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京都あれこれ よっつめ

「祇園祭も終わりましたなあ」
「そやのに何でこんなに人が多いんやろなあ」
「学生はんは夏休みですがな」
「そうか。わてらにも長ーい夏休みがあったらよろしいのになあ」
「あんたはんはずっと休みみたいなもんでっしゃろ?」
「そんなことおまへん。こうやってあんさんと話してんのも仕事のうちでっせ」
「これが仕事とはあんたはんとこはお気楽な商売してはりますなあ」
「仕事なんてそんなもんでっしゃろ」
「一生懸命汗かいて働いてはる人に怒られまっせ」
「人には言いまへんがな」
「わては人やおまへんのかいな」

「こんにちは」
「あっ先生、お暑うございますなあ」
「お二人でどんなお話しをされていたのですか」
「この人は人間やないという話ですわ」
「違いますやんか、夏休みどすなあという話ですわ」
「夏休みがどうかしたのですか?」
「祇園祭が終わったのに人が減りまへんなあという話をしてたんどすわ」
「京都は日本人の憧れの地でもありますし、観光立県としては面目躍如じゃないんですか?」
「その通りどすなあ」
「何やお隣の中国が日本への団体旅行を解禁しゃはったそうですなあ」
「ワンバウンド狙いどすな」
「それを言うならインバウンドでっしゃろ」
「コロナ禍以前は中国からの観光客が圧倒的に多かったですからね。また賑やかになりますよ」
「暑い中ほんまにご苦労はんどすなあ」
「今年は特に暑いようですね。それにしばらく旅行なども控えられていましたから、解禁された今年は例年にも増して多くなるのじゃないでしょうか」
「京都が潤うのはええことやねえ」
「そやけど、こないに暑かったら熱中症も心配やおまへんか」
「何にしろ熱中するのはええことでっしゃろ?」
「違いますがな」
「熱中しようでっしゃろ?」
「熱中症ですがな、ほんまかなわんわ」

「ところでお二方は錦天満宮の鳥居が相当珍しいものだということをご存知ですか?」
「あの壁にめり込んでるヤツでっしゃろ?」
「確かにあれも珍しいですよね。めり込んだ先を見たことはありますか?」
「わざわざ見に行ったことはありまへんけどテレビで見ましたわ」
「わては見に行きましたで。店の中に出っ張りがある景色はちょっと面白おすなあ」
「でも本当に珍しい鳥居は境内にある日之出稲荷神社の鳥居なんですよ」
「それは知りまへんなあ」
「わても知りまへんわ」
奴禰鳥居ぬねとりいというんですが、聞いたことはありませんか?」
「おまへんなあ」
「わてもおまへん。どんな鳥居ですねん」

「ではご説明しましょう。鳥居ってどんな形だと覚えていますか?」
「二本の横木とそれを支える左右の柱という感じやおまへんか?」
「そうですね。それぞれに名前があるのですが、この際それは省きましょう。その二本の横木の真ん中に額束がくづかという部分があります」
「天満宮とか書いてあるやつですかいなあ」
「あれはその額束に掛けてある「扁額」といいます」
「つまり扁額を掛けるための縦の幅広棒みたいなものですか」
「まあその解釈で大きな間違いはないと思います」
「いっぺんに仰山の情報を貰うても頭に入りまへんしなあ」
「そうそう、結局何も残りまへんしなあ」
「何もということはありまへんけどなあ」
「あんさんには敵いまへんなあ」
「続けてもいいですか?」
「すんまへん」

「その額束に屋根をつけたような、正式には額束の左右両側に合掌形の破風扠首束はふさすづかをつけたものを奴禰鳥居といいます」
「そんなに珍しいおますのか」
「日本全国でも京都に三つあるだけだと言われています」
「一つは錦天満宮。もう二つはどこですのん」
「伏見稲荷大社の荷田社かだしゃと千本釈迦堂です」
「先生はほんまに何でもご存知ですなあ」
「また一つ自慢の種が増えましたなあ」
「荷田社は錦天満宮と同じですが、千本釈迦堂のは額束がありません。だから厳密には違うと思うのですが、一応奴禰鳥居と言われています」

「今から伏見は行ってられへんさかい、とりあえず錦天満宮へ見に行きまひょか」
「そうどすなあ、先生おおきに」
「また珍しいお話しを聞かせておくれやす」
「ほな行ってきまっさ」

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