うたかた
「先生、先日人伝にお元気やと伺いました。ホンマにお元気やったらよろしおすけど……」
「想えばウチにとっては楽しい日々どしたなぁ。そやけどなんでか悲しいことばっかりが浮かぶんどす」
誇り高いお人でしたなぁ。
今までお会いしたどんなお方よりも。
確固たるご自身のお考えと、様々なご苦労をされたようどすけど、
その生き様は感銘すら覚えるほどでございましたえ。
ウチには到底真似でけしまへん。
ウチは先生と呼ばせてもろてましたけど、
決して先生と生徒、上司と部下みたいな間柄ではありまへんどしたし、
そもそも知り合いというほどの知り合いでもありまへんどしたしなぁ。
そやのに先にお声掛けしてくださったのは先生の方どしたんえ。
しかもわざわざお調べいただいてご連絡してくださったようで、
ほんまビックリどしたわ。
ウチがウチ自身のことで塞いでた時期やったんで
何よりも有難かったし、嬉しかったわぁ。
片方で先生にまでご心配をお掛けしてたなんて
申し訳ない気持ちでいっぱいどしたわ。
色々と先生のお話しを聞かせてくれはりましたなぁ。
ウチの話も聞いてくれはって、
幸福すら感じる日々がそこにはありましたんえ。
そやけどそれは泡沫やったようどすなぁ。
先生のお考えと食い違いがおいやしたのか、
こんなはずやなかったと思わはったのか。
そういえば先生、『君は僕の地雷を三度ほど踏んでいる』って
言わはりましたなぁ?
ウチは何のことやら分からんとポカーンとしてましたけど、
三度も踏んでたやなんて。
よう考えたら先生、地雷があるんやでって知ってたら、
いくら鈍いウチでも避けるくらいはできたんやと思いますえ。
全然疑わんと喋ってましたさかい、
地雷を踏むなんて考えもしまへんどしたわ。
何がどうなって、こんなボタンの掛け違いみたいなことになりましたんやろなぁ。
ウチは先生のこと好きどしたんえ。
そやのにいけずばっかりしてくれはってほんまかなわんわぁ。
~~~~~~~~~~~~~
中 略
~~~~~~~~~~~~~
なあ先生、先生は先生のままでいておくれやす。
ウチはもう寄り添うことも見ることも叶いまへんけど、
ご自身の生き方を最後まで貫いておくれやす。
そうそう先生、うち今日でこの仕事お終いですねん。
あわよくば先生の二号さんにでもと思てましたけど、
それももうあらへんし、ウチにはなんにものうなりましたわ。
明日からどないしまひょなぁ、先生。
ええ思い出にはならへんのかもしれまへんけど、
悪い思い出にはしとうないんどす。
そやのに何が邪魔してますのやろなぁ。
舞台 『一人語り』 より
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?