記事から見た慰安婦問題の現在地

「慰安婦=公娼」ラムザイヤー論文に批判殺到 学問の顔したヘイトスピーチから

週刊金曜日の記事 2021 3/26(金)から ⇚元記事本文はクリック

米ハーバード大学のJ・マーク・ラムザイヤー教授が昨年末、戦時中の日本軍「慰安婦」について
「(当時合法だった)公娼制度上の売春婦だった」として動員などの強制性を否定する論文を国際学術誌
『International Review of Law and Economics』(IRLE)のオンライン版に発表した。
「査読」という審査を経て掲載された論文だけに、日韓米の歴史学者らが「先行研究や史料を無視した根拠
なき主張だ」と反発、IRLEにも批判が殺到し、3月に入り同編集部が調査に入ったことが分かった。 
「太平洋戦争における性行為契約」と題する同論文が日本国内で問題になった契機は、『産経新聞』が
1月末に「日本研究の大家である教授本人の了承を得て」大きく掲載した紹介記事だった。  
趣旨は、「慰安婦」の実態が国連報告なども認める「離脱(廃業)の自由もない性奴隷」であったことを
否定し、「女性と売春宿の思惑が一致した年季奉公契約だった」と主張。
「慰安婦」側は「遠く離れた戦地で働くリスク」も知って、「高い報酬」や「契約期間短縮」を求めて交渉
したとする。 
 そのうえで「日本政府や(植民地支配の統括機関だった)朝鮮総督府が売春を強制したのではない」
と日本や軍部の責任を免罪。「問題は朝鮮内の朝鮮人募集業者にあった」と断定し、
日韓の歴史修正主義者や日本のネット右翼の主張と同調する形になっている。

 【英語圏の著名大学の権威利用】  これに対し国内では310日、歴史学研究会、歴史科学協議会、
歴史教育者協議会の3学会と、「慰安婦」問題の解決をめざして史料や証言をウェブサイトで提供している
研究者・アクティビスト団体「Fight for Justice」(FFJ)が合同で緊急声明を発表した。 
 声明は、「慰安婦」被害否定論が、被害者本人の名乗りが始まった1990年代から繰り返されてきたことを
指摘。今回のラ論文が「英語圏の著名大学の権威を利用した、新たな装いの言説」としたうえで、

(1)「慰安婦」制度は公娼制度と異なり、軍が指示・命令して設置・管理し、
「慰安婦」も軍が直接または指示・命令して徴募したなど軍の主体的関与の史料を無視している

(2)多くの女性は詐欺や暴力や人身売買で「慰安婦」にさせられたことは膨大な研究から明らかなのに、
契約と主張しながら契約書の存在も示していない

(3)公娼制度の説明でも人身売買の実態を示す史料は無視し、文献の恣意的使用で娼妓を自由契約の
主体のように論じている

(4)女性の人権を無視し、当時の国内刑法や国際法違反行為を検討した形跡もない
――として掲載撤回を求めた。 
 
FFJの金富子・東京外国語大学教授(ジェンダー史)は取材に対し、
「この論文は学会のヘイトスピーチといえる。このままでは学問の自由の名で学問が崩壊しかねない」と
危機感を表明した。  314日にオンラインで開かれた4団体主催のセミナーでは、

シンガポール国立大学の茶谷さやか助教授(日本帝国社会史)が、ラ論文の「根拠不在」や「史料歪曲」
についてファクト・チェックした文書はラ論文そのものの頁数を上回ったことを報告。
「間違いや無理解というより、研究上の不正そのもの」との見方を示した。 
「慰安婦」制度への軍の直接関与や強制性を示すさまざまな公文書を発掘してきた

吉見義明・中央大学名誉教授はラ論文の「慰安婦が契約の主体」「慰安婦は高収入」などの説に豊富な
史料から反証。日本人「慰安婦」や一部の朝鮮人「慰安婦」で契約がある場合も親族や業者らが契約主体
だったと反論した。
  
公娼制度研究の小野沢あかね・立教大学教授は「娼妓契約は事実上の人身売買であり、軍の関与では異なる
が、『慰安婦』制度とともに性奴隷制度」としたうえで「『慰安婦』は公娼だったから被害者ではない」と
するラ論法は「著しく低い人権意識を表す」と批判した。
  
ラ教授の歴史認識以前に、「学術論文として破綻している」との批判は、
ハーバード大学内部からもあがっており、IRLEで始まった内部調査にラ教授が今後、
どう応えていくかが注目される。
(本田雅和・編集部、2021319日号)

概要

編集長の植村隆氏は世界で初めて慰安婦の記事をセンセーショナルに報道した朝日新聞の元記者。先日、彼が原告となった裁判で彼の記事が最高裁で偽造と判断され敗訴となった。
週刊金曜日は今はタウンニュース程度の小規模メディア。記事は日本人の茶谷さやか、吉見義明、小野沢あかねの3氏の他市民団体(西新宿界隈)の主張をまとめて報道している。
日本の研究者は北米の反駁者とは異なり、所謂、強制連行や契約書の有無には言及していない。(市民団体が(3)で言及しているが)
記事の題目が「論文=ヘイトスピーチ」となっているのが不気味で面白い。この分野の日本で反対の立場の研究者の主張を簡単にまとめたもので一読してくれ。

吉見義明

吉見義明:
「慰安婦が契約の主体」「慰安婦は高収入」などの説に豊富な史料から反証。日本人「慰安婦」や一部の朝鮮人「慰安婦」で契約がある場合も親族や業者らが契約主体だったと反論した。

吉見義明氏が使っている”契約”は契約書のことと思われる。
文言からは”一部以外の朝鮮人「慰安婦」”は”契約”が無かったのか、または”一部以外の朝鮮人「慰安婦」”は”契約”はあり、本人が契約主体だったかは不明だが、”契約”はあったことを認めながらも、親族と業者の契約としている
尚、吉見義明氏は朝鮮半島における軍による強制連行はなかったと認めている(吉見他著『「従軍慰安婦」をめぐる30のウソと真実』大月書店、1997年、27頁)。

茶谷さやか

記事は彼女がラムゼイヤー教授の今回の論文の引用文献を読めてないとの批判に対しての彼女の回答なのだろう。数が多いことを誇っても仕方のないことだ。
ファクト・チェックした文書はラ論文そのものの頁数を上回ったことを報告}と述べているが、私は彼女にラムゼイヤー教授の2019年の論文の150件ほどの引用文献や1991年の芸娼妓契約 -性産業における「信じられるコミットメント(46ページ)もチェックしておいた方が良いとアドバイスしたい。
彼らの反論に対する、ラムゼイヤー教授の反論は、ここから引用されるのではないかと思っている(反論の論文は既に登録されているだろうから、既に時遅しだが)
後日談:
出版社はラ教授の論文とその反論の併記を予定していたが、彼女は反論の登録を断った(多分、恥ずかしくて出来なかった) The ‘Comfort Women’ Issue, Freedom of Speech, and Academic Integrity: A Study Aid March 1, 2021 Tessa Morris-Suzuki

ラ教授の反駁者に対する回答は一年後の2022/1にHarvard Law School Olin Centerに挙げられた

小野沢あかね

{公娼制度研究の小野沢あかね・立教大学教授は「娼妓契約は事実上の人身売買であり、軍の関与では異なるが、『慰安婦』制度とともに性奴隷制度」としたうえで「『慰安婦』は公娼だったから被害者ではない」とするラムゼイヤー教授の論法は「著しく低い人権意識を表す」と批判した。}
私は、現在の感覚からは彼女の見解は間違いとは言えないと思うが、事実を忠実に記述するのが学術論文であり、感情移入が無いからと言って非難されるべきものではない。
当時の日本の公娼制度は、当時の国際条約に準拠していた。議論の対象は慰安婦問題を離れて、現在の価値観から見た当時の条約や公娼制度の評価となっている。
公娼制度は、女性の権利を守る為の詐欺や誘拐の防止策(本人面談による売春業の確認や雇用契約書の提出義務、給与の保障…)がある。公娼を無くして私娼のみにした時の、日本の過去の事例やオランダを始め多くの国で売春が合法化されている理由も考慮し、「慰安婦とは別の場」で議論したらよい。

慰安婦問題の議論は既に終わっている

私は、西岡力教授ならこのように反論すると予想する
 米学者らが慰安婦制度を軍隊にまつわる売春とみているのであれば、私たちの認識と変わりません。日本軍は戦場でレイプ事件など性的暴力を防ぎ、性病の蔓延を防ぐため、自国と当時の自国領であった朝鮮などから業者が慰安婦を連れてくることを許可し、便宜を与えました。満州やドイツなどで敗戦国民の婦女子をレイプすることを許したソ連軍、占領下の日本政府が用意した日本人女性を売春婦として利用した米軍、同盟国米軍のために自国民の女性を売春婦として働かせた韓国に比べてどこが特筆すべきか議論されるべきでしょう。

私(Miwa Steve)から:センセーショナルな慰安婦の強制連行“Forceful taking away”の事実が無ければ、売春制度を世界的な視点で見た時、当時、世界各国の公娼制度や軍隊用の売春婦システムと比べ日本軍の慰安婦システムに特記すべき事はない。
当時の「婦人及児童ノ売買禁止ニが関スルは国際条約」は28カ国が批准しているが、この国際条約を批准していない国は女性の人権に関しては、より悲惨な状況にあったはずだ。
日本の軍隊用の売春婦システムはこの国際条約に準拠している。日本のそれはフランスのそれを習ったもので、ドイツは日本より多くの500の慰安所があった事が知られている。
韓国等は日韓併合前の朝鮮時代には「軍妓」又は「辺妓」は国策による「従軍売春婦」があった。「軍妓」は国境を警備する兵隊用の売春婦で、幼いころから性奴隷として養成されたもので、自由や人権の概念すらない非自由、非人権の状態にあった。[朝鮮半島の売春婦の歴史]
WWⅡ後の米国軍用の日本の慰安婦、国連軍用の韓国に於ける慰安婦システム、少し前のフィリッピンに於ける米国軍用の売春宿など、例を挙げれば限りが無い。

ラムゼイヤー教授に反撥する5人衆(韓国TVから)
吉見義明、小野沢あかね らによるTV会議

参考:朝日新聞「慰安婦報道」に対する 独立検証委員会の報告書2014/12


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