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「ボーリング調査ってなに?」~一級建築士を持っているだけの凡人がいきなり設計部になった話♯3

新築と言えば、まず最初にやるのは杭工事。
杭工事をするためにまずはボーリング調査をしなければいけません。

ボーリング……ゴロゴロゴロ…
ではありません。
地面を掘って地中の状況を探る「地盤調査」のことですね。


1 なぜボーリング調査が必要か

杭とは、建物を支えるのに超超超大事な建物の土台です。
そして設計が難しく、さらにコストが大きくかかるといった、構造設計者の腕の見せどころ3本建ての重要商品です。

そんな杭を決めるためには、
①建物の形状
②建物の重さ
③地盤の状態
などを知る必要があります。

長い杭が必要なのか、短くて良いのか、サイズはどのくらいか、何本いるのか、はたまた杭はいらないのか…
などなど条件を元に決まってくるわけですね。

建物の形状や重さについては、一から図面を書いて材料も決めてと設計をしていけば、もちろん確実に知ることが出来ます。
しかし、地盤の状態はというと…?
土の中ってどうなっているのかしら?
見えないし?

よく山に行くと土の断面(地層)を見ることが出来ると思いますが……あれが知りたい!
ということで、まずは調べるところから始まります。


2 「支持層」と「N値」の関係

地盤を知る上でポイントとなる用語は「支持層」「N値」。
この言葉の意味を知っておけば、とりあえずOKです。

まず「支持層」とは、簡単に言うと杭を支える地盤のこと。
柔らかい土では、ずぶずぶ…と杭にしろ何にしろ沈んでいくのが想像がつくと思いますが、岩のようにガチガチに硬い土があればそれ以上沈みようが無いですよね。
この硬い土が「支持層」です。

2015年10月、横浜市都筑区で完成した某マンションで杭打ちミスが発覚し大騒ぎとなりました。
調べると当時のニュースもたくさん出てきますが、Wikipediaにまでなってましたね。

虚偽データに基づいた工事が行われ、複数の杭が地中の強固な地盤に届いておらず建物が傾いている不祥事が発覚。

―解体・建て替え関連で約300億円、住民の仮住まい等の補償で約100億円を計上した。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)>パークシティLaLa横浜


合計すると約400億円と、普通の会社だったら倒産レベルの損害が出ました。
そりゃそうですよね…住んでる建物が傾いてきたら怖いもん。

と、上記にあるように「強固な地盤(=支持層)に杭が届いていない」ことで建物が傾くという大問題が発生します。
(厳密にいえば、支持層に届かなくてよい杭もあるのですが混乱しますのでここでは省略します。)
損害額から見ても、いかに重要なことかわかりますよね。


次に「N値」について。
表現としては、「N値=30(回)」などと示しますが、土の硬さを示す一つの指標です。
簡単に説明すると、「N値 = 同じ高さから重りを落として30cm沈むまでの回数」です。(標準貫入試験と検索すれば詳しく出てきます。)

柔らかい土であれば、少ない回数であっという間に30㎝沈みそうですよね。
逆に硬い土は何度も何度も重りを落としてやっと30cm沈みます。
つまり、
小さいN値 = 柔らかい地盤
大きいN値 = 硬い地盤
というわけです。

ここで、先ほどの「支持層」の話と合体します。

大きいN値 = 硬い地盤 = 支持層

一般的には、N=50以上が支持層として認められる地盤の固さです。


3 ボーリング調査結果と杭の関係

調査が終了すると、地表面から支持層までの地盤がどのような成り立ちかが一目でわかる、調査結果一覧をボーリング会社さんが出してくれます。
これを「柱状図」と言います。(参考▶東京都建設局 東京の地盤

一般的にはN=50が約5m続く地盤を支持層とし、杭の長さが決まります。
加えて、その土地近辺の情報や地歴、地下水位など様々な情報が添付されます。
掘った土を持ち帰って検査することで、土砂の分類や粒径、割合、その他多くのデータの細かい情報がわかります。
これらをトータル的に判断することで杭の種類やサイズ、工法などを決めていきます。


4 まとめ

さくっと書いてきましたが、地盤とは非常に厄介なもので、地域によってはN値の乱れが激しかったり、大きいN値がなかなか出なかったりと、一筋縄ではいかない場合もあります。

最初にも言いましたが、土の中って見えないんですよね。
ボーリング調査以外にも、地歴(その土地の歴史)を探ったり、ハザードマップを見たり、周辺の地盤データを見て推測したりして可能な限り現実の地盤を把握しようとしますが、想定外の事態も起こります。
こればっかりは知識や経験がいくらあろうとどうしようもないときもあるんですよね。


調査の方法や箇所数など、その土地その土地に対して適切な調査内容は構造設計者が決定します。
つまり、構造設計者の判断いかんによっては杭の金額が大きく変わることもあるんですよね。
それだけならまだ良いのですが、最悪な場合、例のマンションの様に建物が傾く…なんてことが発生しかねないのです。

責任重大……でも、だからこそ構造設計者はかっこいい!

今回はボーリング調査に関する基本的なことを記述してきました。
しかし、地盤は本当に奥が深い…
私自身、前の部署でも山留計算をしていたり、杭工事が好きだったりしたこともあり地盤については興味津々です。
最近の物件で行ったボーリング調査も非常に興味深いものだったため、また発信したいと思います。


最後に
この記事を書いていた最中でなんと…人事異動が出ました。
構造設計者としてやっていこう、発信しようと腹をくくりつつあった中…まじ衝撃展開。
新部署では何をするかというと…「BIM」を推進します。
また今度書きますが、機械好きじゃないしすぐにクビになるんじゃないかなとも思う今日この頃。

もうしばし、構造設計でやってきたことを書いていくと思います。
今後どうなるかはわかりませんが、できれば引き続きよろしくお願いいたします。

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