ゴルフの思いで

現役を退くというと大げさな気がするのだが、長年お世話になった会社を引退するのと同時にゴルフも止めることにした。老後の交遊にと揃えた道具もゴルフ好きの妹の旦那に全て譲った。何だかすっきりした気分だ。私はゴルフに熱心ではなかった。故に下手でもあった。それなのにゴルフとの思い出の記憶は残っている。

私はゴルフに興味はほとんどなかった。それが香港に駐在し、そういうこともできないと困るかな?と思うところから始まった。日本から来た顧客がゴルフをやろうと言うのだ。私はやったことがないと正直に言うのだが、大丈夫だから、ということで行くことになった。私はそごう百貨店で適当にゴルフセットやグローブを購入した。そしてクリアウォーターベイという海越えの名物コースがあるゴルフ場に行った。顧客は私の真新しいゴルフセットを見て、本当に初めてなの?と言うと、全て4番ウッドでコースをまわるように指示した。ティーショットは当たらない、フェアウェーでは芝を掘り起こすばかり、一日で4番ウッドはボロボロになった。

タイに出張した際にもゴルフを誘われた。バンコックのゴルフ場はフェアウェイもラフも遜色く広々としていた。敵は強烈な太陽からの攻撃だけだった。早朝にティーオフするも、この暑さはたまらない。下手な私のボールは右に左に飛んでいく。するとキャディーが走っていき、ボールをフェアウェイにポーンと投げ戻す。池に入れれてもキャディーが当たり前のようにボールを取り戻してくれる。やっとグリーンにオンした私だが、その他のプレーヤーは既にグリーン周りのディレクターチェアに座り、日傘をさす執事と、風をおくる執事に優雅に囲まれている。私は残念ながらディレクターチェアも、大きな扇の風も味わうチャンスがなかった。

ひょんなことからインドに行った。デリーの高級ホテルに泊まった。上司がゴルフをやりたいという。ホテルに付属するコースでプレーすることにした。ここにも大勢のキャディーや執事がいた。私のTショットは右や左に大きく曲がる。右に大きく飛んでゴルフ場脇の鳥小屋を一撃した。ギャオガウォバタバタ、鶏だちは大騒ぎだ。執事は顔を覆ってしまう。私のショットは行ってはいけない所に必ず行く。大きな池に打ち込み、見事な波紋が広がると同時に、執事が池に飛び込むと私のボールを持ってくる。ニカっと白い歯を見せる。ボールとチップの交換ということらしい。最終ホール、池越えのショートホール。私が下手であることは衆目の認識となっていた。キャディーが私に見本を打たせてくれという。どうぞとクラブを渡すと、グリーンにナイスオン。どうだと言わんばかり。

これほど下手なプレーヤーは珍しかったのか、私のキャディーは痛くプライドを傷つけられたのかもしれない。これではキャデイーではなくて、単なるお供になってしまうと思ったのかもしれない。何だか私は申し訳なかった。最終ホール、一回だけだが彼に撃たせて良かったと思った。彼は優秀なキャディーだということをワンショットで証明できたから。

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