飛んで火に入る夏の虫、俺よ。俺よ。

 夢うつつのなかに暑気のみデーンと見え、見え? 見え。覆い被ってしまわれ。午前六時にすっかり身体やられている。こうも暑いと、月並みだが、「暑い」しか考えられなくなってしまうよな。水でも飲まないとほとんど干からびちゃう。

 行き着く台所には、昨晩の缶ビールが抜け殻。それと半端のハイライト。加えて、スナックから掻っ払ってきた紙マッチ。常連らしきおっさんから教示された手練れなやり方で火を点けてみた。真ん中折ります。端っこ火の点くべき部分を指で押し、グッとヤスリに擦る。行く末に親指負傷し「馬鹿野郎!!」と明け方の台所。ふざけんじゃねえよ。燃え立つパラフィンが汚れたシンクをぼやり映すので、いっそ何に怒ったら良いか知れず、近しい小さな戸を思いきり蹴り上げました。無論右足にも傷。馬鹿じゃねえかよ。

 水道水がぬるくなったら、夏だと思う。幸福なことに私は北海道に生まれたため、店で飲み水を買う文化には縁遠く。水が美味いところだった。『東京の水道水は日本一美味しいんだよ』と言った友があったが、彼奴は神奈川に住んでいたじゃないか。何も分からん。蛇口をひねる。寝ぼけた頭に重なる、まさに「ぬる水」がドバーッと噴出し、手を濡らしやっぱ夏なんだねと思った。焼酎のひとつでも割ってしまいましょうかしら、と舌なめずりがてら思案したが、水曜日。くやしい。季節風情に心遣るのみ道を残されていた。水道水がぬるくなったら、夏だと思う。

 煙草をふかせば、足りない頭が夢からウツツへひっそりシフトしてくれた。洗濯機に白のTシャツ、半ば乾いた残骸。朝からなんでこんなに怒らなきゃならんのですか? 午前六時半。疲労にまかせて寝落ちた六時間も前の己、ふがいなさよ。しばき倒す。自分の頬を殴っても然してやるせなく、グヌグヌ言いながら干すより無い。ふざけてやがって。

 こんな時はパンクを聴くのが良いんです。存分心ゆくまで怒ったらぁ。叔父がいつかくれたオンボロのスピーカー起動。「あ、朝でした」と独り言、やっぱりイヤホンを耳に刺した。Anarchy in the UKしかパンクを知らんですので、それを吃驚するほどでっかい音で流してみた。うつつどころか、よっぽど天国へ連れて行かれそうな。目ヤニだらけの目尻に鈍い涙が滞留です。もう訳わかんねえから、出勤しちゃおう。青髭茂る顔、石鹸で洗って出発。外気温。三十度。馬鹿野郎が、馬鹿野郎が。てめえ。

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頂いたお金で、酒と本を買いに行きます。ありがとうございます。

ありがとうございます。頑張って書いた甲斐がありました。
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三浦 希

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