九記牛腩

10年ほど前か、香港の友人の車で香港島西環あたりの山側を走っていた。坂が厳しい上に一方通行の迷路だが、友人は香港映画さながら器用に急ハンドルを切っていた。突然車を止めると、麺を食べないか?もの凄く美味い店があるという。「九記牛腩(ガウゲイ)」を通過したが、店に並ぶ人が少ないのでチャンスだと思い立ったのだ。

「九記」は既に超有名な麺屋だった。香港人はもちろん、大陸の中国人観光客がこぞって並ぶ。いつも50mぐらい並んでいた。牛バラの煮込み麺(麺は卵麺の平打ち)が人気だが、カレー味、牛筋も人気だ。肉の煮込み具合が絶妙で、さっぱりしたスープにこってりと柔らかく煮込まれた肉が絶妙なのだ。私はそれ以来、香港に行くと必ず訪れた。

この5月、4年ぶりに香港に行った。友人と飲茶を楽しみながら「九記」に行きたいと言ってみた。同席していた香港人3人は、しばらく行ってないという。行ってみようということになり車を走らせた。店に並ぶ人はいなかったが、店内はほぼ満席だった。4人とも牛腩麺(バラ肉ソバ)をオーダーした。スープを一口、何だか違うぞ、ソバを一口すする、これ不味い。4人は箸を置いて店を出た。

実は香港ではよくあることだ。私は何回も失望を味わっている(笑)。評判の店は買収され、儲かったオーナーは店を売り払う。客が知らないうちに店の中身が変わっている。もちろん伝統を長年る店もあるが、香港ではそれが普通だ。香港の友人たちは予想していたに違いない。私だけが大きく落胆した。香港は風のように流れている。風が止まってしまった日本とは違う。

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