アラサー初めて『からくりサーカス』を読む

『うしおととら』を少年漫画の最高傑作にあげる人が多い中、この歳まで藤田和日郎作品を一つも読んだことがなかった。
ジャンプ育ちだからね。
サンデーはガッシュとクロスゲームくらいしか見届けてないのよ。

最近は10巻前後で完結する名作ばかりを読んできたので、たまには長い作品を時間をかけて浸かり、その世界と推しの生き様を見届けてえ……という思いから評判も調べず、何となく『からくりサーカス』を読み始めてみた。

1巻を読んだって人ならわかるだろうが、
「人を笑わせないと死ぬ病気」
「感情が希薄な人形のような人形使いの女」
「遺産相続に巻き込まれ運命の操り人形となった少年」
3人の軸になる登場人物が出てきて、こいつらが自分の意思で運命を切り開いて家族になって行く物語なんだろうなと想像はつく。

最終巻まで読み、そのイメージから大きく外れることはなかった。
だが、自分が最初にどんな小さな視点でこの物語を観てたのか思い知った。

スケールデカすぎ!
運命残酷すぎ!
感情強すぎ!
絵上手すぎ!
展開面白すぎ!

『からくりサーカス』43巻 巻末参考文献

この量の参考文献が43巻という壮大な物語に詰め込まれてて、キレーにまとまってるのだから、そりゃあ面白いよと。

前半はできるだけ具体的なネタバレは無しで感想を、
後半は内容に触れつつ叫びたいと思います。

ちなみに推しは「ギイ」です。


作品の厚みがちげぇよ

『からくりサーカス』を読んでこんなに熱くなった理由は、「厚い」からです。

一つは、世界を股にかけているところ。

他の漫画を読んでいて、大きな事件が起きてるのに、なんで日本で起きて日本の中だけで解決してしまうんだ、と思うことが多々あります。
もっと世界中で騒がれるべきだし、世界的な対策が必要だろと。
気にならない人もいるでしょうが、自分としては「日本で起きている理由」と「日本人が解決する理由」が欲しいのです。

『からくりサーカス』は世界を巻き込んで展開され、その上で日本に焦点が当たり、巨大な運命を背負っていることが示唆されていくのですが、
スケールを大きく扱っていることが、貫く個人の思いを相乗的に高めているのでサイコ〜ってなります。

しかもデザインも、キャラのレパートリーも、舞台も豊富で楽しい!


2つ目が、人間らしさの描き方

「笑う事」「人形」「運命」というワードから少年漫画のストーリーを想像すると「強い意志で未来を切り開く!」展開で、それが「人間らしさだ!」という結論になりそうだなってイメージしちゃいませんか?
自分も1巻読んだくらいだと、その範疇の話なんだろうなと思ってたし、なんなら最終巻まで読んで大きくズレているとも思いません。
ただ、厚みが全然違うんですよ。

登場人物は全員強くて、何かしらの技術を持った人ばかりです。それは敵も同じで、自己の技術と経験に自信を持っています。
そういう意味では、信念や意思の強さに差がないというのがミソで、じゃあ主人公たちは何を持っていて、敵は何が足りなかったのか?という命題への答えが凄く鮮やかでめちゃくちゃ泣けました。

作中の言葉を避けて言うと「見つけること」にあります。
敵だったやつも、試練を乗り越えた味方も、激突の末に何かを「見つける」んですよ。
その瞬間をとても良い顔で書くんですねこの漫画は。
読んだ人ならどのシーンかわかると思うけど。逆にありすぎてわかんないかもしれないけど。


逆に言えば、どんな凄いやつでも「見つけてない」やつは人形なんです。そしてこの漫画は『からくりサーカス』。「からくり」は人形、じゃあ「サーカス」は?という所に人間らしさが関わってくるんですが、それは是非読んで感じて頂きたい。


あと3つ、4つ、5つ目にキャラ、ストーリー、絵の良さが最高っすね。
もうこれは内容に触れて話したいので、こっから先はネタバレありで好きなシーンをいくつか。



____________________________________



『からくりサーカス』3巻

登場時から好きだったけど、ここら辺でかなり阿紫花さんのこと好きになってる。割り切りはめちゃくちゃいいけど、大きな決断で人情に流される殺し屋良すぎ。
しかもここで、マサルさんの良い観客の眼が既に現れてるんだよな。今気づいたわ。


『からくりサーカス』5巻

しろがねの、なんにも打ち合わせしてない初対面の芸人でもキャッチして貰えるだろうという演技が良すぎる。2人を信頼してるのも良いし、信頼に足りると見抜いてるのも良い…
自分はかなり中町サーカスエピが好きで、3巻までの壮絶な導入の後、コツコツ幸せを集めてく話はめっちゃ身に染みるんだ。



『からくりサーカス』5巻

めっちゃ属性強めの美少女出てきた……
表情も飛び出し方も、只者じゃない感満載だし、ただ申し訳ないと思ってる反省の顔じゃなくて、奥に悲愴を秘めた深い顔からの女の子走り。
魅力的な女性キャラ沢山出たけど、自分はリーゼが1番好き。



『からくりサーカス』7巻

紅の豚の飛行機の墓場を思い出すような寂しい名シーン。
先に夢の中でこういう出方をしたかせいか、真夜中のサーカスを純粋な悪としてずっと見れなかったんだよな。



自分はサーカス編がかなり好きで、この7巻から繰り広げられるからくり編や、先の中盤以降の話で大切となる、人形に生命を吹き込むものの正体が、最序盤エピソードに詰まってるから。
終盤でハッキリ言葉になる「観客の目」はサーカス編に込められており、これが序盤でしっかり描かれているからこそ真夜中のサーカスの一人芝居には寂しさを感じるし、他のしろがねと違う鳴海の強さに納得できるんだよね。



『からくりサーカス』25巻
『からくりサーカス』37巻
『からくりサーカス』42巻
『からくりサーカス』42巻


暗黒トイストーリーの純粋な笑顔シリーズ泣けまくる。
笑う方法を探してきた機械が、機械である事を求められてきた少年が、否が応でも身に付けてきた技術に観客が現れた時、演者が産まれ、見つけた者にとっても、見付けられた者にとっても、さり気ない出来事なんだろうけど、価値がひっくり返るその一瞬に笑顔が産まれるというのが本当に綺麗で泣ける。




おわりに

本当はギイやエレオノールやマサルさんやリーゼと、好きなキャラの好きなシーンも語りたかったが、文章書くの苦手だし、それよりも他の藤田和日郎作品読みたい欲が止まんねえのでこんなもんにしときます。
漫画に熱中したのほんと久しぶりで最高の時間だったよ。

今読んでる『黒博物館』もめちゃくちゃ面白いし、『双亡亭壊すべし』の装丁もバリカッコよいし、『月光条例』『うしおととら』も読むの楽しみだぜ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?