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3-7.ひとりひとりが書く答辞P③

今回のプログラムの特徴-ひな形と共通のスキームの共有

今回の書くPは「中学生が各自の答辞を書くこと」がゴール。自由に書かせてあげて彼ら彼女らの本当に伝えたいことが書けるならわれわれの出番はない。われわれの課題は中学3年生が自分らしい答辞を書けるような「制約」をどう巧く設定できるかにある。そして、この「制約」は大学生の関与・指導の指針となる。
 そのようなフレームを今回の書くPは設定した。そして、まず、答辞のひな形を想定した。中学生に共有してもらいたい「答辞のひな形」であると同時に、大学生が指針とすべき「答辞のひな形」でもある。

また、シートから原稿用紙への移行プロセスに関しても、今回は目安となる移行パターンを基準として設定し具体的なワークに落とし込む要件を指定した。

プログラムの実施

さて、いよいよ中学入りだ。
1日目(19日)
19日は8時から事前MTG。7時過ぎからN中に参集しMTGに取り組む班もあり、学生の意気込みは高まっていた。第一日目の目指すべき到達点は、基礎シートを埋め構成シートへ出来る限り移行することに置いた。目安となる数値目標的なものは設定しなかった。
 午前中は50分の授業を4本こなす。授業と授業と間の10分間に控え室に戻り、短い打合せ、確認を済ませる。この数分間で状況を判断し、次に何をすべきかをリーダーは決定せねばならない。書くPでは過酷な使命をリーダーは負う。人材育成プログラムとしての真髄がリーダーの言動や意思決定にあらわれる。
 19日最後の授業(5限目)終了後、各クラスの達成度に関して、各班のリーダーから報告をうける。個別の中学生ごとの状況把握がリーダーの報告からはうかがえた。

事前MTG

2日目(22日)
1日目までは原稿用紙を渡さないというルールで1日目を終えた。2日目は原稿用紙に移行するタイミングが難しい。1日目終了後、原稿用紙移行を構成シートの完成度(「はじめ・おわり」と「なか」の間に齟齬はないか。「なか」にはシーン・場面展開が盛り込まれているか)で判断することとし、それを担う担当を決めた。これは結果として、構成シートの完成度を高めることを学生に必要以上に志向させた嫌いがある。

3日目(25日)
 2日目が終わった時点で各クラスごとの細かな達成状況を確認した。T先生と私は担当のS先生と協議し、クライアント側の意向と状況認識をすりあわせ、3日目の方針を決定した。結果、最終日である3日目は、「原稿用紙での下書きを完了する」を目標とすることとした。
そのために、固定的な担当割りを捨て、出来る人が出来ることを分担に関係なくこなすことを行動指針とすることを学生に指示した。
結果として、2日目まで「行ける」と想定されたクラスが想定外に進まなかった状況に陥るなど、やや思わしくない進捗状況(T先生と私の主観として)で3日目を終えた。

成果
今回のN中での書くPを通して得られた成果は以下の通り。
・大学のうち、主体的なかかわりを通じて「動機付け」や「意識づけ」を向上させた学生がいた。
・2年生、3年生、4年生の混成チームの下、チームで何をどう共有すべきか、チームの一員としてどうかかわるべきかを学ぶ場が形成された。
・リーダー、サブリーダーには、これまで以上に大きな負荷がかかるプログラムだった故に、リーダーは状況判断や意思決定においていくつもの難局に直面した。それは自らの信条や信念が試される機会であり、貴重な体験となったであろう。そのような場を提供できた。
・参加する学生にとっては自分のコミュニケーション力(働きかける力、引き出す力、共創する力)を点検し鍛える場を提供できた。
・中学生にとっては、自分では思いもしなかった言葉や思いを、大学生の関与を通じて掘り起こす場となった。
・中学校にとっては、教員では個別対応が難しい状況を少しでも改善する機会の提供となった。

成果は「見える形」で提示することは難しいが、一つの傍証として2人のレポートを示す。

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<N君の報告>

以下、22日の報告です。
私がとった行動は次の3点です。

①「はじめ・おわりが書けているか」「エピソードとはじめ・おわりで伝えたい事がぶれていないか」「エピソードが場面分け出来ているか」のチェックし、下書き原稿渡すチェック係。
②上記の内容がずれている子へのフォロー。
③原稿へ移った子のフォロー。

①「はじめ」(誰に書きたいのか?何故その人に書きたいのか?)を確認し、エピソードについて話してもらう。
※ポイントは主に以下の三つ
・伝えたい相手に伝わる文章になっているか(伝えたい人がエピソードに出て来ない子はエピソード自体がずれている可能性有)
・伝えたい人と本人の関係性があるか(エピソードに出て来ているか)
・構成シートを見ながら話の流れとして場面をイメージ出来るか

⇒シーンがイメージ出来る子は原稿へ。
⇒イメージ出来ない子は→※シーンの説明→※場面分けを図示(今のエピに場面がひとつしか出ていない時は、時系列の前後を聞いてみる「試合前はどうだった?」「試合」「試合後はどうだった?」)
※シーンの説明
はじめ、なか、おわりの説明よりも、お笑いでの例えがウケもいいし、有効でした。直接的なもので説明するのではなく、一見関係ないような中学生に身近なもので、例えるのはすごくいいですよ!
『お笑いとか見る?誰好きー?ほら、お笑いにはツカミがあって、ネタがあって、オチがあるよね?それと一緒でエピソードにもあるとわかりやすくて、いいものになるよ!』
これは、構成の説明の際、実際に漫才やって説明しても、面白かったかなと思いました。
※場面分け
今のエピソードに場面がひとつしか出ていない時は、時系列の前後を聞いてみる。
「試合前はどうだった?」「試合」「試合後はどうだった?」

②ココで注意する必要があるのが、「Dくん」「Nさん」「Hくん」の3人です。

「Dくん」
問題は伝えたい人は親で伝えたいことも親への感謝なのに、エピソードが先生から部活を教わって成長したことになっている点です。エピソードか伝えたい人どちらかを書きなおす事を提案したが、どちらも使いたいと難色を示す。落しどころとして、「親と先生などに支えられながら、部活で成長することが出来たため、彼らに感謝したい」
というものになった。今のところ、親に支えられたというエピソードを書いてもらっている途中で、この落とし所に積極的に大学生が示してあげる必要有。対処するなら横尾くんがいいかと思います。
「Nさん」
エピソードのシーンが沢山ありすぎていたので、3つに絞らせた。構成シートの時点での文章の量が少ないため、下書きしながらどれだけ文章が書けるかが彼女の問題です。
「Hくん」
彼の場合は、伝えたい人(じいちゃん)に何を伝えたいのかはっきりしていない。エピソードは歴史検定を頑張ってとったことだったが、歴史検定とじいちゃんとの関連性はないとのこと。
落とし所として、「亡くなったじいちゃんに、今の頑張りを知ってもらいたい」。この子の場合は男が対処する方がよさそうです。最初は身構えてましたが、話していくとすぐ心を開いてくれてました。

③原稿用紙を3枚配り、「はじめ」1枚「なか」1枚「おわり」1枚を書いて、なかのシーンごとに2,3行空けるように指示した。構成シートの時点で、文量が書けていない子も、①が出来ていれば、どんどん下書きに移しました。文章を書いて、原稿用紙に文字で落としていく方が書きやすい子が多かったので、下書きの時点でのサポートをよろしくお願いします。

個人的に、Uくんの答辞は感動的なものになっています。構成は甘いかもしれませんが、文章や中身に彼の母親への優しさが詰まっている答辞です。彼は繊細な部分がありそうな一面が見えたので、構成うんぬんを指導するより、中身が素晴らしいものなので、見守ってあげて下さい。

<Tさんの報告>
報告が遅くなりすみません。

明日は参加できませんので、22日の報告です。

私が見た生徒は、みんなすごく出来る子です。

Hさん・Fくんも話しながらだけど、ちゃんと文章かけてます。

簡単ですが以上です。

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一目瞭然であるが、Nくんは動機付け、意識づけが高い学生であり、Tさんはそうではない学生である。N君のようなレポートが書けることは、書くPが主体的にかかわろうとする意識が高い学生にとって「向上の場」となることを示唆する。

Tさんが自分のレポートとN君のレポートを見比べ、意識を変えるような仕組みも取るべきかもしれなかったが、ここではその気づきも自分で得てほしいと願っている。

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