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フルーティストが能楽師に弟子入りしてわかった事①民俗神楽〜能管との出会い編

音楽の事を様々な角度から探求するトーク番組「フルートカフェ」へようこそ。生命の息吹を伝えるフルートの音色と共に、無意識の世界に広がる壮大な冒険へ一緒に参りましょう!


このシリーズはスタンドFMとYoutubeと両方でも配信しています。

フルーティストが能楽師に弟子入り!

今回のタイトルはフルーティストが能楽師に弟子入りして分かった事。実は私は2019年より能楽師の一噌幸弘先生の所で能管を習っています。フルートは身近な楽器だと思うのですが、日本の伝統楽器、能管は日本の楽器であるにも関わらず、意外と遠い存在だったりしますよね。日本の伝統芸能に縁がある場合は別として、なかなか触れる機会がないのではないでしょうか。私も実際、自分がはじめるまでは、恥ずかしながら、能管と篠笛の違いもわかっていませんでした。

今回のフルートカフェは、そんな西洋の音楽を中心に取り組んでいたフルーティストが何故、一噌幸弘先生の所へ稽古に通うようになったのか、フルーティストからの視点で能楽を学びはじめて、どんな発見があったのかをお話します。

能管との出会いのきっかけ

私が能管と出会ったきっかけは民俗神楽の復興に関わった事でした。2011年にご縁が合って、福島県南相馬市江井地区の民俗神楽の事を知りました。民俗神楽とは、各地の土地に伝わるオリジナルの神楽。ある程度大きな単位になると、青森のねぷた祭りとか、琉球民謡とかになるのですが、民俗神楽はさらに小さな単位、地域全体よりも、村単位、村全体よりもさらに小さな集落単位で行われる祭事の事を指します。

最小コミュニティーのオリジナルの神楽

最小単位の地域コミュニティーの中で行われるイベントが民俗神楽で、各コミュニティー毎にオリジナルな神楽があるという所が最大の特徴です。神楽というと一般的には獅子舞を思い浮かべる方も多いと思います。確かに各地独特の獅子頭があったり、舞も特徴が違ったりするのですが、私が一番面白いと思うのは各地の神楽囃子の違いです。

土地土地で笛の種類、旋律が違ったり、太鼓が特徴があったり、隣合う集落でも地域によって大きく違ったりと面白いのです。また、皆、自分の所の神楽が一番、と思っている所も大変魅力的ですね。

そこにしかないオリジナルな音楽

100人ぐらいが暮す小さな集落、最小単位のコミュニティーの音楽というのは、音楽家にとっては魅力的なものです。民俗音楽の採取はバルトークが有名ですが、私も初めて、福島に行って、そこにしかない音楽、しかも、すごく小さな範囲内で、それがある事を知って、大変興味を持ちました。私が江井神楽を知った時は、残念ながらすでに四半世紀前に途絶えた状態でした。ただ、ラッキーな事にビデオが残っていたので、それを手がかりに復興を始めました。

江井神楽復興の道のり

フルート以外の横笛は一才吹いた事がなかったのですが、大体の音程はフルートで取れるので、横笛の旋律をフルートで採譜して、なんとか全体像を掴む事が出来ました。ただ、日本の伝統芸能に関しては知識がほとんどなく、そもそも江井神楽の笛が何を使っているものかもわからない状態。地元には代々笛を演奏する家があって、そこの家の方達に聞いても、今はもう演奏していないのでわからない、笛もたまたまあった笛だったり、地元の楽器屋(ヤマハ)のカタログから買ったとか、自分達がどういう笛を吹いているのか、イマイチ把握されていないのです。

迷宮入りした笛

それもそのはず。民俗神楽というのはそもそもその地域を出ない性質のものなので、本来は外部の人に伝える必要もなくて、なんとなくそのコミュニテイーの中で理解がとれていればよいもの。世界共通の規格に合わせる必要がないんですね。全国に流通する楽器店が出来る前は、笛も地域の竹で地域の職人が制作したものを使っていたはずで、その笛がどんな笛なのかと言えば、「その地域の笛」としか言いようがないのだと思います。

江井地区の集落センターには何本か雑に箪笥に入れてあった笛があって、どれもヤマハのカタログから買ったような笛だったのですが、ビデオと合わせてもどうも音が違う。それで、困って誰かに習えないかと思って、色々聞きあたったのですが、地元にはもう教えられる人がいなく、民俗神楽はその地域の人にしか教えられない、という事で、暗礁に乗り上げてしまいました。

一噌幸弘先生との出会い

私は普段はフルーティストとして活動しているのですが、数年前まではジャズのライブハウスを中心に活動していました。山下洋輔さんとフリージャズを演奏していた事もあって、企画によっては、割と音数が多い方だったと思います。それで、私と同じぐらい音数が多い笛奏者の方がいる、という事で周りの仲間から、恐れ多くも一噌幸弘先生のお名前をチラホラ聞く事がありました。

一噌先生は、伝統のある能楽家の家系ですが、ありがたい事に、能以外のシーン、私が活動していたジャズの分野にも進出されていたので、色々な所でお名前を聞く機会がありました。一度、生で拝聴したい、と思っていた所、ちょうどフライヤーを置きにいく予定があった下北沢のレディージェーンに一噌先生の出演スケジュールがあったので、その日に合わせていく事にしました。

まさかの飛び入り依頼

ジャズは即興性が高い音楽。その場の出会いのエネルギーを大切にする音楽なので、客席に仲間がきた時は飛び入り演奏がよく行われたりします。私も活動を始めた頃は、色々な所で飛び入りさせてもらって、そこでネットワークを開拓して自分の基盤を作りました。なので、飛び入りがありそうなライブは楽器を持っていくようにしています。

常に飛び入りするという状況になるかというと、そうではなくて、オリジナル中心に演奏していたりする場合は、リハーサルが必要なので、飛び入りがない可能性の方が高く、ただ、フルートの場合はカバンの中に隠して持って行けるので、気が楽だったりします。私はライブを聴きに行く時はほぼ必ずバックにフルートを忍ばせていたですが、この日の一噌先生のライブは、初めてお目にかかる機会だった事もあり、しかもCDのレコ発ライブだったので、まさか飛び入りはないだろう、と思って、楽器は置いてフライヤーだけ持って出かけました。

下北沢のレディージェーンは、歴史のあるライブハウスで、とっても雰囲気があります。そこで初めて能管を生で聞いて、堪能して、最高の気分で楽しんでいました。休憩中にオーナーが一噌先生に紹介してくださって、色々お話して、私が民俗神楽に取り組んでいる事、笛がわからず悩んでいる事をお伝えしたのですが、いきなり、次の言葉に耳を疑いました。

「じゃあ、次のステージで飛び入りしますか。」
「 !!!!!!!!」

会った事もないフルーティストにいきなり飛び入りの提案!共通の共演者がいたりと、接点がないわけではなかったのですが、それにしても寛大すぎる!

こんな事があるなんて思いもしなかったので、フルートを置いてきた事、悔しくて、悔しくて、大した荷物になる訳でもないので、置いてきた自分を呪ったのですが、しかも、CDまでいただいてしまって、恐縮しきりで帰路につきました。

帰ってから、早速私のCDをお礼と自己紹介を兼ねて郵送でお送りして、またタイミングをみてライブに伺おうと思っていた所、数日後に知らない電話番号から着信が。

「一噌です、MiyaさんCD聴きましたよ!』
「 ! ! ! ! ! ! ! 」

まさか聴いて頂いて、お電話までいただけるとは、夢にも思っていなかったので、かなり取り乱していたと思うのですが、今思い出しても、その寛大な対応、フットワークの軽さは、誰もやっていない事を開拓し続けているが故の凄さなのだろうな、と思います。

また、お電話でも色々お話させて頂いて、民俗神楽の笛の相談をしていたのですが、さらに驚きの言葉が。

「じゃあ、能管やりますか」
「 ! ? ! ? ! ?」

まさかの提案に、一瞬フリーズしたのですが、前回、飛び入りを逃した悔しさがあったので、思わず即答。

M:「やります!」
先生:「楽器はお持ちですか?」
M:「持っていないけれど、買います」

恥ずかしながら、この時、日本の笛について何も知らなくて、能管と篠笛の違いもわかっていませんでした。篠笛ぐらいの値段だろうと思っていたのですが、後でわかったのですが、能管は特殊な構造で製作も難しく、煤竹を使用する事もあって、値段はかなり高価なんです。とてもすぐに買える金額ではなかったのですが、最初はレンタルもできるとの事で、まずはレンタルからスタートしました。そのうち、レンタル代が嵩んできて、本気でやりたいという事もわかったので、借金をして購入。今は借金も返したのですが、最初から値段を知っていたら、気軽にやります、とは言わなかったので、うまく出来ているものだな、と思います。音楽をやっていると、お金の問題で出来ない、という事はなくて、それが本当に必要な事だったら、必ず何か方法が見つかる、という事を20年間続けてきて実感しています。その話はまた別の機会に詳しくお話しようと思います。

めでたく弟子入り

という訳で、めでたく楽器も手に入り、お稽古に通うようになりました。一噌先生が能管を進めて下さった理由は、江井神楽の笛を教えてくれる人が見つからない以上、日本の音楽で出典がはっきりしているもので、アクセスできる一番古い所からスタートするのが良いのでは、との事。

能楽は千年以上の歴史があり、民俗神楽よりは確実に古い事、民俗神楽は宮中で行われていた伊勢神楽が全国に伝播して行ったものと言われていますが、その中でも能楽師や音楽の家系の人々がその土地を訪ねた時に伝えた組手が取り入れられている事もあって、能楽をやっていれば、どこかに接点があって、繋がってくるだろうとの事。

確かにおっしゃる通りで、いずれ江井神楽の笛の謎は解けるのですが、その事はまた別の機会にお話します。次回は、フルーティストの視点から見た能管の世界、それぞれの特徴や違い、フルートと能管の両立は可能かなどについてお話しします。
どうぞお楽しみに!



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