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目に見えない世界をイメージする事

音楽の事を様々な角度から探求するトーク番組「フルートカフェ」へようこそ。生命の息吹を伝えるフルートの音色と共に、無意識の世界に広がる壮大な冒険へ一緒に参りましょう!

このシリーズはスタンドFMとYoutubeと両方で配信しています。

音楽は予言である

今日は音楽の先読みする力、予見力についてお話したいと思います。まず、予見の前に、プレリュードとして、予言についてお話しします。

音楽は予言である… 谷川俊太郎

谷川俊太郎(詩人)/内田義彦(経済学者)との対談本 「対話 言葉と科学と音楽」(藤原文庫)

この言葉を見た時、ハッとしたのですが、確かに音楽は言葉に比べると、はるかに情報伝達のスピードが速い。実際に演奏する体感として、耳は私達が知覚できるよりも多くの情報を捉える事ができて、何かイメージを伝える時、言葉で伝えるよりも、音で伝えた方が圧倒的に早く伝えられる。それを後から言葉で説明するとなると、確かに予言という事が出来るな、と思いました。

音楽の予見力

予言をするには、予見する事が必要になります。目に見えない情報を扱う音楽は時間芸術。時間の間隔を自在にコントロールする性質があるので、例えば子供の頃に聞いた曲は懐かしい気持ちになるし、初めて聞く和音は、予想のつかない未来を捉えて不安な気持ちになったりします。

予見とは「物事が起こる前に、それを前もって知ること」という意味。予見は音楽そのものという事ができます。例えば、スポーツだったら、サッカーのルールでみんなが目指す所は「ゴールを決める」という事ですよね。ただボールを蹴っているだけでは、ゴールに向かうとは限らない。ゴール方面に向かっていって最終的にゴールに向かってシュートする、という前提で行動を決めていきます。

音楽も一緒で、特に、曲を演奏する時は、「どんな音を、どんなタイミングで出すか」という事を音を出す前にイメージしないと、その通りに進みません。実際出た音は単なる結果であって、その前の「イメージ」の部分が、曲を演奏する上での最も重要な所です。

サピエンス全史からのヒント

イメージといえば、話は変わるのですが、先日、ベリーダンスの先生、AKO先生がサピエンス全史の話をしてくださって、それがすごく面白かったので、少しお話しさせてください。

「サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福 (ユヴァル・ノア・ハラリ・イスラエル出身の歴史学者・哲学者)」によると、私達人類が食物連鎖の頂点に立てたのは、「ないものをイメージする」事が出来たからだそうです。サピエンス全史の中では、「ないものをイメージする事」は「虚構を扱う」と訳されています。集団で虚構 (先祖の守り神や、精霊といったスピリチャルなものから、法人格など資本主義社会の構造まで)を信じる事で、脳が発達し、驚異的な進化を遂げたのが、我々人類だそう。

目に見えないものを扱う事

少し飛躍になってしまうかもしれませんが、私は音楽も出発点は虚構であると考えます。音楽は目に見えないもの、耳で捉えるものですが、例えば、耳で捉えなくても、脳内でイメージする事もできます。音のイメージの世界では、自由自在にどこへでも旅をする事ができます。

点火と時間の座標

音楽=虚構という発想は実際に演奏する時の体感から導かれたものです。大尊敬するミュージシャン、コンダクションを生み出し世に広めたButch Morrisのインタビュー。

こちらのインタビューで、ジャズとコンダクションの共通性に関して、ジャズの以下の要素などをコンダクションに持ち込んでいるとお話されています。

・Ignition (点火)
・Combustion (燃焼)
・Spontaneity (自発性)
・Motivation (動機づけ)

この中で、一番最初に出てくるのが「Ignition」である事に注目しましょう。この点火の要素というのは、私も言われるまで気が付かなかったけれど、大変重要な事であります。

燃焼するためには、まず火をつけなければいけない。この「火をつけよう」と思ってから、マッチを擦ってロウソクなど何か燃焼性のあるものに火を持っていく所までが「ignition」。まず、それがないと始まらない。そして、ignitionには時間的価値があって、火をつけようと思ってから実際に火がつくまでの時間 (=音を出そうと思ってから音が出るまでの時間)が、音楽において非常に重要な事なのですね。

ignitionの時間は、予見の時間とも言えます。スポーツに例えたら、短距離を走ろうと思った時、いきなり走り出す事はできなくて、走り出す前の踏み込みの所がありますよね。跳び箱でもいきなり箱は飛べなくて、助走と踏み込みがあって初めて目の前の箱を飛び越える事が出来る。

音楽にも同じ事が言えるのですが、拍子がある曲を演奏する場合、時間軸の座標を合わせるという要素も加わります。例えば4拍子の1拍目に音を出そうと思ったら、1拍目から始めたのでは間に合わなくて、その前から1拍目に間に合うように準備しますよね。

もっと言えば、旅行でも一緒で、アメリカに旅しようとしたら、旅行に必要なものを前の日までに鞄に詰めておきますよね。物理世界でも、情報空間でも、時間の座標があったら、そこに瞬間的にワープはできなくて、前からの流れから目指す事で、その座標に到達できます。

もしも、今、アドリブや曲の演奏の練習をしている方がいらっしゃいましたら、是非お伝えしたいのですが、フレーズを1拍目から意識するのではなくて、その前の段階から意識して、1拍目に到達した頃にはもはやリラックスして次の事が考えられるようにしておく事が重要です。そして、1拍目の前にしっかり意識を集中するためには、その前のフレーズが落ち着いた後、終わりの音は早めに手放して、次に備える習慣をつけます。フレーズは始めるよりも終わる方が難しいですが、(人生の色々な出来事もそうですね😊) 音のエネルギーを適切な所で手放す事ができると、必ず次の取り組むべきアイディアが浮かんできます。

予見力があるのに予測不可能?

これまでお話しきた音楽の予見力、音を出さずにイメージする事は、曲の演奏や、進行のあるアドリブを取る時は非常に有効な事ですが、即興や実験音楽において、予測不可能な音の魅力について語られる事も多いです。

音楽の醍醐味

イメージしないと始まらない音楽なのに、なぜ予測不可能な事が起きるのか。これが音楽が最高に面白い所で、一人ではどうやっても成立しないのが音楽だから。先述のサピエンス全史にも、人間は非常に社会性の強い生き物であると書かれていますが、音の世界も他人と関わる事で初めて成立するもので、完全に一人で完結するのは不可能。例えば、ソロ演奏でもお客様との共鳴によって変化するし、聴衆がいない場合も、構造物や環境で音が変化します。どうやっても一人では成立しないのが音楽で、その出発点が虚構である事。虚構を持つ者同士が音を合わせる事で予測不可能な反応が起きて、更なる進化へ向かう事。これこそ、音楽の醍醐味。音を通して、虚構が現実になる事は思い描いた事が全て実現する事を証明します。

重要なのは、イメージする事ができるかどうか。イメージする力(予見力)を意識する事で、さらに音の世界が広がっていきます。

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