着るわ。ありがとう」と返すより他ないよ。どうもありがとう。


 こんなんばっかりなのだ。僕の友達は、みな口を揃えて『謝るなよ』と言う。怠惰でどうしようもない私が「すいませんです。ごめんなさいごめんなさい」と言うのに対し、『謝るんじゃねえよ、うるせえ』とぶん殴ってくる。愛で殴打してくる。

 『謝るなよ』ぐらい、ピッカリ光る愛情は無いと思う。どこかで読んだ文章に、『ダメなところを愛おしいと思えるのが、本当の愛だ』みたいな文章があった。あれは僕の思い過ごしだったんでしょうか。都合良い妄想だったんでしょうか。たしか、多分、きっとあったはずだ。

 俺はダメな人間だ。底に果て無く、どこまでも突き抜けてダメだ。飲酒に支配され切っている。酔に身を任すどころか、もう、酔そのものなのでは。平日、酒を飲まず出勤できていることに自分でも驚く。これを読んだ会社の先輩たち、申し訳ありません。もちろん一切そんなことは無く。無いですよ。本当に。本当ですよ。

 そのような、ただのダメ人間に対して、友達は一人として怒らない。彼や彼女がきっと怒っていると踏み、ハナから謝らねばと想起し地に額押し付ける私に、誰も怒らない。もはや呆れてしまっているんでしょうと思いきや、そうでもなかったみたいだ。『うるせえよ、謝るな』と言う彼らの顔は、いつも微笑を蓄えているという。

 みなさん、いつもいつもどうもありがとう。お返しは3倍だ。次の給料日直後、お世話になったみんなを集めて、でっかい宴をやろう。それで金が無くなったら、またよろしく頼むよ。これは行き過ぎたジョーク。ごめん。どうもありがとう。ありがとう。恐れ入りつつビクビクしながら感謝します。どうもありがとう。愛をありがとうございます。

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頂いたお金で、酒と本を買いに行きます。ありがとうございます。

ありがとうございます。頑張って書いた甲斐がありました。
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三浦 希

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